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6 チャラ男

*1~5話を少し描写を加え、更新しました。 2017/08/08

 目が覚めると、うっすらと明るくなっていた。

 浦賀は目をこすりながら起き上がり、大きく伸びをした。

 色々と疲れが溜まっていたこともあり、あっという間に眠っていたようだ。

 昨日は信じられない出来事がいくつも起こったが、周りの景色を見て、夢ではなかった事を実感した。

 浦賀はポケットから、スマートフォンを取り出した。


 待ち受け画面に表示される時刻は13:50。最後に見た時間から20分程しか経過していなかった。しかしテラス席と店内をつなぐ、ドアの上に設置された壁時計の短針は5時を指している。 

 

 浦賀はメッセージの確認は後回しにして、スマートフォンに搭載されている機能の一つであるストップウォッチを起動し、計測をスタートさせた。


 ストップウォッチは目まぐるしく数字を変えながら、正確に秒数を数えていった。

「しっかり秒数を数えているな。ということはスマートフォンそのものは正常だ。つまり時間が遅れて表示される原因は元いた世界が、ここに比べて時間がゆっくりと過ぎているからか」


 昔話の『浦島太郎』では、たしか浦島が竜宮城に3年間いる間に現実世界で700年の時が経っていた筈。もしかしたらこの世界もそうではないかと、危惧していただけにホッとした。しかしこのまま何十年も帰れなければ、浦賀だけ年をとり、逆浦島太郎になってしまう。時間のズレから計算すると、ここで生活した一日はおよそ、現実世界での1時間程度だと予想が着く。


 長居はできないが、帰る方法を想像すらできず苛立ちがつのる。

 浦賀は心を落ち着かせよう思い、メッセージを確認した。


 メッセージは二件来ていた。

 一つは植村さんからのメッセージだ。

『わかったー! また今度ね!』

そのあとに、手を振ったウサギのスタンプが添えられていた。

植村さんのメッセージは顔文字や絵文字を使わないが、このウサギのスタンプは大のお気に入りの様子だ。


 もう一件のメッセージはクラスメイトのチャラ男、林藤りんどう 陽太郎ようたろうからだ。

『残念だったね! せっかく植村さんから誘われたのに!笑』

その文章の次に、送られていた画像には、林藤がファミリーレストランで、自撮りをして撮ったであろう5人の食事風景の画像だった。男2人に女3人、植村さんがそこにいた。


浦賀はやられた! と思い舌打ちをした。

考えてみれば、植村さんが浦賀を食事に誘うなんて事は初めての事だった。

推察するに、定期テストが終わった軽い打ち上げとして、林藤が植村さん達を誘ったのだろう。終礼を終えてすぐ、足早に学校を去った浦賀を呼び戻す餌として、適当な理由をつけ、植村さんから浦賀に食事を誘うメッセージを送るように頼み、戻ってきた浦賀をニヤニヤしながら、見るつもりだったのだろう。


 どういう訳か、林藤は浦賀が植村に好意を寄せている事を唯一、知っている人物だ。浦賀を応援してくれるものの、恋愛に不器用な様子を見て、からかったりし、楽しんでいるのだ。


 なんと返信したらいいのか悩んだ末に、慎重に言葉を選んだ。

『次に飯行くときは、もっと早くに誘ってくれ』

 あくまで植村さんとの事はどうでもいいと装い、誘うなら帰る前に頼むよ、というスタンスで返信した。こうする事で『俺は恋愛に対してガッついていないクールな男』を演出しているのだ。


 我ながらカッコいいと思った浦賀はスマートフォンをポケットに閉まって店内へ入っていった。


 キッチンに入るとケイトが黙々と作業をしているのが見えた。

「おはよう」

 浦賀が声をかけると、ケイトは、素っ気なくうなずく。

 ケイトは一人、魚を捌いたり仕込みを行っていたようだ。

「随分、朝早くからやっているんだな」

「姫様は日の出と共に漁に出ているわ。それなのに私は寝ているなんてことはできない」

 そう話しながらも熟練された手の動きは休まることなかった。

 居候の身分でありながら、ただ見ているのが忍びない思いをした浦賀は

「俺にも手伝わせてくれ」

 そう言って、ケイトと並んで作業をした。

 浦賀は幼い頃から家で、家事をしていただけあって、料理は得意であった。その為、ケイト程ではないが素早く作業を行う事ができた。

 

 それから1時間程、経過したところで急に、ケイトの猫耳がピクンっと動き、包丁を置いた。

「帰ってくる」

 そう呟いたケイトに指示されるがまま、滑車のついた大きなクーラーボックスのようなものを持って、浜辺へ向かった。

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