25 お姉ちゃん捜索、というかデート
正午前。
ライラさんと一緒に闘技場までやってきた。
燦々と降る日差しが、腕を組んで隣を歩くライラさんの淡い水色髪を、キラキラと輝かせている。
俺は彼女の整った容姿を盗み見て、ひとりでドキドキしていた。
やっぱりこのひとは、とんでもない美人だなぁ。
それにおっぱいも大きい。
しかもこの胸は大きいだけではなく、瑞々しくて張りがあるのだ。
(……ん?)
ふと思う。
俺ってこんなに、おっぱいが好きだったっけ?
もちろん男なんだし嫌いなはずはないのだけれども、なんだかライラさんと会ってからの俺は、以前にも増しておっぱいが好きになっている気がする。
無自覚のうちに、幼児退行しているようだ。
これは危険な兆候である。
まぁそれはともかくとして、こんな超絶美人と腕を組んで歩けるなんて、俺はとんでもない幸せ者だとも思う。
ライラさんの横顔をもう一度眺めてから、ひっそり頬を赤くした。
「あらあら?」
――、首を傾げた。
「……なんだか闘技場の様子がおかしいわね」
「あれ?
ほんとだ。
立ち入り禁止になってますね。
どうしたんだろう」
近くで所在なさげに立っている警備の男性を見つけ、話を聞いてみる。
「出入り口が封鎖されてる理由?
ああ、昨日すげえ戦いがあってな。
闘技場がめちゃくちゃに壊されちまったんだよ。
――って、げえ⁉︎
そ、その女は昨日の⁉︎」
「はぇ?
私?
私がどうかしたのかしら。
それより警備員さん。
あなた闘技場の関係者よね?
マリちゃん……、えっと、マリエラの居場所を知らない?
居場所を知っている人でもいいのだけれど」
ライラさんに慄いていた男が、ぴんと背筋を伸ばした。
ぶんぶんと首を横に降る。
どうやら彼は、なにも知らないようだ。
「うーん。
困ったわねぇ」
「ですね。
関係者のひとりでも捕まえられれば、マリエラの居場所もわかるかと思いましたが、閉鎖されていて誰もいないんじゃなぁ……」
「仕方ないわねぇ。
街で情報収集しましょうか」
「情報収集、ですか。
なにか当てがあるんですか?」
「ないわよぉ?
でもこういうのは街で聞き込みって、相場が決まっているのよ。
ユウくんと一緒に、ご飯を食べて聞き込みぃ♪
ユウくんと一緒に、お買い物をして聞き込みぃ♪
んー!
お母さん、なんだかわくわくしてきちゃった!」
「いやそれって、ただのデートなのでは……」
ライラさんが俺の胸に、しな垂れかかってきた。
上目遣いで見上げてくる。
至近から彼女を見下ろす形になった俺の目は――。
「……ねぇ、ユウくぅん。
聞き込み。
お母さんと一緒じゃあ、いや?」
「い、嫌じゃないです。
むしろ、望むところです」
ライラさんが、笑顔でパンと手を叩いた。
「まぁ、嬉しい!
うふん。
ユウくん、ユウくぅん。
じゃあ早く街にデート……。
じゃなくて街にマリちゃんを、探しに行きましょう!」
楽しげにはしゃぐ彼女に手を引かれ、俺たちは都市の中心部へと足を運んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ユウクスとライラが、仲良く手を繋いで闘技場を立ち去っていく。
その後ろ姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、警備の男はようやく全身の緊張を解いた。
「た、たいへんだ……。
昨日の今日で、さっそく現れやがった!」
実はこの男。
オット・フット都市連合国を裏から操る大規模犯罪組織、『八老会』の下っ端構成員であった。
彼は組織の命を受け、警備員に扮しながら、ライラが闘技場に姿を現さないか見張っていたのだ。
「とにかく、組織に知らせないと……!」
男はひと言呟いてから、慌てて駆け出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ライラさんと一緒に、マリエラの情報を求めて街を歩き回る。
ちょうどお昼の時間だったから、屋台の珍しい傭兵料理なんかを食べたり、観光名所を巡ったり。
俺たちは精力的に街を回った。
そうそう。
訪れた観光名所は、なかなか迫力があった。
なんでも遥かな昔に、大陸を恐怖のどん底に陥れた終末の獣が、ここ傭兵都市グロウラインでも暴れたことがあるらしい。
その大破壊の跡が名所になっていたのだ。
大地を深く抉る巨大な獣の爪痕を眺め、ライラさんとふたりして「おおー、これは凄いわねぇ」とか驚きの声をあげる。
屋台で買った甘いお菓子を、仲良く分け合いながらだ。
とても幸せである。
名所観光のほかにも、公営の賭場を荒らして回ったり、街路脇のベンチに肩を寄せ合いながら腰掛け、行き交う人々をのんびり眺めたりして、俺たちは楽しい時間を過ごしていた。
今度は防具屋に、ショッピングに訪れた。
「ユウくん、ユウくん!
じゃーん!
これなんてどうかしら?」
「おおっ。
新鮮ですね、ライラさんの傭兵姿!
いいですねぇ、似合ってます」
「次はユウくんの番よ!
うふふ。
ユウくんなら絶対どんな装備も似合うわね。
お母さん、張り切ってコーディネイトしちゃうんだから!」
ふたりして、あれこれ装備を見繕ってはしゃぐ。
「はぇー。
しかし武器屋も防具屋も、やっぱり都市ごとに置いてある商品に特色がありますねぇ。
見て回るだけでも楽しいです!」
例えばイスコンティ王国だと、騎士の甲冑なんかの取り扱いが多いのだ。
それがこっちだと、傭兵用の軽装備が多く扱われ、罠や炸裂弾みたいな一風変わったアイテムなんかも売られている。
「へへへ。
どうでしょうかな、お客さん。
うちの商品は。
いい品揃えでしょう」
奥から現れた店主らしき男性が、揉み手をしながら寄ってきた。
「うーん、どうかしら。
豊富だけど、ちょっと品質は控えめかも。
これじゃあ敢えて買ってまで、ユウくんに持たせておくほどではないわねぇ」
「……む。
ずいぶんな仰られようですな。
なら、こちらの防具なんてどうですか?
炎猛牛のなめし革を何層にも貼り合わせた、最高級の胸当てです。
これ以上の商品など、そうはありますまい」
「うーん……。
いまいちねぇ。
ユウくんには見合わないわねぇ」
「……ふん。
またまた、そんな風に買い渋った振りをして。
わかったぞ。
本当は冷やかしなんだろう?
こんな小僧と小娘が、うちみたいな高級店にくるなんておかしいと思ったんだ」
なんか感じの悪い店主だ。
せっかくのライラさんとのデートに、水を差された気持ちになる。
俺はふたりの会話に割って入った。
「いや、ライラさん。
防具は不要ですよ。
もう出ましょう」
「しっしっ。
はやく出て行け。
お前のような小僧に、うちの防具は百年はやいわ」
「ああ、いや違うんです。
俺にはこの店の防具は必要ないです。
なにせこの……」
ライラさんが以前買ってくれた鎧をみせつける。
キラキラと光る純白の鎧だ。
「……伝説級装備『白龍の鎧』があるんで」
「なに?
見栄をはるのも大概にせい。
ははは。
白龍の鎧なんて、儂でもお目にかかったことがない。
それをお前みたいな小僧が、白龍の……。
ん?
は、白龍の……鎧⁉︎
んんっ⁉︎」
どうやら防具屋だけあって、目利きくらいはできるらしい。
俺の鎧を凝視して、彼は目を白黒させている。
「ええ。
そしてこれが、星降りの剣です。
どっちもあなたがいま追い払おうとした、こちらの女性が買ってくれたものですよ」
「んなぁッ⁉︎」
店主が目をひん剥いて、口を開けた。
あごが落ちそうなほどだ。
「と、まぁそういうわけなんで、お邪魔しました。
さぁ、ライラさん。
お店を出ましょう」
「ええ、そうしましょうか」
腕を組んで外に出ようとする。
「……ねえ、ユウくん。
いまお母さんを庇ってくれたのね?
もうっ。
なんていい子なのかしら!
このっ、このっ。
ユウくんってば、このぉ!」
「や、やめて下さいライラさん。
頬っぺたを突っつかないで!」
いちゃつきながら歩き出した。
そのとき……。
「あ、そうだわ⁉︎」
ライラさんがなにかを思い出して、ぽんと手を叩いた。
「お母さん、楽しくてすっかり忘れ……」
店主に向き直る。
「ねえ、お店のひと。
ちょっと聞いていいかしら。
マリエラって子は知ってるわよね?
居場所を知りたいんだけど」
ライラさんの言葉で思い出した。
そう言えば今日のこれデートではなく、マリエラの捜索だったのだ。
「教えてくれたら、さっきの鎧を買ってあげるわよ?」
「い、居場所は知らない」
店主があごを落としたまま、首を左右に振った。
残念だが、どうやら空振りだったようだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
店を出ると、もう陽が傾いていた。
沈む夕陽に、寄り添いあう俺たちの影が長く伸びる。
「今日はマリエラの居場所、わかりませんでしたね」
「まぁこういう日もあるわよ。
明日また探しましょう。
でもお母さん。
今日はユウくんと1日中一緒にいられて、楽しかったわぁ」
ふたりしてテクテクと、宿への帰路を歩く。
なんとなく取り留めのない話がしたくなって、俺はライラさんに声をかけた。
「ねぇ、ライラさん――」
「……しっ。
ユウくん、静かに。
驚かずに聞いてちょうだい。
私たち、誰かにつけられているわ」
「えっ⁉︎
つけられ……?
いったい誰に」
「……このタイミングでの尾行。
もしかしたら、マリちゃんの関係者じゃないかしら」
ふと気付いた。
今日ライラさんが俺を連れ回して、街で派手に遊んでいたのは、この尾行者を釣るためだったのだ。
なぜつけられているのかは俺なんかには分からないが、きっとライラさんには分かっているのだろう。
思慮深い彼女の行動に感服する。
「……さすがはライラさんですね。
こうして尾行を誘き出すために、デートの振りをしていただなんて。
俺なんて、すっかり本気で遊び呆けてしまいましたよ」
「え⁈」
「……あ、あれ?
違いましたか?
さすがはライラさんだなって、感心したんですが」
「ユウくんが、私に感心……⁉︎
ち、違わないわよぉ?
おほ、おほほ。
やっとユウくんにも理解できたようね。
これは全部、追跡者を釣り上げるために、お母さんが仕掛けた罠だったんだから!」
「やっぱり!
ライラさんは凄い!」
「そ、そうでしょう?
おほ、おほほほほ……」
ライラさんはポーチから出した手ぬぐいで、汗を拭っている。
「じゃ、じゃあユウくん。
お母さんはちょっと、尾行のひとにマリちゃんの居場所を聞いてくるわね」
「はい。
いってらっしゃい」
「すぐに済むから、ユウくんはあそこの酒場に入っていて。
はい、これお金よ。
好きなお料理を食べながら、のんびりと待っていてね」
ライラさんは俺に金貨を1枚握らせて、そそくさと姿を消した。




