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プロローグ
――サエ。
――あなたは必ず幸せになるのよ。
母は亡くなる時まで私にそう言い続けた。
***
それなのに……。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
長い長い水平線を見つめながら思う。
「サエ」
私の名前を呼ぶ、少し癖のある異国の発音。
潮風を受けながら振り返った。
光り輝く金色の髪。
透き通るような薄水色の瞳。
私たちと違う遠い異国の風貌。
静かに手が差し出された。
その手をじっと見つめる。
母の声が頭の中に響いた。
けれど、何度も返す波の音に打ち消される。
ゆっくりとその手を取った。
もう、後戻りはできない――……。