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14 怒れる母の大臣邸襲撃

 ――その晩。


 キャンタン大臣の邸宅を警備する彼の私兵たちが、慌ただしく走り回っていた。


 食事を摂っている最中だった大臣が、響いてくる騒音に顔を顰める。


「ずいぶんと騒がしいではないか。

 これでは落ち着いて食事も楽しめぬ。

 何事か」


「はっ。

 賊が侵入した模様で、目下対応中となります」


「賊だと?

 こそ泥でも入り込みおったか。

 さっさと見つけて殺してしまえ」


「い、いえ、その……。

 もう見つけてはいるのです。

 賊は正門から真っ直ぐ、屋敷に向かってきておりますので」


「なんだと?

 なら煮るなり焼くなり好きにすれば良いだろう。

 なにをもたもたしておる。

 それともなにか?

 賊はそれほど大勢だというのか?」


「ち、違います。

 侵入者はひとりです」


 そのとき、屋敷の庭から叫び声が聞こえてきた。


「ぎゃあああ⁉︎

 助けてくれぇ!

 身体が!

 身体が冷たくなっていく……!」


「ば、化け物だ!

 こんな化け物に敵うはずがねぇ!」


「やってられるか!

 俺は逃げるぜ!」


「ま、待て!

 敵前逃亡が知れれば、キャンタン様に処刑されるぞ!

 戻ってこい!

 主人に対する忠誠はないのか!」


「知るかボケェ!

 ここにいてもあの女に殺されるだろうが!

 こちとら、金で雇われただけの元傭兵だ!

 忠誠心なんざあるわけねぇだろ!

 命あっての物種なんだよ!」


 次々と恐慌をきたした叫びが響いてくる。


 キャンタンが戸惑いはじめると同時に、食堂の扉がバタンと勢いよく開かれた。


「お食事中、失礼致します!

 キャンタン大臣閣下。

 いますぐお逃げください!」


「ど、どうしたというのだ!」


 狼狽えるキャンタンに、彼の私兵が告げる。


「ライラです!

 あの氷帝ライラが襲撃を仕掛けてまいりました!」


「な、なにぃ⁉︎

 あやつらはしくじりおったのか!」


「繰り返し申し上げます!

 お逃げください大臣!

 ライラの歩みは止めようがありません。

 かの者の狙いはあなた様なのです!」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 正門から堂々と大臣邸に押し入ったライラは、真っ直ぐに本邸に向けて歩いていた。


 まるで自分の屋敷の庭を散歩するかのようだ。


 気楽かつ泰然とした様子で闊歩する彼女を、大勢の男たちが取り囲んだ。


 大臣の私兵たちである。


 全員が物騒な武器を、手に握りしめている。


「止まれ!

 賊めが。

 ここが王国軍務大臣、キャンタンさまの邸宅と知って押し入ってきたのか?」


「もちろん知っているわよ?

 だって私は、あの肥え太った豚に報いを与えにきたんですもの」


「……報い?

 なんの話だ?」


「この世の至宝を傷つけた罪に対する報いよ。

 さぁお退きなさい、あなたたち。

 酷い目にあいたくなければね」


「なにを大口を叩くか。

 女がたったひとりでのこのこと現れおって。

 くくく……。

 ただでは帰られぬとしれ。

 酷い目にあうのはお前のほうだ!」


 男たちがライラの豊満な身体に、舐め回すような視線を向ける。


 だがそのとき、私兵のひとりが驚愕の声をあげた。


「ラ、ライラだ……。

 この女、勇者ライラだ!

 間違いねぇ。

 なんだってこんな化け物がここに!」


 にやにやと笑っていた男たちの表情が、厳しいものへと変わっていく。


 がやがやと騒めきはじめた。


「ライラって、あのライラか⁉︎」


「ライラがどうして大臣邸を襲うんだ?」


「お、おい。

 どうする?

 戦うのか?

 相手はあの序列1位のSランク冒険者、氷帝ライラだぞ⁉︎」


 彼らの腰が引けはじめる。


 だがそこに司令官らしき男の檄が飛んだ。


「ええい、ライラとは言えたかだか女のひとり!

 百人からなる我らに敵う道理はあるまい!」


 男たちが、ライラを眺めた。


 彼らは考える。


 たしかにこんな細腕で、いかほどの力が出せるだろうか。


 それに匂い立つように熟れた女の、柔らかな体つき。


 組み敷けばさぞや征服欲が満たされることだろう。


 誰かがごくりと喉をならした。


 男たちの欲望が疼きはじめる。


「いっせいにかかれ!

 捕らえた者は、この女を好きにできるよう、大臣にとりなしてやる!」


「おぉっ!」


「俺だっ!

 ライラを手篭めにするのはこの俺だ!」


 目の色を変えた男たちが、ライラに押し寄せる。


 憐れな獲物たちを眺めて、氷の女帝がため息を吐いた。


「……属性技『永久凍土(パーマフロスト)』」


 刹那ののち、そこに現れたのは白銀の世界。


 周囲一帯が、瞬時に凍り付いた。


 粗野な男たちは、すべて、冷たい氷像へと変わっている。


「分を弁えなさい」


 ライラは凍り付いた男たちの合間を縫って、悠然と歩を進めた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ええい、なにをしておる!

 さっさとライラを捕らえて、わしの前に跪かせぬか!」


 キャンタンが苛立たしげに、従者に当たり散らす。


 彼は逃げろと進言する兵の言葉を突っぱね、屋敷に留まっていた。


「許さぬ……。

 許さぬぞ、ライラめ。

 飼い犬の分際で、主たるこのわしに牙を剥くとは!

 ええい!

 ライラはまだか!」


 燕尾服の執事が、キャンタンをなだめる。


「いましばらくご辛抱くださいませ。

 我らが兵は精鋭揃い。

 皆、キャンタンさまを慕い、集った猛者にございます。

 すぐにでもかの女を捕らえ、引きずって参りましょう。

 閣下にあらせられましては、普段通り毅然と構えておられるがよろしいかと」


「う、うむ……。

 そうであるな」


 肥え太ったキャンタンは、腹に蓄えた贅肉を揺らしながら、椅子に腰掛け直した。


 そこに彼の配下の兵が飛び込んできた。


「し、失礼致します!」


「おお!

 ライラを捕らえたか!」


「ご報告申し上げます!

 応戦にでた兵は全滅!

 全滅いたしましたぁ!」


「な、なんだとおっ⁉︎」


「お逃げください!

 かの女はもうすぐそこまで迫っております!

 お逃げくだ――」


 大臣たちの見守るさなか。


 伝令の者が凍り付いた。


 扉の向こうから、淡い水色の髪をした女が顔を出す。


「はぁい。

 お久しぶりね、キャンタン大臣」


「ラ、ライラ……」


「今日は大臣に、残念なお知らせを伝えに来たの。

 人誅のお知らせよ」


「ぶ、無礼者め!

 キャンタンさまに気安いぞ、女狐めが!」


 叫んだ執事が、凍り付いた。


 それを見て、キャンタンが椅子から転げ落ちる。


「ひ、ひぃぃ⁉︎」


「横から茶々をいれないでくれるかしら?

 私はいま、この愚かな豚と話をしているの」


「ぶ、豚……⁉︎

 このわしが、豚⁉︎」


「ええ、そうよ。

 いえむしろ豚に悪いわね。

 あなたはユウくんに手を出した。

 それは悪鬼のごとき所業。

 自分の愚かさと罪深さを理解しているのかしら?」


 ライラが酷薄な微笑を浮かべる。


 カツカツと踵をならして、尻餅をついた大臣へと歩み寄っていく。


 ――ヒュン。


「……?」


 いきなり現れた鎌鼬を、ライラが裏拳で弾いた。


「……さすがは勇者ライラ。

 いまのタイミングで、とれぬか」


「誰?

 いることには気づいていたけれど、茶々を入れないでと、忠告したはずよね?」


 部屋の四隅。


 その物陰から4人の男女が姿を現した。


「俺は北風のヤン」


「僕は南風のウェン」


「あたしは東風のユリア」


「私は西風のリー」


 4人の登場に、キャンタン大臣が顔を綻ばせた。


 彼らは大臣に常に付き従う身辺警護の冒険者。


 各々がAクラス序列上位であるばかりか、4人揃えばSランク冒険者にも比肩しうる強者たちだ。


「氷帝ライラ。

 相手にとって不足なし!

 我ら、疾風怒濤の四兄妹がお相手仕る!」


 ライラは垂れ目がちの目を細め、頬に手のひらを添えて、もう一度やれやれとため息を吐いた。

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cont_access.php?citi_cont_id=985265293&si

三分で読める短編です。
三十代後半からの独身読者さんの心を抉る!
転生前夜。孤独死。

他にもこんなのも書いてます。
どれも文庫本1冊くらいの完結作品です。

心が温まるラブコメ。
読後、きっと幸せな気持ちになれます(*´ω`*)
猫の恩返し ―めちゃめちゃ可愛い女子転入生に、何故か転入初日の朝の教室で、皆の前で告白された根暗な僕―

お手軽転移ファンタジー。
軽く読めてなかなか楽しい。
異世界で伝説の白竜になった。気の強い金髪女騎士を拾ったので、世話をしながら魔物の森でスローライフを楽しむ。

ちょいとシリアスなのも。
狂った勇者の復讐劇。
復讐の魔王と、神剣の奴隷勇者
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