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12 ユウくんの奮闘

 ライラさんはジークを追いかけていった。


 言い付け通り、俺は屋敷に戻ることにする。


「ふぅ。

 今日は休みか。

 なかなかお金がたまらないなぁ」


 とはいえ、ひとりで薬草採取に励んでいた頃に比べれば、随分と稼げてはいるのだが。


 これもライラさんのおかげである。


 そんなことを考えながら歩いていると、屋敷に戻ってきた。


「今日はトレーニングでもして過ごすかな。

 ……ん?

 なんだろう?」


 門を潜ると、裏庭のあたりから妙な気配を感じた。


 小動物かなにかだろうか。


 とにかく様子を見てみようと、裏庭に足を運ぶ。


 ――ヒュン。


 風を切る剣の音がした。


 いきなり何者かが、斬りかかってきたのだ。


「うわっ⁉︎

 な、なんだ⁉︎」


 素早く屈み込んだ。


 頭上を刃が通り過ぎる。


「……ふん。

 とっさにかわしたか。

 駆け出しのFランク冒険者と聞いていたが、なかなかどうして、よい反応ではないか」


 このところ討伐クエストをこなしていたおかげか、なんとか体が動いたのだ。


「なにをするお前たち!

 目的はなんだ。

 ここが勇者ライラの屋敷と知った上での、狼藉なのか!」


「もちろん知っている。

 そして、いまのところ用があるのはライラではなく、お前にだ。

 Fランク冒険者ユウクス。

 悪いが同行してもらうぞ。

 お前たち、散開して逃げ場をふさげ!」


「なっ⁉︎

 こんな人数、どこに隠れていたんだ⁉︎」


 全員が、全身黒ずくめの男たちだ。


 身軽さを重視しているらしく、防具は装備せず、手には短剣を持っている。


 物陰から出てきた彼らは、俺をぐるりと取り囲み、退路を断っていく。


 数にして、8人はいる……!


「くそっ。

 やるしかないのか!」


「くくく……。

 安心しろ。

 命までは奪いやしない。

 いまはまだ、な」


 リーダー格らしき男が、配下の者たちに目配せをする。


 背後の男が斬りかかってきた。


 星降りの剣を振って応戦する。


 キンと刃のぶつかり合う音がした。


「なにぃ⁉︎

 こちらの剣が折られた⁉︎

 この小僧の持っている剣、ただの剣じゃないぞ!」


「怯むな!

 今度はいっせいにかかれ!」


「うわっ⁉︎

 やめろ!

 やめてくれ!

 俺がなにをしたって言うんだ!」


 必死の抗議は届かない。


 男たちは手にした武器を振りかざし、問答無用で襲ってきた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ぼろぼろにされながらも、なんとかまだ俺は立っていた。


「なんだこいつ……⁉︎

 ただの駆け出し冒険者が、なぜこうも粘る。

 まずい。

 このままではライラが戻ってきてしまう」


「はぁ、はぁ……!

 や、やられてたまるか!」


 ジークに攫われたときを思い出す。


 こいつらもきっと狙いはライラさんだ。


 俺を誘拐して、ライラさんを脅すつもりなのかも知れない。


「いやだ。

 ライラさんの足手まといになるのは……。

 なんとしても、俺はこの窮地を切り抜ける!」


 汗ばんだ手で、剣の柄を握りしめる。


 俺がなんとか戦えていたのは、装備のおかげだった。


 星降りの剣は軽い。


 振るえば刀身の軌跡がまるで流星のように尾を引いて、刃が相手に襲い掛かる。


 しかもこの剣は軽いのに、インパクトの瞬間、星が弾けるがごとき強烈な衝撃を発して、敵を打ちのめすのだ。


 白龍の鎧も、凄まじい性能を誇っていた。


 矢も剣も弾き返すのはもちろん、属性防御性能も圧倒的で、どんな属性攻撃も無力化してしまう。


 俺には、どちらも過ぎた装備だ。


 だがいくら装備が凄くとも、それを扱うのはまだ未熟な俺である。


 一方的に攻撃を受けるばかりの俺は、もう立っているのがやっとの有り様だった。


「しぶといやつめが……!

 もう時間がない。

 だがそろそろこいつも限界らしい。

 次で決めるぞ!」


 男たちがまた同時に襲ってきた。


「く、くそぉ……!

 もう、腕があがらない!

 視界も霞んで……」


 意識が遠のきそうになる。


 祈るような気持ちで、首から下げたタリスマンを握りしめた。


 これはライラさんが毎晩属性魔力をこめて、夜なべして作ってくれた御守り。


 その氷冠のタリスマンが、俺の願いに呼応するかのように淡い光を放ちだした。


「な、なんだこの氷は⁉︎

 小僧を護るように取り囲んで……。

 こ、氷でできた揺りかごだとぉ⁉︎

 どこから現れた⁉︎

 しかも硬い!」


「どけっ!

 俺がやる!

 立ち登れ、猛き火の壁!

 属性魔法『炎の壁(フレイムウォール)』!」


「こちらも合わせる!

 はぁぁ……!

 属性技『炎槍(フレイムジャベリン)』!」


「だめだ!

 まったく溶けない!

 なんて氷だ!」


 氷冠のタリスマンが、俺を護ってくれている。


 胸に沁み入るような、ライラさんの魔力を感じた。


 まるで母の豊満な胸に顔をうずめ、抱きしめられているような感覚……。


 安堵が、心を満たしていく。


「ライラ……さん……」


 俺はそのまま地面に倒れ伏し、気を失った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ユウクスの胸元で淡い光を発していたタリスマンが、徐々にその輝きを弱めていく。


 それと共に、突如として現れ、彼を護るように包みこんでいた氷の揺りかごが消えていく。


 残ったのは、傷つき倒れたユウクスだけだ。


 彼はすでに意識を失っている。


 襲撃にきた黒ずくめの男たちが、ほっと息を吐いた。


 彼らは、どうやら無事に誘拐任務を遂げることができそうだと、胸を撫で下ろしている。


 だがそのとき――


「……なにをしてるの、あなたたち」


 心胆を寒からしめる冷たい声が響いた。


 周囲の温度が下がっていく。


 みるみるうちに地面は氷で覆われ、吐く息が白く染め上げられた。


「私の屋敷で、なにをしているのかと、聞いているのだけど?」


 現れたひとりの女を前にして、男たちが凍りついた。


 比喩的な話ではない。


 実際に彼らの脚は凍りつき、地面に縫い付けられてる。


 冷酷な目をした女が、男たちの合間を縫って歩く。


 倒れ伏したユウクスのそばに屈むと、女はそっと彼を抱き起こした。


 いたわるように頬を撫でる。


「ああ……。

 ユウくん……。

 こんなに傷だらけになって。

 ……。

 ……ごめんなさい。

 お母さん、またユウくんを危ない目に合わせちゃった」


「ラ、ライラ……。

 もう戻ってきたのか。

 ジークはどうした⁉︎」


 名を呼ばれた女、氷帝ライラは応えない。


 傷ついたユウクスの背中をさすり、頬に何度も口づけの雨を降らせている。


「て、撤退だ!」


 男が慌てて指示をだした。


「撤退って、どうやって逃げるのです!

 みんな動けない!

 脚が凍って……」


 ライラがユウクスを、そっと地面に横たえさせた。


 ゆらりと立ち上がり、男たちを振り返る。


「……あなたたち、逃げられると思ってるの?」


 彼女の怒りに呼応するように、猛烈な吹雪が吹き荒ぶ。


 まるで温度を感じさせない冷たい声で、彼女は男たちに告げた。


「……あなたたちは、この世でもっとも尊いものを傷つけた。

 罪を償うときよ。

 覚悟なさい……」

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↓アルファポリスに投稿してみました。
よろしければクリックだけでもよろしくお願いいたします。
cont_access.php?citi_cont_id=985265293&si

三分で読める短編です。
三十代後半からの独身読者さんの心を抉る!
転生前夜。孤独死。

他にもこんなのも書いてます。
どれも文庫本1冊くらいの完結作品です。

心が温まるラブコメ。
読後、きっと幸せな気持ちになれます(*´ω`*)
猫の恩返し ―めちゃめちゃ可愛い女子転入生に、何故か転入初日の朝の教室で、皆の前で告白された根暗な僕―

お手軽転移ファンタジー。
軽く読めてなかなか楽しい。
異世界で伝説の白竜になった。気の強い金髪女騎士を拾ったので、世話をしながら魔物の森でスローライフを楽しむ。

ちょいとシリアスなのも。
狂った勇者の復讐劇。
復讐の魔王と、神剣の奴隷勇者
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