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15 母だからこそ理解を示すこともある

「ははは!

 そうだ!

 わしにはまだ、こやつらがおる!

 いけぇい!

 見事ライラを仕留めてみせよ。

 さすれば人質に取った、貴様らの息子や娘を、一匹くらい返してやってもいいぞ!」


 4人が噛み殺さんばかりの視線で、キャンタン大臣を睨んだ。


 彼らは舌打ちをしてから、諦めたような表情でライラに向き直る。


「わしは避難する!

 お前たちは、しかとライラを討ってこい!

 命を惜しまず戦うのだぞ!」


 キャンタンが逃げ出した。


 部屋に残っていた私兵たちがそれに続く。


「待ちなさい。

 どこへ逃げるの、豚」


 追おうとするライラの前に、北風のヤンが立ちはだかった。


「邪魔よ、あなたたち」


「……ライラよ。

 貴殿に恨みはないが、ここで潰えてもらう。

 悪くおもうな。

 やるぞ、兄妹たち。

 俺に呼吸をあわせろ!」


「わかった!」


「承知」


「まかせて兄様!

 いっくわよぉ!」


「「「「属性技『鎌鼬旋風(ウィールウィンド)』!」」」」


 部屋の四隅に陣取った、疾風怒濤の四兄妹。


 彼らはタイミングをあわせて属性技を放ってきた。


 数百にもおよぶ風の刃が、四方八方からライラを襲う。


 だが彼女は反応すらせずに、棒立ちしていた。


「かわせぬとみて諦めたか!

 口ほどにもない。

 氷帝ライラ、破れたり!」


「かわす?

 どうしてかわす必要があるの?」


 無数の鎌鼬が、ライラに降り注いだ。


 彼女の白い柔肌を切り裂くかに思われた風の刃は、だがしかし、薄皮一枚切ることもできない。


 すべてがライラの纏う薄氷に弾かれていた。


「な、なにぃ⁉︎

 すべて、防がれただとぉ⁉︎」


「……属性技『万年氷壁(アイスウォール)』。

 私は常に、この薄氷で守られている。

 あなたたちの攻撃程度、かわすまでもないわ」


「……くっ。

 さすがは最強の呼び声高き、氷帝ライラ!

 されど、たかが薄氷!

 俺たち兄妹に破れないわけがない!」


「そうだ!

 僕たちの実力はまだこんなものじゃない。

 いくよ!

 今度は出し惜しみなしだ!

 あれをやろう!」


 4人が次の技を繰り出すべく、意識を集中し始めた。


 その無防備な姿に、またライラがため息を吐いた。


「……隙だらけね。

 まぁいいわ。

 待ってあげるから、気の済むまで好きに攻撃なさい。

 おいたが済んだら、道を開けるのよ?」


「……ふっ。

 氷帝ライラよ。

 たしかに貴殿は強い。

 だがその驕りが命取りとなろう。

 北風よ!」


「僕たち疾風怒濤の四兄妹が力を合わせれば、その力はSクラス冒険者にも比肩し得る。

 この意味をしっかり考えるべきだったね。

 南風よ!」


「あたし好みのお姉さまなんだけど、仕方ないわね。

 頑張って生き残ってね。

 ……東風!」


「……ライラ殿。

 お覚悟めされよ。

 西風来れ!」


 大臣邸がガタガタと揺れ始める。


 大気が震えだした。


 天井よりもさらに高く、空の辺りになにか巨大な気配を感じたライラは、頭上を見上げた。


「へえ……。

 これは、これは。

 言うだけあって、本当に凄そうじゃない」


 屋敷の上空で、何かが爆発した。


「「「「複合属性技!

天より来たりて(マイクロ)大地を穿つ強風( バースト)』!」」」」


 猛烈な勢いで、空から暴風が真っ直ぐ降ってきた。


 質量すら伴うかのごときその強風は、屋敷をまるごと押しつぶし、大地を激しく叩いて轟音を打ち鳴らす。


 地震でも起きたかのように、地面が震えた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一足先に屋敷から離脱していた四兄妹が、崩壊した大臣の邸宅を眺めている。


「はぁ、はぁ……。

 や、やったか?」


「うん!

 氷帝ライラは生き埋めだ!」


「……くっ。

 だめだ。

 立っていられん……」


「あ、あたしもぉ……。

 この属性技は、消耗が激しすぎるのよぉ」


 4人がへたり込む。


 彼らは勝利を確信していた。


 だがそのとき、周囲の温度が急激に下がりだした。


 一切が凍り始める。


「よいしょっと……」


 ガラガラと、音がした。


 瓦礫の山となった屋敷跡から、無造作にライラが這い出てきたのである。


「……ふぅ。

 もう気は済んだかしら?」


「そ、そんなバカな⁉︎

 あの複合属性技は、上級上位の位階に属する技なのだぞ!

 な、なのに、こんな……」


 ライラはまったくの無傷だった。


 服についた埃を、パンパンと手で払う。


「……私は豚を追うけど、まだやるつもりかしら?

 できれば引いて欲しいのだけど」


「引けだと?

 なぜだ。

 なぜ我らを殺さない?

 ようやく力量差が理解できた。

 貴殿ならば、我らを皆殺しにすることくらい、容易かろう!

 それこそ、赤子の手を捻るように……」


「うふふ。

 私は母よ。

 お母さんはどんなときも、赤ん坊の手を捻ったりしないの」


 ライラが4人に背を向けた。


「それにさっきキャンタン大臣が言っていたわね。

 あなたたちの息子を、人質にしているって。

 ……なら仕方がないわ。

 息子を人質にするなんて、なんて悪行……!

 息子を盾に脅されていたのね?

 なら私は、あなたたちの罪を許しましょう」


 ライラが足を踏み出した。


「これから私はあの豚をやる。

 いまがチャンスよ?

 あなたたちはそこでへばっていないで、はやく息子を助けに動きなさい。

 ……じゃあね」


 氷帝ライラがひらひらと手を振って、一面氷漬けになった屋敷跡を歩み去った。


「助かった、……のか?」


「ぼ、僕たち……。

 見逃されたの?」


「ああ。

 どうやらそうみたいだ。

 完敗、だな……」


「ライラ、姉様……。

 あたし、お姉様についていきます」


 4人はしばし呆然としながら、ライラが歩み去った方向を、じっと見つめていた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 キャンタン大臣は、血相を変えて夜の街路を逃げていた。


 ブヒブヒと、息を切らせている。


 だが腹に蓄えた脂肪がぷるぷると震えるのみで、彼の歩みは遅い。


「ええい!

 なぜわしがこんな目に。

 馬車の手配はまだか!

 どうせあの兄妹ではライラは仕留められん。

 あやつらが足止めをしている間に、安全な場所まで避難するのだ」


 キャンタンが配下に当たる。


「残念。

 もう遅いみたいね」


 大臣の頭上に向けて、冷たい風が吹いた。


 声につられて、大臣が背後を見上げる。


 建物の屋上だ。


 そこには氷帝ライラがいた。


 彼女は夜空に輝く月を背負い、酷薄な冷笑を浮かべている。


「ラ、ライラ……。

 もう追いついてきたのか……」


「う、うわぁ⁉︎

 殺される!

 殺されるぅ!」


 キャンタン大臣の配下が、我先にと逃げていく。


 それに続こうと走りだした大臣は、腹に蓄えた脂肪の重みのせいで、その場にバタンと倒れた。


「ま、待てぇ!

 戻ってこい貴様らぁ!

 わしを守るのだぁ!」


「うふふ。

 誰も戻ってこないわねぇ?

 あなた、人望ないんじゃないかしら。

 さてと……」


 ライラがトンと跳躍し、街路へと降り立った。


 氷剣を引き抜き、一歩一歩、大臣のもとに歩み寄っていく。


「ひ、ひぃぃ⁉︎

 来るな!

 来るなぁ!」


「もう観念なさいな……。

 いくら豚にしても、見苦しいわ」


「助けてくれ!

 そうだ、金をやろう!

 い、いや、金以外がいいか?

 なんでもやるぞ!」


 ライラはまったく取り合わない。


 必死の命乞いを無視して、剣を振り上げた。


 低温結露した刀身が、月明かりを鈍く反射する。


「ねえ、大臣。

 最後に聞いてあげる。

 あなた、自分のなにがいけなかったか、理解しているのかしら?」


「わ、わしは悪いことなどしておらん!」


「……そう。

 愚かな男ね……」


 剣が振り抜かれた。


「ぎゃ⁈」


 噴水のように血が噴き出す。


 屠殺された豚のようにキャンタンが崩れ落ちた。


 失われた首から流れ出した血液が、直ぐさま温度を失い、凍り付いていく。


「……あなたの罪は、ユウくんに手をだしたこと。

 氷結地獄(コキュートス)で反省なさい」


 ライラが剣を鞘にしまう。


「さて。

 帰ってまた、ユウくんのお世話しなきゃ!

 ふんふん、ふふーん♪」


 ライラの表情が、氷の女帝から母の顔に戻っていく。


 彼女は鼻歌を歌いながら夜の闇に消えていった。

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↓アルファポリスに投稿してみました。
よろしければクリックだけでもよろしくお願いいたします。
cont_access.php?citi_cont_id=985265293&si

三分で読める短編です。
三十代後半からの独身読者さんの心を抉る!
転生前夜。孤独死。

他にもこんなのも書いてます。
どれも文庫本1冊くらいの完結作品です。

心が温まるラブコメ。
読後、きっと幸せな気持ちになれます(*´ω`*)
猫の恩返し ―めちゃめちゃ可愛い女子転入生に、何故か転入初日の朝の教室で、皆の前で告白された根暗な僕―

お手軽転移ファンタジー。
軽く読めてなかなか楽しい。
異世界で伝説の白竜になった。気の強い金髪女騎士を拾ったので、世話をしながら魔物の森でスローライフを楽しむ。

ちょいとシリアスなのも。
狂った勇者の復讐劇。
復讐の魔王と、神剣の奴隷勇者
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