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2話

  暑い夏を超えて秋の涼しい風が吹いてくる10月の初めの日、ようやく暑さが和らいでくる時期。自分の学校ではつい先日行われた文化祭と体育祭の話題でいっぱいだった。




 いつもはそんなに騒がしくないクラスの中も今は騒がしい。年に一回のどんな生徒にも一番盛り上がれる行事ならなおさらだろう。




 だけど本質はそうじゃない。周りと思い出を共有したいのだ。楽しかったこと、苦しかったことなんかを互いに語り合って確認し合う。そうして自分のなかで安心を得る。自分は仲間外れではないと。





 俺から言わせてもらえばただただ疲れる生き方なのではと思う。それは本当の自分と言えるだろうか?それは周りに合わせている仮初(かりそめ)の自分ではないだろうか?まあ、俺が深く考えているだけで当事者達にとっては関係ないだろう。楽しければいいんだから。






 だいたいこういった行事が終わった後にはある話題でこのクラス、否、この学校は持ち切りになる。男女の恋愛事情についてだ。







 どこの学校でも恋愛の話というものは盛り上がるものだろう。しかしながらこの高校は盛り上がる所が違う。『誰と誰が付き合った』とか『誰が誰に振られた』という話ではない。『誰が振られた』、『またか』という話だ。まるで振られる前提のような言い草だ。






 一つ例を挙げよう。男子がある一人の女子に告白したが、完膚なきまでに振られる。この話を聞いてなんだよくあることじゃんと思う人もいるだろう。





 だがこれが女子が毎回同一人物ならどうだろう?告白しに行った男子が全員振られていることになる。何十人単位ではない。何百人単位だ。この学年、他の学年の男子生徒のほとんどが振られている。周りの奴みんな仲間状態だ。仲間外れになる心配はなさそうでいいと思う。そういう訳でほとんどの男子が振られているもんだから話のネタとしては『誰と誰が付き合ったの~』とかいう感じの話ではなくて『あいつも振られたのか……」という振られる前提の話になっているのだ。





 諦めて、他の女子に告白してカップルになった人たちも少なからずいる。だけど女子の方はたまったものではないと思う。女子は本当に好きだった人に告白されているのは確かだけど自分が本命ではないことは分かっているから。妥協されていることを知っているから。





 決してこの学校の女子生徒が可愛くないわけではない。むしろ他の学校に比べて容姿のレベルは高い方だ。





 では何故こういったことが起きているのか?答えは簡単だ。この学校には一人だれもが羨む容姿、腰まで伸びた艶やかな黒髪に顔も美人よりのかわいい顔立ちをしている。要するにレベルが高い中でもずば抜けた容姿を持っているのだ。そのくせ、誰にも優しく、文武両道、まさに完璧な女子、藤堂 桃花(とうどう ももか)という人物がいる。






 今年で高校二年生になるが、その人気は凄まじいものであり去年の一年生の時は先輩や同級生から告白され、今年に入ってからは先輩や同級生、さらには新入生までに告白される人物である。




 どうして誰もがそんな高嶺の花みたいな人物に告白、言い換えれば結果が分かっているような戦いに挑もうとするのか?ある噂があるからだ。





             

             みんな噂を聞きつけて告白しに行く。








         その噂は、藤堂 桃花 には好きな人がいるというものだ。








 誰がその噂を広めたかは知らないがそれを聞きつけた自称イケメンや、誰が見てもイケメン、容姿に優れたもの、可能性があるかもしれないと寄ってたかって告白に挑戦したが、あえなく失敗に終わっている。俺たちが一年生の時は誰も告白は成功しなかったので二年生に上がり新入生までも挑戦する始末なのだ。






 とは言え今まで告白した人の中にも諦めきれない奴が普通は出てくると思う。だがそんなことは起こらない。ここでキーワードの完膚なきまで振られるということだ。







 普段は、誰にも優しく、誰からも憧れられる存在であるが、告白のときだけ違うらしい。







 別に怒ったりはしないのだが、その人物のことを徹底的に調べ上げてその人物の行動や性格、はたまた下心さえ見抜いてしまう。そして直してほしいところをこと細かく伝えて告白した側は振られてさらには自分の欠点さえもこと細かくいわれ心を折られる。質が悪いことに告白してきた人物に対しての拒絶からくるのではなく彼女の優しさがそうさせるのだ。まだ、きっぱりと言われるならいいとは思うが振られた後で優しく言ってくるのだ。振られた側にとっては地獄だろう。






 こうして色んな奴が挑戦しに行くが失敗しているという訳だ。まあ、自分には関係ないんだけど。






 朝のHR前の暇の時間、クラスが賑わっているの様子観察していた時である。






「また周りの様子を観察してるのかよ。物好きだよな」





 話しかけてきた男の名前は神崎 敦也(かんざき あつや)だ。185cmの長身で少し茶髪が入った黒髪、真面目というよりは少しチャラという感じがするイケメン?だ。





「その物好きに話しかけるおまえも物好きなんだけどな」





 と答えてやる。さて普通の容姿をした俺とこのイケメン?は普通なら接点はなさそうに見える。では、何故接点が生まれたのか?単純に言えばそういう運命だったとしか言いようがない。






 一年の時に同じクラスで席が前後ろだっただけだ。入学したばっかで話す相手がいなかった時に話をしていた。しばらくたって友達も出来だし絡まれることはないと思っていたがこうして今も絡んでくる。何だかんだ言って仲良くしていた人物だ。こいつは噂好きでいろんな人に話しかけては噂を拾ってくる。






 今回の噂も、もう何回聞いたか数えてないぐらいたくさん聞かされた藤堂 可憐の噂だった。








「なあ、本当に藤堂さんの思い人って誰なんだろうな?いろんな人が告白してるけど全部断っているし本当に噂だったかもしれないんだけど。」








 と何気に言ってくる。こういう時は俺の意見が聞きたい時だ。確かににここまでたくさんの人に告白されて誰とも付き合っていないとなると告白してくる奴を諦めさせる方便かいないのか、または本当に好きな人からの告白を待っているのか自分で告白しに行くのを躊躇っているかだ。考えられる可能性はこれくらいだ。







「もう二年生も半分終わったようなもんだし、噂なら噂だし、思い人がいるとして待っているのか、自分から告白しに行くのを躊躇ってるんだと思うけどな。三年生になったら受験で忙しくなるし行動起こすんだったら起こすんじゃね-の?」







「まあ、そうだよな。というか俺たちには縁のない話だし」






 とは言っているもの敦也はモテる。本人は気づいていないが。鏡見てみろってお前……。といつも思っている。




 

 しかし俺みたいな普通の人間には縁のないことなのだ。ありもしないことに妄想を膨らませるだけ無駄だ。周りから見れば俺は輪の中に入って来ない変わり者とされているだろうが別にどうだっていい。俺はこの誰にも干渉されることない生活に満足しているから。



 


 話していると朝のHRの時間が来たようだった。ぞろぞろとクラスの中でもクラスメイトが自分の席に向けて移動し出す。




「そろそろ時間か、自分の席に戻るわ」

と言って敦也も自分の席に戻っていった。まあ、だいたい賑わってようがそうでなくても朝の様子はいつもこんな感じなんだけど。


 

 

 そこからは特に出来事もなく、一日を過ごす。授業を聞いて眠たくなったらばれないように居眠りする。以外ににもばれたことはない。


 

 

 自分達が通っているこの高校は、校則は特に厳しいわけでもなく自由に過ごしている生徒が多い学校だ。いくら自由だからと言って髪の染めすぎや制服の着方が悪いと注意をくらったりはするのだがバイトはしてもいいし、以外に偏差値は高い場所なので度を越えた校則違反はそうそうない。比較的平和な学校とも言える。


 

 


 この高校は各学年でクラスは7クラスずつあり1組から7組ある。自分達の学校は2年で文理選択なっていて2-1から2-4が文系、2-5から2-7が理系となっている。2-4と2-5が賢い奴が集まる、いわゆる特進クラスみたいなものだ。


 




 噂が絶えない藤堂さんは2-4の文系クラス所属だ。ちなみに俺は2-7所属である。だいたい同じ学力の奴らが集まるクラスだから、あまり競争心もなく平和だ。


 



 特に困ったこともなく授業は進んでいく。勉強はどちらかと言えばしたくはないが、学生の仕事=勉強という方程式が成り立つぐらいなので真面目には受けていると思いたい……。


 



 授業を受け、昼休みを超え、午後の眠たい授業を超えて、時は放課後まで進む。


 




 クラスの中には最後の授業を終えて帰る者、部活に行く者、委員会に行く者といろんな人がいる。朝より放課後の方が学校の生徒は活発に動く。勉強が好きな人なんてほんの一握りだと俺は思う。


 



 

 さて、放課後は学校の生徒は活発になる時間。俺は何をするのか?もちろん部活に入っている訳でもなく委員会に入っている訳でもなく、学校で勉強するために残る訳でもない。帰る。一般的に言うと帰宅部組だ。世の中にも俺と同じような高校生はいっぱいいると思う。……多分。

 

 


 


 これで俺の一日は終わりだ。人から見ても特に羨ましがるような一日を過ごしている訳ではない。特に目立つこともなく、何かする訳でもない。平穏にただただ終わっていく。そんな毎日が俺は好きだ。

 


 

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