36 名探偵マリエラ
目覚めはスッキリとして爽やかだった。
「ん……。
んんー!」
大きく伸びをした。
深呼吸をして、胸いっぱいに新鮮な朝の空気を取り込む。
「よし。
起きよう!」
元気よくベッドから跳ね起きた。
なんだか身体が軽い。
特にここ最近、下半身に溜まっていた熱さのようなものが、綺麗さっぱりなくなっているのだ。
これはやはり、昨日シエルの勧めに従って、はやく就寝したのが良かったのだろう。
「ちょっと、空気を入れ替えるか……」
二階の自室から窓を開けて、庭を見下ろす。
するとそこに、家庭菜園の野菜に水をあげているシエルがいた。
俺と目があった彼女が、舌舐めずりをする。
「じゅるり……。
お兄ちゃん。
昨晩はごちそうさまでした」
「ん?
ごちそうさま?
……ああ、ライラさんの料理の話か。
あれは美味かったよなぁ。
それはそうと、おはようシエル!
今朝はいい天気だな」
「うん、おはよう。
ふふ。
お兄ちゃんは、朝から元気そうだね」
「なんか凄く調子がよくてなぁ。
特に腰のあたりが、凄くすっきりしてるんだ」
「そうなんだぁ。
いっぱい溜まってたもんね。
んふふ……」
「……ん?
なんの話だ?」
「なんでもないよー。
こっちの話。
あ、お兄ちゃん。
そろそろ朝ごはんの準備を始めるから、みんなを起こして食堂につれてきてくれないかな」
俺は頷いてから、子どもたちを起こしにいくため自室を出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
昼食後。
子どもたちを別室で昼寝させながら休憩していると、ライラさんとマリエラが戻ってきた。
部屋に入って早々、ライラさんが俺に抱きついてくる。
「んー、1日ぶりのユウくん!
ただいまぁ!
あー、疲れたわぁ。
流石に馬車で往復6日の距離を、1日で行き来するするのは疲れるわねぇ」
「……まったくだ。
無理やり連れて行かれた、あたしの身にもなってほしい。
ユウ、ただいま」
マリエラも俺に抱きついてきた。
ふたりに抱きつかれた俺は、身動きが取れなくなる。
「んにゃぁ……。
ユウの感触。
ぐりぐり。
……ん?
あれ?
あれれ?
この匂い……は……」
「う、動けない……。
すみません。
ふたりとも、ちょっと離れてください」
名残惜しそうにしているライラさんを引き剥がす。
マリエラはなんだか首を捻って、考え事をしているようだ。
「改めて、お帰りなさい、ふたりとも。
なんだかお疲れみたいですね」
「そうなのよぉ。
お母さん肩がこっちゃって。
ねえ、ユウくん。
ちょっと肩を揉んでくれないかしら。
ほら、手を貸して」
「いいですよ。
って⁉︎
ちょ、ちょっとライラさん!
そこは肩じゃなくて、胸ですよ!」
無理やりおっぱいを揉まされた。
「あはぁん。
ユウくんってば、手つきがいやらしいんだからぁ。
そんな搾るみたいに触っちゃだめよぉ。
もっと優しく触らなきゃ、ね?」
「あわ……。
あわわ。
それはライラさんが強引に……」
俺はライラさんと、いつものようにじゃれ合い始める。
そこにシエルが混ざってきた。
「ふふ。
相変わらずみなさん、仲が良いですね。
お帰りなさい、おふたりとも。
ここに、お茶を置いておきますね。
――きゃ⁉︎」
カップを差し出してきたシエルの腕を、マリエラが無言で捕まえた。
「な、なんなんですか?
腕が痛いです。
離してください、マリエラさん」
マリエラはシエルの言うことを聞かず、そのまま彼女を引き寄せて、身体に鼻を近付ける。
「くんくん。
この匂いは……。
くんくん。
は⁉︎
ま、まさかお前……!」
「はぇー。
ユウくんのおっぱいマッサージは気持ちいいわねぇ。
どうしたのマリちゃん。
なにかあったのかしら?」
「お母さん!
のんびりイチャついている場合じゃない。
ユウが……。
ユウが悪い虫に食べられた!
なんてことだ!
う、うう……。
このっ、この雌犬め!
フシャーッ!」
尻尾を逆立てたマリエラが、シエルを突き飛ばした。
「きゃっ。
あいた」
「あ!
な、なにをするんだマリエラ!」
俺は尻もちをついたシエルに駆け寄り、抱きおこす。
いきなり突き飛ばされたシエルは、驚きに目を丸くしていた。
「マ、マリちゃん⁉︎
急にどうしちゃったの?
ダメじゃない。
お母さん、マリちゃんをそんな乱暴を働く子に育てた覚えはありませんよ!」
「ううー。
お母さん聞いて。
この雌犬が……。
こいつが、あたしとお母さんが留守にしている間に、ユウを襲って食べた!
うぅ……。
こいつめ!」
「きゃあ!
や、やめてください!」
マリエラがシエルに襲いかかろうとする。
けれども俺は、抱えおこしたシエルを抱きしめて、全身で包み込みながらマリエラから庇った。
「やめてくれ、マリエラ!
シエルがなにをしたって言うんだ。
こいつに手を出さないでくれ!」
「お、お兄ちゃん……。
あ、あ、あ……。
もっと強く抱きしめて。
きゅふぅん」
「あぁ!
またシエルのやつが盛りだした!
発情期の匂いがする。
こいつめ!
あたしの鼻は誤魔化せないぞ」
「ど、どうしたのマリちゃん!
乱暴すると、ユウくんに嫌われちゃうわよ?
いいから落ち着きない。
そうだ。
ほぉら、マリちゃんいらっしゃーい。
お母さんのおっぱいですよぉ。
マシュマロみたいに、ふわっふわですよぉ」
「そのポロンしたデッカい乳をしまえ!
ユウじゃあるまし、お母さんのおっぱいなんてどうでもいい。
ユウ。
その雌犬をこっちに引き渡して。
しつけをしてやる!」
「いやぁ!
マリエラさん、こわぁいっ。
ユウお兄ちゃぁん」
「大丈夫だ、シエル。
なにがあっても俺が守ってやる。
だから安心してくれ」
「はっ、はっ、はっ……。
おにい、ちゃぁん♡
そんなこと言われたら、わたし、ますますお股がぬるぬるになっちゃうよぉ」
「く……。
また匂いが強くなったぞ!
ユウから離れろ、この雌犬!」
俺は襲い掛かってこようとするマリエラを、ライラさんと協力して宥めながら、なんとかしてシエルを別室に逃した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
シエルを避難させたあと、ライラさんとふたりでマリエラの話を聞くことにした。
「どうしたんだマリエラ。
シエルの何が気にくわないって言うんだ」
「あの女は盛りのついた雌犬。
もう何度もそう言っている」
「それだけじゃ分からないわマリちゃん。
具体的にどういうことなの?
そりゃあ私もまだ完全に認めたわけじゃないけど、シエルちゃんは中々いい子じゃないの」
「……お母さんもユウも騙されてる。
あの雌犬は狡猾。
ユウ。
聞きたいことがある。
昨日の晩は、どうしていた?」
「昨日の晩?
えっとたしか……。
シエルに淹れてもらったお茶を飲んでいたら、なんだか身体がだるくなってきて……。
だから、そのまま寝たよ」
「多分それ。
きっとお茶に薬を混ぜられて眠らされた」
「……は?
シエルが俺を眠らせて、なんの得があるんだ?」
「あの雌犬はユウを眠らせてから、ユウの身体を使ってエッチな遊びをしている。
間違いない。
だって、ユウが無防備に寝ていたら、あたしだってエッチなことする。
だから間違いない」
「そんな状況なら、お母さんだって我慢出来ないでしょうねぇ」
マリエラとライラさんが、うんうんと頷きあっている。
「ねぇ、ユウ。
思い出して。
今までも、シエルのお茶を飲んだら眠くなったってことが、きっと何度もあったはず……」
言われて思い返してみる。
そういえば昔からシエルのお茶を飲んでは、朝までぐっすり眠ってしまうことがよくあった。
しかも、そういうときは決まって、目が覚めると下半身がすっきりしているのだ。
「……その顔。
やっぱり心当たりがあるみたいね」
「え?
そうなの、ユウくん」
「……は、ははは。
いやでも。
ま、まさかシエルに限って、そんなこと……」
「それを証明してみせる。
ユウ、お母さん。
協力して欲しい。
あの盛った雌犬を、罠にかけてやる……!」




