4話
翌日、起きて携帯を見ても特に不審者情報や学校からの連絡メールなど来てなかった。昨日は金曜日で今日が土曜日である。よって学校は休みだ。
昨日のスーパーの帰り公園の付近を通ると人がちらほらと見えた。聞き耳を立てていると警察が来たとか不審者は捕まったのかと聞こえた。あの後、警察が来たのは話を聞いていて分かった。
現場を見たのはやはり俺だけだったのかと思ったが、噂は広がるものだ。それが正しいのか誤ったものなのかは置いといて。
ただ被害者が自分の学校の女子生徒だ。月曜日には否応なしに情報が入って来るだろう。騒がしくならないことを祈るのみだ。
まだ来てない月曜日の心配はとりあえず置いておこう。
今日は土曜日。高校二年生も半分が終わって勉強が忙しくなっていく時期に差し掛かりつつあるが、俺はバイトに行く。お小遣いを稼ぐために……
*********************************************************************************
お小遣い、それは自分の趣味や欲しいものに使う貴重なお金だ。さらにはこの小遣いで買い物など必要な物を買わなければならない。
学費とかは親に出してもらっている。一人暮らし始めて最初の半年は仕送り兼お小遣いが支給されていたが、半年過ぎたあたりに連絡が来た。小遣いは自分で稼げとのことだ。
下に中学2年の妹がいてお金がかかるから贅沢は言えない。妹にも大学にいってほしいからとのことだ。確かに理由としては納得せざるを得ないのだが急にいわないで欲しい……
バイト禁止の学校じゃなくてほんとによかったと思う。世の中バイト禁止の学校もあるみたいだからそんなとこいってたらお小遣いはなく年始にもらうお年玉で一年間生活しなくてはいけない。ほんと悲しすぎる…
でもいざバイトしようと思ってもどこでしようかと最初はとても悩んだ。近所のコンビニ?商店街にある喫茶店?よく行くスーパー?と迷ったりしたものだが割と家から近い場所にある本屋を選んだ。
理由としてはそんなに覚えることがなさそうだったし学校の奴らとばったり会って気まずくならないようにするためだ。正直、すぐ仕事覚えられると思っていたがそうではなかった。仕事侮ってました。すいません
今では慣れたものだが最初のうちはやっぱり大変だった……
仕事はなかなか覚えられず怒られ、レジ打ち覚えられず怒られ、本の位置間違えて怒られ、怒られてばっかだった。
けれどなんだかんだあって一年過ぎた。仕事には慣れて怒られないようになり楽しくバイトしていた。
「先輩、ちょっといいですか-?」
「ちょっとよろしくないから他の人に聞いてね」
「先輩しかいないじゃないですか!?」
けど楽しい時間というものは突然終わりを迎える。二か月前にバイトに新しく入ってきた後輩、花咲可憐によって
もともとこの本屋はそんなに大きくもなく、人もそこまで来ないのでレジが一人で回せる。そのこともあってかだいたいシフトは2~3人で組まれる。
一人がレジ打ち、残った人で本の整理とか掃除とかする。
覚えるのは大変とは言ったけど慣れてしまえばどうってことはない。一人前に仕事をこなしていた二か月前
一緒に入っていた店長にこう言われた『新しく入るバイトの指導係よろしくね!』
さらっと言われたが、人に教えるぐらいはなんとかなると思っていた
『ちなみに新しく入るバイトの子は君と同じ高校の一年生でとてもかわいい子だったよ』
別に教えること自体が嫌いなわけではないし、人と会話すること自体も嫌いではない。必要以上に関わりたくないだけだ。かわいいとかは置いといて
だから俺は期待したのだ
すぐ仕事覚えて会話とか必要以上にしなくていいようにと
そんな期待はすぐ裏切られることとなる
「先輩、この本どこの棚でしたっけ?教えて下さい♪」
「おい、かわいく言ったって駄目だから……。いや…これ何回目だよ…もうバイト始めて二か月だよ?覚えろよ」
「これでも覚えようとしてるんですよ……。かわいい後輩の頼みだと思って教えて下さいよ~」
「だいたい二か月も働いたら覚えられる量だろ?知ってんだからな。俺とじゃない時は聞いたりせずに仕事していること」
「――どうして知っているんですか!?」
心底驚いたように聞いてくる。むしろばれていないと思っていたのか。明らかに二か月もあれば覚えられる量だし、尚且つこの後輩優秀だからだ。
「店長と一緒にシフト入るの俺が一番多いんだ。そこで聞いたんだよ。『いや~新しく入ってくれた花咲ちゃん、仕事もきちんとやってくれるし、物覚えいいし、自分で考えて動いてくれるからとても助かってるよ』って言ってたぞ」
店長はおしゃべりだ。仕事中でもお客さんが来てないときはだいだい話を振ってくる。鬱陶しい時もあるがいろんな話を聞けたり、結構知らないことだったりするのでコミュニケーションばっちりだ。後輩の話も嬉しそうに話していた記憶がある。
唇を尖らせて可憐は言う。
「だってここで働いている人、年が離れている人多いじゃなないですか~。なかなか勇気入りません?歳離れている人に自分から話しかけるの」
まあ、一理ある。ここのバイトの人は結構年が離れているのは事実だし、高校生のバイトは俺とこの可憐合わせて二人しかいないのだ。相手が高校生や大学生ならともかく年が離れている人相手に話しかけるのは勇気がいるものだ。
納得して聞いていると可憐は言った。
「それに比べて先輩ならそんなに気を使わなくていいですし、頼れるじゃないですか~。だから私は先輩を頼っているのです。かわいい後輩に頼られて悪い気はしないでしょう?」
ほんといい根性してやがる。途中までの話なら納得したが最後ので台無しだ。確かに可憐はかわいい。肩までかかる髪に美人というよりはかわいいといった感じに顔が整っている。そんじょそこらの人なら喜ぶだろうがあいにく俺は面倒でしかない。
「はいはい、分かったから手動かそうね-」
「全然聞いてないじゃないですか-!?」
自分が通っている高校実は藤堂 桃花が一番モテているのだが、決して他の女子生徒がかわいくないわけではない。むしろレベルは高いほうだろう。可憐がいい例だ。平均のレベルが高いのだ。だから男子は振られてもすぐカップルが出来上がる。なんて学校だ。恐ろしい。
「仕事の件はもういいです。その代わり面白い話して下さい」
「……変わりに要求することが大変むちゃぶりだって分かって言ってる?俺に聞くこと自体間違ってるだろ」
急に面白い話をしろと言われるほど難しいものはない。なんせ人それぞれ面白さの基準が違うから自分にとっての面白い話が相手にとっての面白い話だとは限らないのである。ましてや俺だ。そんな話など持っている訳なかろうに。
「面白い話なんてないから仕事するわ」
「お客さん来ないし、もう少しお話しましょうよ~」
なんか言っているが無視しよう。まだやらなくてはいけないことあるから。この後輩かまっていると仕事全然終わらないし勘弁してほしい。でもこのままだと仕事しそうにないので賭けに出てみることにする。
「自分の仕事終わらしたら話聞いてやるから仕事しろ」
「……分かりました。今すぐ終わらしてきます!!」
そう言って残っている仕事を片付けだした。賭けに勝っちゃった。じゃね-よ。最初から真面目にやれよ。俺と話してもつまらないだろうに。やる気に満ち溢れて仕事している可憐を見てそう思った。