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~~~これはレストラン竜宮から、船で30分程の距離に位置する本土、『黄泉』。その中でも、いま最も勢いをつけてきている会社『鳥獣銀河カンパニー』の朝の朝礼の風景である~~~
窓からうっすらと光が入り始めた広い倉庫の中、アキナが時計を見て整列する社員に声をかけた。
「それでは、朝礼をはじめよう」
アキナの隣には秘書の女性が立ち、向かいあう形で社員20名が整列し、朝礼がはじまる。
横に立つスーツ姿の女性秘書は、センター分けに灰色の頭髪、長い髪に黒のリボンで結んだ髪型、ぱっちりとした瞳に長いまつげ、目の周りはうっすらと赤く、整った顔立ちに眼鏡をかけている。しかしそのスーツの上着の背部はパックリと開かれて、翼が外に出ている。人間の皮膚の背中から、先っぽは黒色をした灰色の綺麗な翼だ。
そんな人間に翼を生やした見た目の秘書とは対照的に、整列する社員20名の男達は着物を着た人間の身体に、頭部だけ鳩にすげ替えた見た目をしている。
秘書のヘイワがノートを開き、今日の目標と注意事項を伝えた。
「今日は先日仕入れたばかりの新商品『カステラ』がおすすめ商品です。皆で『カステラ』を黄泉の国中で流行らすように、お声かけしていきましょう。それと、挨拶強化期間です。業務で忙しいですが、それでもお客様やすれ違う人などに積極的に挨拶をして下さい。心を込めた挨拶で、新規の顧客獲得できるように、心がけましょう。時間がないので誓いの言葉は省略します。それでは、接客用語唱和をします。
アキナが一呼吸置き、大きく通る声で唱和し、それを全社員が復唱した。
『おはようございますー!』」
「おはようございますー!」
「『かしこまりましたー!』」
「かしこまりましたー!」
「『ありがとうございますー!』」
「ありがとうございますー!」
接客用語を唱和したあと、社員は二人一組で、身だしなみのチェックを互いに行った。
「最後にみんなに報告がある…」
本来なら、ここで社長であるアキナから「本日も一日宜しく!」のかけ声で業務が始まる。しかし今日のアキナの雰囲気はいつもと違った。それから少しの間を置いてから、ふぅっと息を吐き、アキナは報告した。
「…今日、ボクは愛しの乙葉姫に愛の告白をするッ!」
アキナは真っ赤な長い前髪をかきあげ、自分に酔った様子で、20人の部下達に言った。
それを聞いた部下達は先ほどまでとは違い、大いに盛り上がった様子であった。
「さすがっす社長!」
「うらやましいです!」
「あの竜宮王国の乙葉様がウチの社長のものになれば、この会社も益々大きくなるな!」
「ポッポー! ポッポー!!」
そんな盛り上がりを見せる社員達と違い、淡々とした表情でヘイワが提言した。
「あの社長……。水を差すようで申し訳ありませんが、それは止めておいた方が宜しいかと」
「どうして止めるんだ、ヘイワ? まさか君はボクの事が好きだったのか? あぁ…気づかなくて、悪かったよ、ヘイワ…しかしボクは乙葉姫が…」
そう喋り続けるアキナのお尻を思いっきり蹴り上げて、ヘイワは涼しい顔をして言った。
「全然違います社長。私が言っているのは、乙葉様を美問屋のボーノが狙っているとのこと。下手に手を出せば、うちの会社との関係が悪化し、経営にも悪影響が出る可能性があります」
「……! そうか、あの美問屋のボーノも狙っているのか……。それは確かに厄介な話だな」
蹴られたお尻を手で撫でながら、悩んだ様子だ。
その話を聞いていた社員20人もさっきまでとは打って変わり、口々に乙葉との交際を反対する声を上げだした。
「ボーノのところと女を取り合って、争うのはやばいっすよ!」
「あんな大企業の社長相手じゃ勝ち目ないっすよ!!」
「ボーノは昨日も、乙葉様と会っていたらしいですよ」
「女なんて星の数程いますよ社長!」
「ここはボーノに譲って、他の良い人を探しましょう!」
「乙葉様は違法薬物にも手を出しているって噂がありますぜ!止めときましょう!」
「人魚は人間の肉や焼き鳥が大好きってオイラは聞いたことあるでやんす!!」
「それじゃあ、俺らなんか丸焼きにされちゃいますよ!」
「ポッポ―! ポッポ―!!」
それをアキナは一喝した。
「そんな事は関係ないッ! ボクの愛の大きさがボーノに負ける訳ないじゃないか? それに大事なのは乙葉姫の気持ちさ! きっと彼女なら、ボクのこの愛に更なる愛で答えてくれるに違いないッ! そうとなったら、早く彼女の元へ向かおう!」
アキナのその言葉で社員はそれぞれの仕事にとりかかった。
鳥獣銀河カンパニーは海沿いに面した場所にあり、帆船を所有している。
普段はその帆船を使って、遠い地域から、仕入れた様々な食材を、黄泉の都で売る商売を主にしている。その為、社員の役割も仕入れ班と販売班に分かれて行動を取っている。販売班といっても、あらかじめアキナと契約をしたお店に、商品を届けるのが主な仕事であり、その際に、新しい他の商品をお店で扱ってみないか?と提案するのも、この班の役割である。
アキナは帆船の中に、これから向かう鬼島にある『レストラン竜宮』で依頼されていた商品が全て積まれていることを確認し、ヘイワと仕入れ班4名を連れて、船で出発した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
出発から30分程で、アキナ達は鬼島の砂浜から、少し離れた所で船を止めた。そこで錨を下ろし船を止めた。そこからアキナ達は着物の上部分を脱ぎ、背中の翼を広げ、飛び上がり、優雅に空を舞って陸に上陸し、それぞれ上着を着直した。
上陸したアキナが砂浜に置いてある、とある物を見て問いかけた。
「ヘイワ、これってこんな形だったっけ?」
「…いいえ。先週来たときは、確かに正常な状態だったと記憶しています」
今まで4つ足で立っていた亀の石像が、ひっくり返った姿勢で置かれていた。
不思議に思ったアキナが、石像を元に戻そうと、思い切り持ち上げようとしたが、ピクリとも動かなかった。どう考えても、300kg以上の重さはあるだろう。一体、誰が何の為にひっくり返したのだろうと疑問に思った。
「社長、まずは乙葉様の元へ向かいましょう」
ヘイワのその言葉で、ハッと我に返ったアキナはこれから『愛の告白』をする事を思い出し、急速に高鳴る胸の鼓動を感じながら、レストランへ向かった。
レストランの方から、やけに楽しそうな声が聞こえてきた。
窓から見た店内には、我が愛しの乙葉姫と楽しそうに談笑する、男の人影だ!
アキナ達はレストランの青い扉を開き、中へ入った。