6話
可憐の衝撃カミングアウトが終わりあっという間に勉強交流週間がやってきた。結論から言おう。選抜されちゃった。
成績も中間くらいだったはずなのにどうしてだろう。疑問に思って先生に聞いてみたんだ。成績は中間くらいだけど俺を指名してきたのが可憐のクラスの女子全員に近かったんだって。女子にここまで支持されているから人間的に素敵と判断されたと先生に言われた。
可憐のクラスの女子はどうなっているんだろうね。俺なんか呼んでも面白くないのに。もっとカッコイイ人とか呼ぼうよ……。絶対あれだよ。想像と違う人が来てがっかりしちゃうパターンだよ。「もっとカッコイイ人だと思った~」とか言われて俺が傷つくやつだ。
行きたくないなあー夢ならどれほど良かったかなーと思っていても時計の針は進んでいく。朝から憂鬱な気分で授業を受けていた。
ちなみに可憐のクラスに行くのは午後の授業から帰りのHRまでだ。丸々午後授業を使って行われる。昼ごはんを食べてお腹は満たされて眠くなってくる時間帯の午後授業。もうあれは集団催眠術の類だろう。どんなに気を張ってても夢の世界へと旅立って行ってしまう。起きて授業聞いているやつはあれだよ。勇者だよ。お疲れ様ですって言いたいよ。
そういう意味ではこの勉強交流週間は理にはかなっていると思う。近くに先輩がいたら緊張しちゃうもんね。寝てたりしたら何言われるかたまったもんじゃないから。緊張していると人は寝ないものだ。
他にも普段の授業は先生一人に対して一クラスともなると分からないところがあって困っている生徒がいたり、寝ている生徒を見つけてもその一人のためだけに時間を割いてはいられない。すべての生徒に授業をしなくてはいけないからだ。なので案外この勉強交流週間は分からないところ聞けるチャンスでもあるのだ。何せ教えてくれる頭がいい先輩がたくさんいるからね。
人間とは不思議なもので楽しみにしていることほどなかなかやってこないし、嫌だと思うことはすぐにやってくる。
いつもは長く感じる授業もこういう時に限って短く感じる。いつもは授業受けていてもまだ半分かとか終わらねぇなと思って受けている授業も今日に限ってはどんどん進んでいく。時間過ぎるの早いなー。いつもこんな感じだといいのになー。
現実逃避しようとしていたが流石に無理だった。
「先輩~。ここ分からないから教えて下さい~」
だって気が付いたらもうすでに俺にとっては地獄でしかない時間が始まっていたからだ。時間過ぎるの早すぎだろ!?さっきまで時計見て時間過ぎるの早いなーとか言ってたんだよ?俺が心の中で自分にツッコミを入れているのはお構いなくどっかで聞いたことのあるような声を筆頭に他の女子生徒も私も教えてほしいーと聞いてくる。今、いるのは可憐のクラスだ。俺が嫌だ、嫌だといったところで教えなくちゃいけないので内心はとっても嫌で嫌で仕方がないのだが顔には出さず勉強を教えている。
ちなみに教え方は生徒達に一任されているので自由だ。班分けして班一つに一人つくとか教える側が席の周りをうろついて聞かれたら教えるとかいろいろある。自分達は無難に班を分けて班に一人ずつ担当を決めてある程度時間が経ったらローテーションするというやり方になっていた。どうしてなっていたかという言い方をしたのかというと俺がいない時に決められていた。…俺も呼んで欲しかったよ。
可憐のクラスはちょうど四十人クラスで教える側は俺を含めて八人。一人五人に教える計算である。班に分けて班で机を向かい合わせて勉強しているところに一人ついているという感じだ。そこまではいいのだ。
教える側は全員同じ条件だから。でもさおかしいと思うんだよね。なんで俺の担当している班の人全員女子なの?おかしくない?男子と女子の比率って一年の時は文理選択とかしてないから同じはずだよね?あれれ~おかしいなー。あとなんで可憐の班担当しているんだろうか?ローテーションだったはずだよね。なんで俺だけこの班に固定されちゃってんの?なんかの罰ゲーム?
「俺も教えてほしいんだけど…。俺ってなんかしたっけ?俺だけ他の班のところにローテしないんだけどこれっていじめだと思う?」
「そんな細かいことはいいじゃないですか~。早く教えて下さいよ。」
「まて、細かいことなんかじゃない。お前の仕業だろ。俺以外の二年生になんか言いやがったな」
「そんな人聞きの悪いことなんか言わないで下さい。可愛くおねだりしただけです♪」
さりげなくとんでもないこと言っちゃったよ、この子。君がね可愛くおねだりなんかしたらね、みんな聞くに決まっているでしょう?自分の容姿を鏡で見たことないの?多分この一年で君と容姿が同じくらいの人そうはいないと思うよ…。
「それよりも勉強教えて下さいよ~」
「いやいや、お前に教えられる頭脳は俺にはないから。というかお前は教えられなくても自分で勉強できるだろ」
「そんなことはないですよ。私にも分からないところはあるのです」
「分かった分かった。お前は後回しな。他の子から先に見ていくから」
「先輩のケチ~」
俺と仲いいアピールしなくていいから。ほら周りを見てごらん。同じ班の女子達が話しているじゃん。先輩と可憐って仲良さそうだよね~息ぴったりーとか。分かったから声のボリューム落として!周りにも聞こえているから!あと可憐さん、なんでちょっと嬉しそうにしているんですか?俺にはちょっと分かんないですけど……。
可憐達の班を相手していることはいいがさっきから周りの視線が刺さる。このクラスの男子達と教える側の男子達だ。ちょっと待って。このクラスの男子達はこのクラスのアイドルみたいな可憐と喋っていることに対して視線を送ってきているのは分かるが教える側の男子達、君たちは俺を助けれる立場にいるよね?どうしてこっちを睨んでいるのかな?俺を助けてほしんだけど……。
いくら可憐におねだりされたからと言って君たちなら今この場で班教えるの変えようかと言えるはずだよ。いつものクラスでの勢いはどうした?あれか、知っている人たちとの会話は生き生きとしているけど知らない人もしくは女子に話しかけるときは憶病になってしまうあれなのか?いるよねそういう人。よくいる典型的なタイプの人としては授業の発言は声小さいのに休み時間うるさい人。授業より絶対休み時間無駄に騒いで注目される方が恥ずかしいと思うんだけど……。俺にはちょっと分かんない。
さて心の中で愚痴を言っていても仕方がないので勉強を教えることにしよう。これ以上俺に被害が出ないためにも嫌だけどやるしかない……正直に言っていい?人間正直者が一番って言われてるじゃん。帰っていいかな?帰りたいよでも帰れないからやるしかないないのだ。どんな問題でもかかってこい!。全部教えてやるよ!。……すいません調子乗りました。格好つけても俺が教えられることはたかが知れているのでほどほどにがんぼろうかな。人間ほどほどが一番だよ。一生懸命やるとすぐ疲れちゃうから。
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ほどほどに頑張り可憐はとりあえず置いといて班の子の分からないところを教えたりする内に時間はあっという間に過ぎていった。
いつもは授業を聞く側で授業早く終わらないかなとか考えていたが教える側も教える側で大変なんだと身をもって体験することが出来た。普段、授業つまんないとか思っていてほんとごめんなさい。まさか教える側がこんなに大変だとは思ってもみませんでした。人間嫌いな人とか苦手な人……意味的にどっちも一緒だけど分け隔てなく察しなくてはいけない教師という職業。今日をもって将来就くかもお仕事ランキングから外れたね。俺が教師とかやったら精神壊すかキレちゃいそう。よかった身をもって体験出来て。
昼からの時間が終わり遂に下校の時間が遂にやってきた。達成感が半端がないが一つ悲しいお知らせがある。まだ一日終わっただけだった……。まだ四日もあるの!?もう疲れたよ。なんでたった一日でこんなに体力消耗させらなくちゃいけないんだ。嫌だよー。明日学校来たくないよー。
心の声だだ漏れで嘆いているのはとりあえず置いておこう。ちなみに今どこにいるのかというと一年の教室から帰ってきて自分の教室だ。ちょうど帰り支度がすんで帰るところである。少しだけ教える時間が長引いてしまい放課後の部活動の時間になっている。教室に残っているのも一緒に教えに行った生徒だけで他には誰もいない。この時間帯に学校内に残っているのは委員会や部活動をしている生徒しか残っていないだろう。俺自身帰宅部なのでこんな時間帯まで残るのは滅多にないがやはり人がいないといるとでは全然違う。いつも授業を受けている教室とは違った印象を受けてしまう。
もともと学校に残っていてもやることと言ったら大学受験のための勉強ぐらいなもので図書室でやってもいいが基本は家でやる。人に絡まれたりとかうるさい奴がいるとか嫌だからだ。その点家では邪魔されない静か気楽にやれるというオマケ付きだ。家最高!!
準備も出来て教室を出て下駄箱に向かうため階段に向かう。俺は2-7なので教室の位置は端っこである。階に階段が二つあることはあるがどちらも階の中間あたりに位置しているので自分の教室からは少し歩かなければならない。少し歩いて階段に到着する。階段を降りていく。二階に降り、一階に降りて下駄箱まで歩いている途中だった。声が聞こえてきたのは。
「可憐ってさ~。最近調子乗ってない~?」「分かる、分かる~」「先輩にかまってほしい感じだだ漏れだよね~」「だねー」
可憐と同じ班の女子達がちょうど帰るところだった。可憐についての話をしているようだった。可憐は今日はバイトに入っているはずなのでもういなかった。
「勝手気ままに動いてさ~こっちのことも考えろっての」「私たちまで変な目で見られるの嫌だよね~」「分かる、分かる~」「だねー」
最初の方を聞いていると可憐のことをネタにしているのかと思っていたがどうやら違うらしい。聞いてて分かったが可憐の悪口のようだった。ちょっと一か所ツッコミを入れてもいいだろうか?若干二名同じ反応しかしてなくね……。誰か突っ込めよ!気になって仕方がねえよ!
話しているところが下駄箱付近であったためにどんどん会話が遠くなっていく。しばらくしたら会話が聞こえなくなってしまった。
幸いにもこの学校は階段から下駄箱まで少し距離があり放課後で人がいない状態だったので先に気付くことが出来たのはラッキーだった。気づかず立ち止まっていなかったら今頃あの女子たちに何を言われていたかたまったもんじゃない。
さて偶然にも可憐が所属しているグループ事情を知ってしまったわけだ。可憐とはバイトで二か月の付き合いにはなるがだいたいの人となりは分かる。面倒くさいことは極力やらず自分の欲望に忠実に生きているタイプだ。
ただ可憐の場合はスイッチのON、OFFがある。他人からはよく見られたいから外面上は頑張り出来ますよアピールをする取り繕ったスイッチのONの状態と親しい人には取り繕わず接して自分の欲望むき出しのわがままなスイッチOFFの状態がある。
バイトの時がいい例だ。俺と一緒ではない時はよくみられたいから一生懸命仕事やるのに対して俺と一緒に仕事するときは俺にやらせようとしたりできるだけ楽しようとしている。ましてや、この前の俺と喋りたいからとか言って買い物に行ったことだってそうだ。その目的のためにいつもは俺に押し付ける仕事も一生懸命にやっていた。
まあ、花咲 可憐という人間は面倒くさいのだ。もちろん、全然そんなこと気にせず接してこいつはこういう人間なんだと受け入れることができるならいい。俺みたいに。けれど合う合わないは確かに存在する。
俺たちは人間だ。みんな仲良くと掲げてはいるが守れている人間はどのくらいいるだろうか。どんな人間だって合う合わないがある。みんな仲良く出来るのであれば世の中いじめで悩んでいる人がいないはずだし、戦争だって起きていないはずだ。だってそうだろ?みんな仲良くしているんだから。人間はそんな神様みたいな存在ではないし崇高な種族でもない。夢物語に出てくる存在ではないのだ。いい加減に認めろ。俺たちは人間だ。合う合わないが必ず存在する。それが当たり前なのだ。そんななかで自分と合う人を見つけ知り合いになり友達になり恋人になり家族になる。
一方で合わない人だっているのだ。価値観の違い、性格の違い、直感で苦手と感じる人だっている。当然のことだ。仕方がない。
だから花咲 可憐と花咲 可憐が所属しているグループの女子達が合わないのは仕方がないのだ。互いに何かが合わなかったのだから。だからこうして可憐のいないところで悪口を言ったりしているのだろう。それがただ合わなかっただけなのかそれとも嫉妬や妬みから来ているものかは分からないが。ただグループの女子達の精神力は素直に関心する。悪口を言いたくなる相手と毎日つるんでいることだ。可憐の話だと一年で入学してからすぐ仲良くなったと言っていて学校ではいつも一緒にいるとバイトの時に話したことがあった。いつから合わないと感じていたのかは知らないがそれでも毎日一緒にいることは素直に感心している。俺なら合わないと感じたら速攻つるむのをやめるね。うん。
人を信用するという行為はとても勇気のいることだ。自分が一方的に相手を信用するのは勝手だが、必ず裏切られるというリスクが存在する。いくら自分が相手を心から信用していたところで相手が必ずしも答えてくれるとは限らない。長年付き合った友人さえも裏切る可能性があるこの世界だ。たかが半年の付き合いで互いが互いを理解することなんてできるわけがないのだ。
この先可憐達の関係性は崩れるかもしれないし崩れないかもしれない。どっちに転んだとしても彼女たちの問題だ。俺が首を突っ込むことではない。余計な被害を受けたくはない。けどもし願うなら彼女たちの関係性が崩れないことを祈るばかりだ。