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31 おっぱいで窒息するならある意味天国

 (たてがみ)を逆立てた闇獅子ライオネルが、雄叫びをあげる。


「さぁこい小娘ども!

 ふたり纏めて掛かってきてもよいぞ。

 どうした、どうした!

 こないのなら、我からいくぞ。

 まずは氷帝ライラ。

 貴様から血祭りにあげてやろう!

 はぁ……!」


「いいぞ!

 やってしまうのじゃ、ライオネル!」


「ラ、ライラさん逃げてっ」


「ほぁああ!

 内から溢るる闇の力よ!

 舞い踊れ!

 真爪極連舞!」


 巨躯から繰り出された攻撃が、棒立ちのライラさんを襲う。


 獅子獣人の強靭な爪が、彼女の柔肌を引き裂こうと振り下ろされた。


「ぐぅははは!

 相変わらず手も足も出んではないか!

 弱きものよ。

 この闇獅子ライオネルの前に膝を屈せよ。

 そぉれ、封神黒獅子幻!」


「きゃん、きゃん!

 あはぁん」


「や、やめろぉ!

 ライラさんには手を出すな!

 お前の相手は俺だぁ!」


「黙っておれ小僧!

 貴様はライラとマリエラを始末した後、ゆっくりとくびり殺してくれよう。

 それまで恐怖に震えながら、大人しく待っておれ!」


「きゃん、きゃ――

 ……。

 …………。

 ユウくんを……殺す?」


 ライオネルの猛攻に晒されたまま、ライラさんがぽつりと呟いた。


「……聞き違いかしら?

 いま、ユウくんをくびり殺すと聞こえたのだけど」


 周囲の気温が急速に下がっていく。


 ライラさんの足下を中心に、地面が凍りつき始めた。


 氷帝の目がすっと細まる。


 だがライオネルは、彼女の纏う空気が変化したことに気づく様子もなく、調子に乗って攻撃を繰り返していた。


「ぐぁははは!

 聞き違いなどではないぞぉ。

 貴様も、マリエラも、その小僧も!

 我に敵対するものは一切の例外なく、命を刈り取ってくれる。

 それが覚醒した我、闇獅子ライオネルの前に立ったものの運命(さだめ)よ!

 覚悟せいっ。

 たっ、はっ!

 閃皇殺、蒼牙襲烈舞、これでとどめよ。

 絶闇暴裂襲ッ‼︎」


「……属性技『氷刃(アイスエッジ)』」


 氷の刃が、ライオネルの肉を切り裂いた。


「ぐぁあああ!」


 巨体が吹き飛ばされていく。


「ぐっ、ぐはぁ!

 き、貴様っ。

 どこにそんな力を隠し持っていた⁉︎

 往生際の悪い真似をしおって……」


「……黙りなさい」


 冷酷な顔をしたライラが、吹き飛んだライオネルに歩み寄っていく。


 彼女が足を踏み出すたびに、地面が凍りつき、冷気が漂う。


「黙れだとぉ!

 まぐれが1発当たったくらいで、調子に乗りよって。

 もう怒ったわ。

 遊びは終わりぞ!

 はぁぁ……。

 究極奥義!

 魔皇衝攻獅滅護翼空灼陣襲・封魔の舞!」


 ライオネルがライラさんに飛び掛かった。


 めちゃくちゃに手足を振り回し、乱打を浴びせかける。


 だがその攻撃はひとつの例外もなく、ライラさんの纏う薄氷に防がれていた。


「な、なんだぁ、その氷は⁉︎」


「……属性技『万年氷壁(アイスウォール)』。

 私は常に、この薄氷で身を守られている。

 あなた程度の攻撃では、私にわずかなダメージを与えることすら叶わない」


「な、なんだとぉ⁉︎

 貴様っ。

 卑怯だぞ!

 正々堂々と戦え!」


「お黙りなさいな。

 そうそう。

 万年氷壁(アイスウォール)は応用すると、こんな真似もできるのよ?」


 ライラが腕を伸ばし、ライオネルのあごを掴んだ。


「ふがっ。

 な、なにをする⁉︎

 こ、氷が」


 獅子の貌が凍り始める。


 やがて氷はライオネルの頭部をすべて覆い尽くした。


「ふぐぅー!

 んぐぅー!」


 (たてがみ)ごと首から上だけを、まるごと氷漬けにされたライオネルが、ジタバタともがきだした。


 鼻も口も氷に覆われ、息ができないらしい。


 バタンと地面に倒れ、足をバタバタさせながら、必死に頭の氷を割ろうとしている。


「ふ、ふ、ふぐぅぅ!

 ふぐぅぅ!

 ふぅぐぅぅぅッ!」


「無駄よ。

 あなたごときの力で、私の氷を砕けるわけがないでしょう。

 下郎にはお似合いの最後。

 ……本当はね。

 あなた、愉快だったから生かしておいてあげようと思っていたの。

 だけど、最後に選択を誤ったわね。

 自分がなにを誤ったか、理解は出来ているかしら?」


 ライオネルは耳も氷漬けにされている。


 声が届いているかも定かではないというのに、ライラさんは淡々と話しかけた。


「ふ……、ふぐぅ……。

 ん……。

 ん、ん、ん……」


 段々とライオネルの動きが鈍くなってきた。


 ぴくぴくと痙攣し始める。


「あなたの過ち……。

 それはユウくんを殺すと言ったこと。

 母親の目の前で、息子の殺害予告をする愚か者がいますか!

 言語道断よ!」


 ライオネルが一際激しく痙攣しだした。


 最後に一度、ビクッと大きく震えてから動かなくなる。


 頭だけを氷漬けにされた獅子の獣人は、だらんとその巨躯を地に横たえて、絶命した。


 ◇


 ライラさんがニコニコ笑顔で近づいてくる。


「やぁん!

 お母さん、怖かったぁ。

 でもユウくんが守ってくれたから、平気だったの。

 ありがと、ユウくんっ」


「え、いや……。

 俺は別に、なんにもしてないですが……」


「やん、やん。

 そんなことないわよぉ!

 お母さん、ユウくんが守ってくれるってわかってたから、勇気をだしてあんな怖い獣人と戦えたんだからぁ。

 全部ユウくんのおかげよぉ」


「そ、そうでしょうか……」


「そうなのっ。

 お母さんを守ってくれたり、マリちゃんを助けてくれたり、ユウくんは大活躍ね!

 さすがは私の自慢の息子だわぁ。

 かっこいいんだから。

 この、このぉ」


「あ、やめてっ。

 そんなところを突っつかないでください。

 そ、それより、マリエラがいないみたいですが、彼女はどこに?」


 いつの間にか姿を消していた彼女を探して、辺りを見回す。


「マリちゃんなら、逃げ出したアラゴンを追いかけて行ったわよ。

 そんなことは置いておいて……。

 ねぇ、ユウくぅん……」


 ライラさんが俺の頭に手を回してきた。


 ぎゅっと抱き寄せられる。


 ――。


 ――。


「――。

 ――。

 で、でもこれは……、――!」


 このままでは先ほどの獅子獣人のように、窒息死してしまう。


 いや、頭を氷漬けにされて死ぬのに比べたら、天国みたいな死にかただけど。


「ああん!

 じっとしてなきゃだめよぉ。

 ユウくん、ユウくん、ユウくぅん……。

 ユウくんみたいな息子をもてて、お母さん、とっても幸せぇ」


「ふぎゅう……!」


 俺はしばらくの間、ライラさんのなすがままに可愛がられた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 薄暗い地下道に、荒い呼吸音が響いている。


「ぜぇ、ぜぇ……。

 こ、ここまで来れば、もう追ってこれまい」


 アラゴンがひと息ついた。


 数人の護衛が、彼に手を貸している。


 老人は荒い息をはきながら、額に浮かんだ汗を拭った。


「まったくライオネルのやつめ!

 結局ライラに歯が立たなかったではないか!

 しかし、あやつら……。

 よくもこの儂を、このような目に……」


 たった数名の護衛を引き連れ、隠し通路から逃げだした自分が惨めになる。


 アラゴンは怒りに燃えていた。


「おのれ、王国勇者ライラ!

 必ずこの仕返しはしてやるぞ!」


「……お前にそんな機会はない」


 どこからか響いてきた声が、老人の独りごとを遮った。


「だ、誰じゃ⁉︎」


 護衛たちが彼を背中に隠す。


 足音すら立てず、暗がりから歩み出てきた姿に、アラゴンが安堵の息をはいた。


「な、なんじゃ。

 マリエラか。

 ライラかと思うて冷や汗をかいたわ」


「……どうして安心する?」


「……?

 どうしてもなにも、貴様は儂の飼い猫じゃろう。

 ほれ、逃げるぞ。

 貴様も儂の護衛につけ。

 これでひと安心じゃわい」


 息を整えたアラゴンが、ふたたび歩きだす。


 マリエラを伴ったつもりの老人は、彼女がついて来ないことに気づいて後ろを振り返った。


「どうしたのじゃ!

 ぐずぐずせずに、ついて来い」


「……どうして?」


「どうして、だと?

 ……ふん。

 えらく反抗的じゃな。

 貴様、わかっておるのか?

 生き別れの弟を探しているのだろう。

 組織の力なくして、弟と再会できると思うておるのか?

 ほれ。

 お主は黙って儂についてこい!」


 アラゴンがまた歩き始める。


 その背中をみつめながら、マリエラは小さくため息をついた。


「……ユウが、教えてくれた。

 お前たちは探してなかった。

 あたしはお前に、ずっと利用されていたって」


「なんじゃ?

 聞こえんぞ。

 もっと大きな声で話すのじゃ」


「でもあたしは怒っていない。

 だってまたこうして、ユウに会えたから……」


「……?

 なにを言っておる?」


「だからこれは復讐じゃない。

 ……ただのけじめ」


 マリエラが一歩足を踏み出した。


 どしんと地面を踏んだ軸足が、通路の床にひびを走らせていく。


「……属性技『雷光(ライトニング)』」


 直後、ごうっと唸りをあげてマリエラの蹴りが放たれた。


 蹴り足に纏った(いかづち)が、薄暗い通路を明滅させる。


「あぎゃ⁈」


 老人たちの上半身が、跡形もなく吹き飛んだ。


 残った下半身が、血と臓物を撒き散らしながら、バタバタと崩れ落ちる。


「……これで許してあげる。

 ばいばい」


 通路には、マリエラの呟きを聞くものは、もう誰もいなくなっていた。

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↓アルファポリスに投稿してみました。
よろしければクリックだけでもよろしくお願いいたします。
cont_access.php?citi_cont_id=985265293&si

三分で読める短編です。
三十代後半からの独身読者さんの心を抉る!
転生前夜。孤独死。

他にもこんなのも書いてます。
どれも文庫本1冊くらいの完結作品です。

心が温まるラブコメ。
読後、きっと幸せな気持ちになれます(*´ω`*)
猫の恩返し ―めちゃめちゃ可愛い女子転入生に、何故か転入初日の朝の教室で、皆の前で告白された根暗な僕―

お手軽転移ファンタジー。
軽く読めてなかなか楽しい。
異世界で伝説の白竜になった。気の強い金髪女騎士を拾ったので、世話をしながら魔物の森でスローライフを楽しむ。

ちょいとシリアスなのも。
狂った勇者の復讐劇。
復讐の魔王と、神剣の奴隷勇者
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