10 ライラさんと王都でデート
ライラさんと連れ立って、王都の中央広場にやってきた。
ヒューマン以外にも、獣人、ドワーフ、エルフにリザードマン。
街路を行き交う通行人は、雑多な種族の人々で溢れている。
「見てみてユウくん。
向こうのほう!
屋台がいっぱい出ているわよ。
行ってみましょう!」
「いいですね。
って、手を引っ張ってもらわないでも、ひとりで歩けますから」
「ユウくん……。
お母さんと手を繋ぐの、嫌?」
「そんな、シュンとしないで下さいよ。
なんだか俺が、悪いことをしているみたいじゃないですか。
……嫌じゃないです。
ただちょっと、恥ずかしいというか」
「嫌じゃないのね!
お母さん嬉しい!
じゃあ腕を組んじゃうっ。
うふふ。
ユウくんとお出掛け〜♪」
「……ふぅ。
まったく。
ライラさんには敵わないですね。
ふふ」
楽しげなライラさんにつられて、俺も朗らかに微笑んでしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ふたり並んで、賑やかな王都の雑踏を歩く。
屋台が集まっている場所へとたどり着いた。
串焼きにした肉。
浜焼きの魚介類。
甘い香りの焼きお菓子まで。
王都の広場は様々な屋台料理と、それを買い求める大勢のひとで賑わっていた。
ソースの焦げたような、香ばしい香りが漂ってくる。
つい食欲が刺激されて、俺のお腹がぐうと鳴った。
「うふふ。
ユウくんってば、お腹すいたのね?」
「ええ。
美味しそうですから、つい……」
「じゃあお昼は屋台で済ませちゃいましょうか。
どれが食べたい?
お母さん、なんでも買ってきてあげるわよー」
「一緒に見て回りましょうよ。
そのほうが楽しそうだ。
あ、それとライラさん。
ここのお代は、全部俺が持ちます」
「え?
いいのよ?
ユウくんお金がいるのよね?
こんな感じの屋台でも、外食すると割りと高くつくものなんだから。
お母さんに甘えてもいいのよ?」
「……いえ。
なんというか、その……。
俺がライラさんに奢りたいんですよ。
感謝の気持ちというか。
ライラさんにはいつもよくしてもらってるのに、なにも返せてないから。
俺、ライラさんにこうして一緒にいてもらえて、最近なんだか嬉しいんです」
「ユウくん……」
「だからお代は出させて下さい。
と言っても、せいぜい屋台料理くらいしか奢れないんですけどね。
はは。
ちょっと情けないですね、俺……」
「そんなことないわ!」
「ラ、ライラさん?
びっくりしたぁ。
どうしたんですか?
急に大声だしたりして」
「ユウくんは情けなくなんかない!
むしろ反対よ。
こんな優しい男の子に育って……。
お母さん、なんだか嬉しくて涙が出てきちゃった。
ぐすっ……」
「お、大げさですよ!
ほら、泣かないでください。
みんな見てますよ?
さぁ、なにを食べましょう?」
「ぐすっ。
ユウくん、ユウくん、ユウくん!
ユウくんを食べちゃいたい!
お母さん、幸せすぎて、もうっ……!」
ライラさんが抱きついてきた。
俺の頭を抱えて胸に引き寄せる。
ふにゅっと柔らかな感触。
不意に今朝見たライラさんの生おっぱいが思い出されて、顔が真っ赤になってしまう。
「お、俺は食べちゃだめですよ!」
騒がしくする俺たちを、周囲の人々が生暖かく見守っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
買い食いをし終えた俺たちは、今度は職人街に向かった。
この辺りには日用品店から、道具屋、武器屋まで、色んなお店が軒を連ねている。
「ユウくん、この店で買い物をしましょう」
「防具屋ですか。
いいですよ。
って、物凄く高そうなお店ですね」
「ええ。
お母さんの行きつけのお店よ。
実はこのお店、一見の来客には見せない商品なんかも置いてるのよ?
値は張るけど、そのぶん品質はたしかなんだから」
カランコロンとドアベルを鳴らして店内に入る。
接客にきた店員に挨拶をして、ライラさんは店の奥にズカズカと進んでいく。
一般客立ち入り禁止の立て札も御構い無しだ。
やがて煌びやかだった内装が、質素なものへと変わっていく。
店の最奥にたどり着いた。
雑多に商品が並べられた、飾り気のない部屋。
俺たちの来店に気づいた職人さんが、店の奥から顔をだした。
スキンヘッドで、少し厳めしい感じの親父さんである。
「おう、らっしゃい。
なんだライラか。
ってなんだ、お前?
男と腕を組んだりして……」
「はぁい、ゲネル。
ちょっとお店見せてもらうわよ」
「そりゃ構わねえが、お前はもう最高級装備を一式揃えているだろ。
今更お前が買い直すような防具は、うちにはねえぞ?」
「わかってるわよ。
私のじゃないの。
今日はユウくんの……、こっちの可愛い息子の防具を見繕いにきたんだから」
「ええ⁉︎
俺の装備ですか⁉︎
聞いてないですよ、そんなこと」
「うふふ。
お昼ご飯のお礼よ。
なんでも買ってあげるから、遠慮なく選んでね」
「……って、おいおい兄さん。
お前さん、勇者ライラに貢がせてるのかよ。
なんか、すげえな……」
「み、貢がせ⁉︎
まるで俺が悪い男みたいじゃないですか!
人聞きの悪いこと言わないで下さい」
「そうよ!
変なこと言わないでくれるかしら!
貢ぐもなにも、私のものは最初から全部ユウくんのものよ。
身も心も全部!」
ライラさんが組んだ腕ごと、俺を引き寄せた。
二の腕にあたる柔らかな胸の触れ心地に、顔が赤くなる。
「……まじかぁ。
身も心もって、あの氷帝ライラがねぇ。
かぁ、幸せそうにしやがって。
こりゃあ大ニュースだぜ?」
「お、親父さん!
変なこと言いふらさないで下さいね⁈」
「わぁってるって。
客の情報は漏らさねえよ。
それより、ほら、どの防具にするんだ?」
店内に所狭しと並べられた防具を見回した。
華美で煌びやかな装飾が施された鎧から、無骨なガントレットまで。
様々な装備が無造作に並べられている。
「ユウくん、ユウくん。
これなんかどうかな?」
「うわぁ……。
綺麗なハーフメイルですね」
金色の胸当てと、銀色の肩当てが組み合わされたハーフメイル。
所々に宝玉が埋め込まれている。
「おう、お目が高いな。
そいつは表層に、オリハルコンやらミスリルやらを塗布したもんだ。
物理防御も魔法防御も最高クラスの逸品だぜ?
そのぶん値段も最高級だがな」
「オ、オリハルコンに、ミスリル……。
ひ、ひぇぇ……」
「あら良さそうじゃない。
お値段はおいくらかしら?」
「ざっと、金貨560枚だな。
ライラなら多少値引いてやってもいい」
「金貨1枚あたりが、三十万円くらいだから……。
日本円だと1億7千万円かしら?
流石に結構なお値段がするわね。
でもユウくんなら、それくらいの装備をしても当然よね。
ほかに目ぼしいものはなぁい?」
「おう。
ちょっと待ってろ。
たしか陳列してないやつで……」
「ま、待ってください!
こんなの買って貰えないですよ!」
「うふふ。
遠慮しなくていいのよ、ユウくん。
こう見えてお母さん、お金持ちなんだから!」
「それは知ってますが、屋台料理のお礼で金貨560枚はさすがに……」
「あったあった。
おうライラに兄さん。
こいつなんかどうだ?
伝説の白竜アウロラの鱗や翼膜を、ふんだんに使ったハーフメイルだ。
うちでも滅多に扱えねえ希少品だぜ?
まぁそのぶん値段もぶっ飛んでるがな」
「まぁ⁉︎
綺麗な防具ねぇ。
透き通るように純白で、キラキラ輝いていて……。
うちのユウくんにぴったりだわ!」
「ちょ⁉︎
ま、待って⁉︎
待ってくださいってば!」
「買ったわ!
お値段はいかほどかしら?」
「毎度ありっ!
聞いて腰抜かすなよ?
こいつの値段は――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕暮れの王都。
ライラさんと並んで帰路を歩く。
結局、白竜の鎧を買ってもらってしまった。
「うふふ。
似合ってるわよ、ユウくん。
凛々しくて、かっこよくて、可愛くて……。
お母さん、ユウくんにぞっこんよぉ」
ライラさんが、腕を組んで寄り添ってくる。
あの後、武器屋で剣も買ってもらってしまった。
星降りの剣。
幻の金属ヒヒイロカネで鍛造された、伝説級装備だ。
「あ、そうそうユウくん。
ちょっと屈んでくれるかしら?」
もう抵抗する気力もない。
言われた通りに腰を屈めると、首にアクセサリーを掛けられた。
「最後にお母さんから、これ。
氷冠のタリスマン。
私の属性魔力がたっぷり込められた御守りよ。
ユウくんと再会したあの日から、お母さん毎日夜なべして作ったんだから。
きっとこの御守りが、ユウくんを守ってくれるわ」
「ライラさん……。
ありがとうございます。
大切にします」
「ええ。
さぁ、帰りましょうか。
晩ごはんはお母さんの手料理よ!」
手を繋いで歩き出す。
寄り添いあった俺たちの影が、暮れていく夕日に長く伸びた。




