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5話

 会話からしばらく時間がたった。会話自体お店始まってすぐの午前中の時間帯だったのでお客さんが来なかったが昼前でお客さんがちらほらと来ていた。って言っても昼になると昼食食べにお客さんもいなくなってしまうが……。




 バイトのお時間も残すところあと少し。もうひと頑張りしますか。さて俺とお話がしたいという健気な後輩、花咲可憐はどうしているだろうか?答えは簡単。絶賛仕事中だ。





「なんで今日に限ってこんなに本並べなきゃいけないんですか-!」






 あの会話の後可憐は本並べの作業をしていた。新刊もそこそこあり作業をテキパキと行っていた。この調子で行けばすぐ終わるだろうと思っていたが神様は彼女を裏切った。


 


 タイミング的に言えば彼女にはバッドタイミングだったであろう。ちょうどあと数冊というところだった。俺がレジに立ってお客さんの相手をしていた時だ。

 お爺さんがやって来た。お爺さん曰く、『本を集めすぎて置き場所がなくなってしまった。整理するついでにもう読まない本を受け取ってくれ』と。この言葉を聞くまではまだ大きな袋一つだったのでそこまで量はなさそうだったので安心していた。




 そう安心していた時だった。お爺さんが言ったのだ。『さすがにあの量を年寄りの自分一人で運ぶのは無理だったから業者さんに頼んじゃった。もうじき来ると思うから』と。




 その言葉を聞いた瞬間、俺はとてつもなく嫌な予感に襲われた。店の前に引っ越し業者みたいな車が止まったからだ。車から作業服きた人たちが降りてきてお爺さんが持っていたサイズの大きな袋がどんどん運ばれてくる。最初お爺さんが持ってきた袋合わせてその数30袋。一袋50冊くらい。計算すると約1500冊ぐらい。途中数えるのも嫌になって放心状態になっていた。だってお爺さんがまず軽々持っていた袋に50冊あったんだよ。お爺さん、力スゲ-……。そんでもって本の量もすごいから現実逃避するしかない状況だった。



 袋が全部運ばれてお爺さんが『それじゃ、よろしくね』と言って去っていった。ここで俺は我に返った。俺が放心状態だったんだ、可憐はどうだろうと思い様子を見に行くと絶望の表情で固まっていた。俺が『おい!大丈夫か』と聞くまで動かなかった。可憐は『先輩、私、夢見てるみたいなんで帰っていいですか?』とさりげなく帰ろうとしたので頬をつねってやった。




 こうして可憐の戦いが始まった。さすがに一人で1500冊ある本を整理したり並べるのは人数的にも時間的にも足りないのでメモ書きで『1500冊ある本の整理をお願いします』と書いて交代するときにもお願いすることにして時間いっぱい作業することになった。さすがに俺でもこの量は異常だったので手が空いた時には手伝ったりしているがなかなか減らない。地獄絵図とはこのことだろう。






「……先輩、全然減らないです~。せっかくのお話する時間がなくなっちゃいます。……どうしましょう?」




 いつもは俺をからかってくるくせに今回はほんとに困った様子だった。だから俺はついつい言ってしまったのだ。



「バイト終わった後、暇か?話でもなんでも付き合ってやるからあとちょっとがんばれ」



これが間違いだった。


「……」



 目をぱちくりさせて驚いた表情を見せたのも束の間、笑顔でこう言った。



「今、先輩なんでも付き合ってくれるって言いましたね!あとで買い物に付き合ってもらいますから忘れないで下さいね!」




 さっきの落ち込んだ様子は何処へ行ってしまったのか。疑問で仕方なかった。既に仕事に戻っている。この後輩のモチベーションの上がり下がりにはついていけない。まあ、やる気になったのでいいのだが……。




 人間誰しも言わなきゃ良かったなと思うときが必ずあると思う。大抵そう思うのは、自分が厄介事に巻き込まれているときだ。俺もこの時点で言わなきゃよかったなと思った。明らかにこの後すぐに帰れそうにはない気がしているからだ。

 結構毎回話聞いてやってるんだけどな……何だかんだ言ってどうも俺はこの後輩に甘いらしい。 








****************************************************************************





 さてバイトの時間も終わりいつもは帰っているはずだが今日は違う。話に付き合っている。とは言っても俺は聞き手役にいつも回っている。可憐の愚痴を聞いて相槌を打つことがほとんどだ。余程普段から不満が溜まっているのだろう、俺に話をしてくる。いつもなら話をして俺が適当に相槌を打ち会話がなくなり次第即終了する。そして帰れるはずだった……というのも終わったところで帰れるはずもないのだ。





 ちなみに今どこにいるかというと大型ショッピングモールの中の洋服屋にいる。ただ今買い物中だ。バイト先からここまで歩いて30分も掛からない。なのでバイトの時間が終わり歩いて来たのだ。

 可憐は服を選んでいる。楽しそうで何よりだ。



「先輩~これとこれどっちがいいですか?」



 女性物コーナーでウロウロして変な目で見られるのも嫌なので可憐の様子を眺めていたら可憐に尋ねられた。可憐が差し出してきたのは黒色のセーターとグレーのセーター。可憐はどっちも似合いそうなのでとりあえず黒色の方を選ぶことにする。




「黒色の方で」

「こっちですね。分かりました~。じゃあ次いってみましょう!」

「待て待て、……まだ選ぶの?お前まさか服一式俺に選ばせるんじゃないだろうな」

「…………」

「おい。その沈黙は何だよ」

「これなんてどうですか?」

「聞いてないフリすんな」



 露骨に話をそらそうとしたよ。この後輩。




「確かに付き合うとは言ったが、男の俺から言わせてもらうと女性物コーナーに居座り続けるのは俺への拷問か何かかな?」

「……先輩。女性というのはですね、買い物に時間が掛かる生き物なんですよ」



 さぞ当たり前のように言ってくる。



「知ってるよ。妹がいるし。妹でもこんな時間使わね-よ。せいぜい欲しい服選ぶくらいだよ」




 妹でも兄に服一式選ばせることなんてしないぞ。どうなってんだ。この後輩は。




「……しょうがないですね。この辺にして次の場所行きましょうか」

「……え、まだ行くの?終わりじゃないの」

「当たり前じゃないですか」




 当然のようにこの後輩は言ってくる。なんでも付き合うって言ってあれだけどもう疲れた。



「といっても服は終わりにしましょう。先輩、嫌そうですし」

「もっと最初の方で気づいてほしかったよ……」




 絶対に気付いてただろ。むしろ俺の様子見て楽しんでただろ。心の中で思ったが口にはしないでおく。


 このショッピングモールに来てから2~3時間経っている。バイトが終わったのが午後1時過ぎでここまで来るのに30分以上経っている。そしてこの服屋で2~3時間。今、大体3時半か4時半だろう。


 何故、明確に時間を言えないのかというとスマホと時計が家にあるからだ。スマホはバイト先に着いた時点で充電しぱなっしであることに気付いた。けど連絡来ることもないと思ったので気にしてなかった。時計は単純に忘れていた。まさか後輩の買い物に付き合わなくてはいけなくなるなんて思っていなかったから……。



 可憐も朝の出来事で相当、運が悪いと思ったがもしかして俺も今日、運が悪いのではないだろうか……。きっとそうに違いない。




「…で、どこ行くんだ」

「……喫茶店ありましたよね。私、軽く何か食べたいな~って思ってみたり……」



 ちらちらとこちらを見てそう言ってくる。これはあれだ。私に奢ってくれアピールだ。だが、俺は別にときめいたりしなかったのでスルーしようと思う。




「ここは2階だから喫茶店は1階か……。じゃあ、行こうか」

「先輩!先輩!ここは『俺が奢るよ』って解釈でいいですか!」

「……」

「ちょっと先輩!?、何か言ってくださいよ~」




 いちいち反応しているといつまでも喫茶店に着きそうにないので歩き出す。



 日曜日でもう時間も夕方に差し掛かっているのにショッピングモールには人がたくさんいる。カップルや家族連れ、友達同士で来ていたり……。




 すれ違う人を見れば残り少ない休日を悔いのないように楽しもうとしている。休みの日をどれだけ楽しく過ごしても月曜日はすぐに来てしまう。そして金曜日まで頑張りまた休みがやってくる。また休みを楽しもうとする。人間という生き物は単純である。




周りから見れば俺も休みを楽しもうしているように見えてるのだろうか。後輩に付き合ってるだけだが休日に不本意な形だがこうしてショッピングモールに来ている時点で人のこと言えないなと思う。




「……先輩、お店入らないんですか?通り過ぎましたけど……」

「……早く言えよ」

「……通り過ぎたの私のせいなんですか!?」

「人間誰だってやらかすときはやらかすんだよ」



 いつの間にか通り過ぎていたみたいだ。何やら可憐が文句を言ってきているが適当に反応して道を引き返す。するとすぐ喫茶店が見えた。これはあれだ。恥ずかしいやつだ。とりあえずまた何かやらかす前に喫茶店に入る。お店の人に禁煙席で空いてるところに案内してもらった。

 適当に食べ物や飲み物をそれぞれ頼んで待っていると、沈黙を可憐が破ってきた。




「……先輩」

「……」

「……」

「いやいや、お前も黙るなよ……会話続かないだろうが」



 こういうのはもっとも困る。喋りかけてきて話をしてこないとき反応に困るからだ。しかし可憐が話を続けてこないのは珍しい。ここは俺が話かけたほうがいいのか?嫌、下手に話かけると話が脱線して長くなるかもしれない。なのでいつも話している話題を問いかけることにする。



「いつもみたいに愚痴らないのか?ここでは言えないこととかか?」

「私がいつも人のこと悪く言っているみたいじゃないですか!?」

「いやいや、いつもいってるじゃん」

「確かに言ってますけど……」




 認めちゃうのかよ……。でも今回は人の愚痴の話ではないようだ。俺の話しかける努力は無駄に終わったらしい。でも人の愚痴の話以外となると俺には思い浮かばない。可憐も可憐で俺に反応ができない話はしてこない話はしてこないので考えていると、可憐は何かを決心した様子で言ってきた。



「……先輩は優しいです。……私の愚痴の話いつも聞いてありがとうございます。……イケメンってわけではないけど普通な感じでグッドです。あとあと……」

「……ちょっと待て。急にどうした」

「それでですね。先輩、もうそろそろ学校で勉強交流週間が始まるじゃないですか~」


 急に俺のこと褒めだした?どうなってるんだ。いや、まじで俺、どう反応すればいいの?内心困っていると可憐は話題を変えてきた。


「ほんとどうしたんだよ……俺はどう答えれば正解?」

「もうそろそろ学校で勉強交流週間が始まるじゃないですか~」

「分かった。分かったから。同じこと言うなよ」



 これは最初の褒めたことはコメントするなということだろう。大人しく勉強交流週間のことに答えることにしよう。自分達の学校には確かにそのような名前の行事?がある。どの学年も必ず参加の行事?だ。と言っても内容は至ってシンプル。くじで一緒になった一つ上の学年のクラスが一つ下の学年のクラスの勉強を見て教えて上げるというものだ。



 学校側のねらいとしては先生の話を聞かないのなら先輩の話なら聞くんじゃないかという発想で生まれた行事?らしい。なんでこんなこと知っているかというと一年の時に敦也が噂で聞いて来たのを俺も聞いただけなので信憑性(しんぴょうせい)は低いのだが。



 どの学年も必ず参加だがそれぞれの学年で参加の仕方が違ってくる。一年は全員参加で尚且つ一番下の学年なので二年の生徒に教えられるだけの行事?だ。二年は三年に教えられるところは全員参加で一緒なのだが一年に教えるという点で違ってくる。




 勉強を教えてもらう側はクラス全員でいいのだが、さすがに教える側がクラス全員となると場所が必要となってくる。そうなると教室で行うのは無理になってくる。なので場所を変えようにもどのクラスも同時に行うので不可能に近い。なので教える側の方は生徒を選抜することになっている。

 三年はそもそも上に学年がいないので教える側だけでの参加だ。受験も控えているので三年で選抜される生徒は学力的に問題のない生徒か推薦でほぼ合格していて学力的にも大丈夫な生徒が選ばれる。




 ちなみに期間は二週間ほどで一周間目が一年生が教えられる側で二年が教える側で二週間目が二年生が教えられる側で三年が教える側だ。今が十月の初めの週なので始まるのは二週間後の十月半ばぐらいから始まる。

 そんなわけでこの勉強交流週間という行事?があるがこの説明に関しては体育祭や文化祭が終わった後で説明されているし、その時にくじ引きでクラスもどことどこが一緒になるか決まっている。説明が書かれた紙も配られたぐらいだ。正直言って可憐が聞きたいことが分からない。




「確かに始まる。で何が聞きたいわけ?」

「教える側の二年生と三年生は選抜されるじゃないですか~」

「それで?」

「選抜の仕方にクラス希望選抜ってのがあるじゃないですか~」




 確かに選抜される生徒は学力的に問題がなく尚且つ生徒に教えられる生徒が選ばれるのが基本だ。だが選抜の仕方にクラス希望選択というのがある。

 これは教えられるクラスの生徒が教える側のクラスの生徒を一人指名出来るというものだ。実際、選抜される生徒は学力とか考慮されてクラスの担任が決める。七~八人程度だ。そして選ばれた生徒のリストが教えられる側のクラスに届く。その時に教えられる側のクラスの中でどうしても教えてほしいとかどうしても来てほしいという生徒にオファーが出来るというものがクラス選抜選択だ。もちろん、学力が大丈夫か判断されて決められる。



 

 例を挙げてみよう。学校で一番人気といっては過言ではない藤堂 桃花がいるクラスとくじで一緒になったとしよう。例えば学力はいいはずなのに選ばれていなかったとする。そこでこのクラス希望選抜だ。多分、間違いなく男子全員が藤堂 桃花を選びクラスの女子に白い目を向けられるだろう。


 実際には藤堂 桃花が選ばれないわけがないので心配無用だ。学校での人気者とかでない限り特定の一人だけをクラスで希望することもないのでこのクラス希望選抜というのがあるにはあるが使われていない。



「確かにあるが、そんなのどのクラスも使わないだろ」

「まあ、そうなんですけど~」

「…で、それがどうかしたのか?」

「私って、クラスの女子と仲いいじゃないですか~」

「……知らんけど」


 本当に知らない。可憐のクラス事情なんて。



「クラスの女子が言うんですよね。『可憐ちゃん、勉強交流週間のリスト見てペアのクラス見に行ったけど男の先輩であんまかっこいいって思う先輩いなかったよね~。頭は多少良さそうな人はいたけど…それでさ可憐ちゃんが知っている先輩でこの人がいいって人いない~?』って言われまして」



 おっと流れがよくない方に傾き始めたぞ。



「……それで?」

「私のクラスと先輩のクラスペアじゃないですか~」



 確かに可憐と俺のクラスはくじで同じだった。



「…確かにそうだが」

「私、言っちゃったわけですよ~」



 ここまでの話の流れでやっと理解が出来た。話の初め可憐が俺を褒めたのも俺の機嫌を損ねないようにするための布石だったのだろう。意味はなかったが。

 これはあれだ非常に後々面倒くさいことになるわけだ。話のオチが分かった俺は可憐が伝えたかったことを先に言うことにする。



「……で言っちゃったのか。『私と同じバイト先の先輩なんてどうかな~』って」

「先輩……。どうして分かったんですか!?まさか、エスパー!?」

「ここまでの話の流れからして分からない方がおかしいだろう。…あと俺はエスパーじゃない」

「そういうわけで先輩、許してくれますか?」

「……」



 上目遣いで可憐が聞いてきたが無視することにしよう。とにかくまだオファーを出しただけで俺に何の連絡もない。成績は中間ぐらいなので選抜されることはないだろう。希望は捨てずに持っておこう。



「先輩-、聞こえてますか?」



 せっかく今日は奢ってやろうという気もこの話でなくなったので洋服屋で結構服を買っていた可憐にささやかな仕返しをしようと思う。



「聞こえてる、聞こえてる。許すも何もないだろう」

「そうですか!よかったです!」



 おっと勘違いしているようだ。許すも何もないを肯定的に解釈すると許すことになるが、俺が言ったのは否定的な意味でだ。


「というわけで、ここの奢りよろしくな」

「……はぁ?」

「ここで奢ってくれたら許してやるよ」


 最初は首を傾げていたが、やっと言葉の意味が分かったらしく慌てだした。


「先輩!先輩!私もうお金がないんです。割り勘に、割り勘にしてくだい!」

「……」

「先輩!先輩ってば!」



 とりあえず仕返しが上手く言ってよかった。必死に俺にすがってきている可憐はほっといて頼んでいたモノを食べ始める。面倒くさいのは嫌だなあ-と軽いノリで考えていたのが悪かったんだと思う。

 


 選抜されることはないだろうという楽観的希望はすぐに消え去ることをこの時の俺はまだ知らなかった。






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