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22 母娘激突

 結界を破ったマリエラが、俺に向かって一直線に駆けてくる。


 観客たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「うわぁ⁉︎

 あの子、真っ直ぐ走ってきます!

 どうしてこっちにくるんだ⁈」


「ユウくん!

 下がっていて!」


 マリエラの進行方向に、ライラさんが割り込んだ。


「邪魔をするな乳女!

 どけぇ!

 会いたかった!

 ずっとずっと、会いたかったんだから!」


「そう言われて素直にどくと思うのかしら?」


「うるさい!」


 マリエラの繰り出した蹴りがライラさんに迫る。


 だがそれを最小限の動きで躱したライラさんは、逆にマリエラに剣の柄を叩き込んだ。


「あぅう!

 な、なんだ⁉︎

 この乳女、強い!」


「ここじゃあユウくんを巻き込みかねない。

 いったん試合場に戻ってもらうわよ!

 属性技『氷雪吹雪(アイスブリザード)』!」


 ライラさんの抜き放った剣から、猛烈な勢いの吹雪が発生した。


「く……!

 押し戻され……⁉︎

 うわぁ⁉︎」


 油断していたマリエラは、その直撃をくらい吹き飛んでいく。


 試合場の中央まで吹っ飛ばされた彼女は、轟音を鳴らしながら地中深くまでめり込み、姿が見えなくなった。


「ふぅ。

 これは随分な暴れ猫だわね。

 じゃあユウくん。

 お母さんちょっと、躾けの悪い猫ちゃんのお仕置きにいってきます。

 ユウくんはここで大人しくしていてね」


「は、はい。

 気をつけて!」


 こくんと笑顔で頷いてから、ライラさんがトンと軽く跳んだ。


 その跳躍だけで、観客席一番後ろのこの場所から、試合場へと降り立つ。


「……出てきなさいマリエラ。

 わかっているのよ。

 あなたがあの程度の攻撃で、倒れるわけがない」


 ライラさんの呼びかけに応じるように、地面がひび割れていく。


 割れた大地が吹き飛んだ。


 激しい雷が、地から天へと逆流する。


 白髪褐色肌の猫獣人が這い出てきた。


 彼女は怒りに燃えている。


「…………殺す」


 マリエラの体からは、バリバリと無尽蔵に電撃が放電されている。


 闘技場を所構わず雷撃が襲う。


 そのうちの一筋が、ライラさんに襲い掛かった。


 だが彼女は余裕の笑みで、片手をかざす。


 かと思うと襲い来る稲妻を手のひらで受け止めた。


「……『殺す』?

 物騒ねえ。

 でもそれは私のセリフよ。

 いま私のユウくんに手を出そうとしたわね?」


「『私の』……だと……?」


 マリエラが犬歯を剥く。


 ライラさんの瞳が、すっと細まった。


 彼女を中心に周囲の温度が下がり、白い冷気が至る所に現れる。


 ライラさんの足下から、試合場が凍り付きだした。


 一面の銀世界に、いくつもの稲光が明滅する。


 その風景はある種、幻想的ですらあった。


「……綺麗。

 なにこれ……」


 誰かがポツリと呟いた。


 この世ならざる景色に、逃げ惑っていた観客たちが足を止め、試合場を振り返った。


 彼らと一緒に、固唾を飲んでふたりを見守る。


「お、おい……。

 見てみろよ。

 試合場で、誰かかマリエラと向き合ってるぞ」


「まさか、戦うつもりか?」


 衆人が見守るなか、最強の女勇者と、最恐の女獣王のぶつかり合いが始まった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 先手を取ったのはマリエラだった。


 予備動作もなく地面と平行に真っ直ぐ跳んだ彼女は、ライラに空中から回し蹴りを仕掛ける。


「破裂しろ、乳女ぁ!」


「甘いわよ!」


 ライラが氷剣ミストルティンで蹴りを受け止めた。


 衝撃の余波が稲妻とともに突き抜ける。


 観客席のフェンスにぶち当たって、闘技場を崩壊させた。


「ぐるるぅ!

 死ね!

 死ね死ね、死ねぇえ!」


 マリエラの攻撃は止まらない。


 宙に浮いたかのようにその場に静止した彼女は、連続して蹴りを放つ。


 二撃、三撃、四撃……。


 どんどん速くなる。


 もう視認すら出来ない。


 おそらくは数十撃にもなるだろう蹴りの雨を、頭上からライラに浴びせかけた。


 しかもその一撃一撃が、Sランクの魔獣すら爆散させるほどの威力の攻撃。


 だがそれをすべて、ライラは握った一本の剣で撃ち落としていた。


 マリエラの攻撃を凌ぎきったライラが反撃の一刀を繰り出した。


「はぁあ!」


「ちぃっ!」


 マリエラは大きく後ろに跳躍してその攻撃をかわす。


 四つん這いになって着地した彼女は、猫科の猛獣が獲物に襲い掛かるときのように姿勢を低くし、唸りをあげた。


「ぐるるるるぅ……。

 なんだ、お前は!

 なんで死なない!」


「なんでって言われても困っちゃうわね。

 さぁ、今度はこっちの番よ。

 属性技『雪渓谿間(ダイヤモンドクレバス)』!」


 ライラが剣を一閃した。


 衝撃波が走る。


 雪の渓谷に走った大地の裂け目のように、地を割り闘技場を崩しながら、マリエラに襲い掛かる。


「く……⁉︎

 属性技『電磁結界エレクトロニックバリア』!」


 間一髪のタイミングで、マリエラが電撃による防御壁を展開する。


 衝撃波が霧散した。


「なんてやつだ⁉︎

 こんな強いやつ、戦ったことない。

 ……は⁉︎

 乳女は⁉︎

 あいつは、どこにいった!」


「ここよ」


 死角に潜り込んでいたライラが、剣を振り抜く。


 マリエラは咄嗟に身をよじった。


 だが躱しきれない。


「っ、あぐぅ!」


 褐色の肌に、赤い血の線が引かれる。


「まだよ!

 はぁぁ……!」


 ライラが追撃を仕掛けた。


 縦横無尽に振り抜かれた剣は、いく筋もの斬り傷をマリエラに刻んでいく。


「くはぁ……!

 こ、こいつ!

 このぉ……」


 マリエラが反撃を試みる。


 しかしライラには通じない。


 戦いの趨勢(すうせい)は徐々に、ライラ優勢に傾いていった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 闘技場にわずかに残った命知らずの観客たちが、ぽかんと口を開けて試合場を見つめていた。


「う、嘘だろおい……」


「あの獣王マリエラが……。

 押されている……」


 彼らの言う通りだった。


 戦いは一方的な展開になりつつあった。


「しぶとい猫ちゃんねぇ。

 そろそろ楽になればどうかしら?」


「はぁ……、はぁ……。

 やられて、たまるか。

 やっと会えたんだ。

 あたしの。

 あたしの一番大切な……」


 雷猫マリエラは既に満身創痍だった。


 それに対して氷帝ライラは、わずかに傷を負ってはいるものの、健在である。


 このままではやられる。


 起死回生の大技で、逆転を狙うしかない。


 マリエラが覚悟を決めた。


「……いま、雰囲気が変わったわね。

 ……そう。

 終わりにするつもりなのね?

 いいでしょう。

 かかってきなさい」


 ライラも呼応して覚悟を決めた。


 バチバチと闘技場全体を明滅させていたマリエラの纏う電撃が、すべて消え去った。


 だがこれは嵐の前の静けさだ。


 これまで以上に激しいエネルギーが、マリエラの小さな体内に凝縮され、渦巻いている。


「へぇ……。

 ほんとうに凄いわね、あなた。

 どこにそんな力を隠し持っていたのかしら」


 ライラの頬を一筋の汗が伝った。


「覚悟しろ、乳女……」


「うふふ……。

 こんな緊張感、久しぶりね。

 受けて立つわ。

 全力をぶつけてきなさい」


 マリエラが攻撃の構えをとった。


「……超級属性技。

 『荒れ狂う雷龍神の降(カンナカム)……』」


 迎え撃つライラが不敵に笑う。


「……超級属性技。

 『永劫の果てに止まる世(アブソリュートゼ)……』」


 ふたつの超絶的な力がぶつかり合おうとしている。


 まさにそのとき――


「いまだ!

 マリエラを確保しろ!」


 横合いから現れた男たちが、マリエラに矢を射かけた。


 闘技場のプロモーター配下の者たちだ。


 彼らは暴走したマリエラを鎮めるべく、遣わされてきたのである。


「一斉に矢を放て!

 うてぇ!」


 大型魔獣の捕獲に使う鎮静剤を、たっぷりと鏃に染み込ませた矢を、男たちが一斉掃射した。


「うるさい!

 あたしの戦いを邪魔するなぁ!」


 マリエラが技を中断して、男たちに雷を放った。


 激昂した彼女は忘れていた。


 いま自分が何者と向かい合っているかを。


 ライラの瞳がキラリと輝く。


 当然ライラは、このようなチャンスを見逃すほど甘い女ではない。


「隙あり!」


 振り抜いた剣が、マリエラの肩から脇腹に大きな刀傷を刻んだ。


「ぎゃあ⁉︎」


「この私を前に余所見をするなんて、馬鹿な子ね。

 とどめよ!

 あの世にお逝きなさい!」


 返す剣で首を狙う。


 この一撃はマリエラの首を跳ねるだろう。


 それで終わりだ。


 ライラは勝利を確信した。


 だが、しかし――


「待って!

 待ってライラさん!

 殺しちゃダメだ!

 なにかおかしい!

 そのひとは殺しちゃだめです!」


 血相を変えたユウクスが、戦いの場に割り込んできた。

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↓アルファポリスに投稿してみました。
よろしければクリックだけでもよろしくお願いいたします。
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三分で読める短編です。
三十代後半からの独身読者さんの心を抉る!
転生前夜。孤独死。

他にもこんなのも書いてます。
どれも文庫本1冊くらいの完結作品です。

心が温まるラブコメ。
読後、きっと幸せな気持ちになれます(*´ω`*)
猫の恩返し ―めちゃめちゃ可愛い女子転入生に、何故か転入初日の朝の教室で、皆の前で告白された根暗な僕―

お手軽転移ファンタジー。
軽く読めてなかなか楽しい。
異世界で伝説の白竜になった。気の強い金髪女騎士を拾ったので、世話をしながら魔物の森でスローライフを楽しむ。

ちょいとシリアスなのも。
狂った勇者の復讐劇。
復讐の魔王と、神剣の奴隷勇者
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