01 おっぱい勇者は俺の母親でした
新連載です。
初日は4話投稿します。
10時、15時、18時、21時頃の投稿予定です。
麗らかな王都の昼下がり。
その日、俺は勇者パーティーリーダーのジークに呼び出されていた。
パーティーの溜まり場となっている冒険者酒場。
その店でリーダーと向かい合って座る。
「ユウクス、……話がある」
「なんですかジークさん?」
「お前は首だ。
パーティーを抜けてくれ」
「理由を聞いてもいいですか?」
「言われないとわからないのか?
お前がいると、パーティー全体の士気が落ちるんだよ。
だいたいお前は、最低辺のFランク冒険者じゃねえか。
うちは全員がBランク以上のパーティーだ。
お前がうちにいること自体がおかしい!」
「そう言われても、俺はライラさんに無理やり誘われてパーティーに加入しただけですよ。
しかもパーティーへの加入自体は、リーダーも承知したじゃないですか」
「ライラに誘われてきたお前が、こんなに弱いなんて思いもしなかったんだよ!
ライラは最強の勇者だ。
だからそのライラが加入を猛プッシュしたお前だって、それなりに腕が立つと思うだろ、普通は!
だってのに、こんな雑魚だなんて……」
ぐうの音もでない。
たしかに俺は、勇者パーティーのみんなに比べたら、話にならないくらい弱いから。
「……ったく、ライラもライラだぜ。
なんでこんな弱っちいやつに、あんなに入れ込みやがるんだ」
「話は理解しました。
このこと、ライラさんは知っているんですか?」
「知らねえよ!
言えばあいつはまた、お前を贔屓するに決まってるだろ!
なんか文句あるのか!」
「いえ、文句はありません」
「……ふん!
ならいいんだよ。
ほら、これ持ってとっとと失せろ!」
金貨が3枚、投げるように渡された。
「Fランク冒険者、1年分くらいの稼ぎにはなるだろ。
お前みたいな役立たずにはびた一文やりたくねぇが、ライラの手前もある。
せめてもの情けだ」
「……ありがとう、ございます」
「ふん!
もしまたライラに誘われても、うちのパーティーに戻ってこようなんて考えるんじゃねーぞ!」
リーダーは荒々しく吐き捨てて、酒場を出て行った。
俺は投げ出された金貨を、のろのろと拾う。
「……さて、これからどうしようか」
ため息を吐いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺の名前はユウクス。
歳は18歳。
Fランク冒険者だ。
冒険者には上位からS、A、B、C、D、E、Fまで、7段階のランクがある。
だから俺は最低ランクの冒険者というわけだ。
そんな俺が勇者パーティーと謳われる、王国でも最強クラスの冒険者パーティーに加入できていたのは、ひとえにライラさんの猛烈な推薦があってのこと。
女勇者ライラ。
彼女はまだ弱冠20歳ながら、王国から勇者の称号を授けられたSランク冒険者だ。
しかもただのSランク冒険者ではない。
Sランクのなかにあっても、序列1位。
ついた二つ名は『氷帝』。
正真正銘、最強の勇者なのである。
彼女がなぜ、出会って早々俺を勇者パーティーに推薦してくれたのかはわからない。
ただ俺はライラさんの熱烈な誘いにのったまで。
実のところ俺は、とある事情により、たくさんお金を稼がないといけない。
だから、稼ぎのよい勇者パーティーは都合が良かったのだ。
だがその勇者パーティーも、ついさっき、わずか3ヶ月の所属で追い出されてしまった。
たったの金貨3枚しか稼げずに。
これじゃあ全然足りない。
さて、今度はどうやってお金を稼ごうか。
とぼとぼと歩いていると、後ろから呼び止められた。
「ユウくん!
待ってちょうだい!」
振り返るとライラさんがいた。
「どうしたんですか?
そんなに息を切らせて」
「いそいで走ってきたのよ。
それよりユウくん!
パーティーを抜けちゃうって本当なの?
いったいどうして⁉︎」
「ジークさんから、なにも聞いていないんですか?」
「リーダー?
なんのこと?」
「俺はお荷物だから、パーティーを抜けろと」
心配そうに俺をみていたライラさんの目が、すっと細まる。
「……そう。リーダーがそんなことを……」
ライラさんを中心に、あたりの温度が下がり始めた。
地面が薄く凍りついていく。
いつも俺には優しい笑顔のライラさんなのに、なんだかいまは少し怖い。
「……リーダーには、私から言っておくわ。
戻ってきて、ユウくん!
お願いだから……!」
「でもジークさんには、もう戻ってくるなと言われています。
それにたしかに俺はお荷物ですし。
なんてったって、いつまで経ってもFランクの無能ですから……」
「そんなことはないわ!
ユウくんはまだ、才能が目覚めていないだけ!
一番すごいのは、ユウくんなんだから!」
「どうしてそんなことがわかるんですか?」
「だってお母さん、ちゃんとあのとき、神様にお願いしたもの!
ユウくんを一番にして下さいって!」
……お母さん?
……神さま?
いったいなんの話をしているのだろう。
「話がよくわかりません。
どういうことですか?」
「そ、それは……」
ライラさんが口籠った。
「ねえ、ユウくん。
ひとつ教えて欲しいの。
やっぱり転生前のことは、なんにも覚えていない?」
「転生前?
なんですか、それは?」
「悠くんと麻里ちゃんと私と、3人で日本で暮らしていた前世のことよ。
なんにも覚えていない?」
ズキっと頭痛がした。
俺がよくみる夢。
どこか知らない不思議な場所で、優しい母さんや、俺を猫可愛がりする姉さんと、3人で暮らしている夢。
ライラさんが言っているのは、あの夢の話だろうか。
「どうしてライラさんが、俺の夢の内容を知っているんですか?」
「やっぱり……!
覚えているのね!
ああ……」
ライラさんが寄ってきて、俺をぎゅっと抱きしめた。
大きくて柔らかな胸に、俺の顔が埋もれる。
「ちょ、ちょっとライラさん!
抱きつかないで下さい!
離して!」
「ああ、ユウくん、ユウくん!
やっぱりあなたは、私のユウくんだったのね!
お母さん、ユウくんをひと目見たときから、悠くんだって気づいていたの!」
ライラさんが頬ずりをしてくる。
瞳を涙ぐませ、感極まったように声を震わせながら告げてきた。
「ユウくん!
私は頼子!
あなたのお母さんなのよ!」