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4 戻れる気がする

 「それで…浦賀。何か、良いアイディアは思いつたの?」

 ケイトが呼び捨てで言ってきた。


 「俺は学生だ。正直、経営の事なんてからっきしだ。いくら魚に関しては仕入れにお金がかからないとはいえ、他の食材はどうなんだ?」


 「それは私が捕った魚を商人から物々交換で頂いております」


 「大丈夫なのかそれ?もしかしたらぼったくられているんじゃないのか?」

 浦賀は乙葉を疑った眼差しでみた。


 「いいえ、アキナ様はそんな人を騙してまで稼ごうとする人では御座いません。明朝にここに商売で来られる予定ですので、その際に是非、浦賀様もアキナ様とお話をなさってもらえれば、わかって頂けると思いますよ。」

 乙葉は必死にアキナという商人を守る様に言った。

 逆にその様子がまた騙されているのではないかと浦賀を少し、不安にさせたが、これ以上言及するのはやめておくことにした。


 「あーそれにしても人魚って凄いな。魚取り放題な訳でしょ?だったら物々交換を止めて、それを売って3000万コツ溜めたらいいんじゃないのか?例えばさっきの手網。あれを漁で使うようなサイズにして大量に魚を捕まえたら直ぐに借金返済できそうだけどな」


 「残念ですが、それはできないんです。このお店を契約する際に結んだ契約の条件の中に人魚が魚を売りさばく事を禁止されているのです。私が本気を出したら漁師の仕事がなくなって路頭に迷う人がでてしまうと説明を受けて、私は快諾しました。」


 「なるほどな。簡単に借金は返せない様にしているのか。じゃあ他に禁止事項とかってあるのか?」


 「いえ、他には特にありません」


 「そうか。何か方法がありそうだが…やはり難しいな。残り30日で3000万、1日あたり100万の売り上げを出さなきゃいけないんだ。例えばお客さんが来て、一人当たり1000円支払うとしよう。この店は店内に30席、テラスはおよそ20席だ。仮にこの店が爆発的に繁盛して、常に行列が出来るとしよう。それでも一日100万の売り上げなんて、このお店が20回満員になって、やっと達成できる数字だ。しかしそんな事は実際には不可能。とてもじゃないが正攻法のレストラン経営じゃ到達のできない借金だな。」


 「それじゃあ、やはり無理なんですね」

 乙葉はガックシと肩を落とした。


 今まで顎に手を当てて、しばらく考えるふうだったケイトが

 「一つ、解決する手段がないわけじゃないけど……」

 「どんなことだ?」


 少し間を置いてから、ケイトがそっと言った。

 「私がボーノ共々、美問屋を殺しちゃえば…」


 「それはダメです!!」

 それに対し、乙葉が直ぐに否定した。


 「ケイト、あなたはもう殺しはしないって私と誓ったでしょ?」


 「ですが姫様…もしこのまま借金を返せなければ、借金返済の為に姫様は奴隷以上のとても酷い扱いを受けるのですよ!」

 ケイトが真摯に訴えかける。


 しかし全てを悟っているかの様に乙葉はそれに答えた。

 「…えぇ、それも覚悟しております」


 「そうならない為に何とか借金を返さなきゃな…」

 あの豚男ボーノの手に乙葉が渡ったらどんな陵辱をされるかわからない。

 浦賀はそれだけは阻止したいが、解決に導ける案が出てこない。


 しばらく沈黙が続いた後に乙葉が重い口を開いた。


 「浦賀様、ケイトを連れて島から逃げて下さい。次来る商船に隠れて乗せてもらえれば、本国へ逃げる事ができます。もうこれ以上私に付き合ってもらうのは二人にも危険です。どうか逃げて下さい。これは私一人の責任ですから…」


 「それはできない。これも何かの縁だ。俺は最後まで君と一緒にこの島で働かせもらうよ」

 「私も最後まで姫様と一緒にいるつもりです」

 ケイトも当然だと言わんばかりの様子だ。


 「それに俺はどうして、この世界に来てしまったの分からなかった。」


 「俺のいた世界には『浦島太郎』という昔話がある。その物語では主人公が虐められていた亀を助けたお礼として、乙姫様に竜宮城でおもてなしをしてもらうっていう話があるんだ。だから俺も最初はそうなんじゃないかと思った。でもどうやら違ったみたいだ。俺はきっと、このお店を助ける為に呼ばれたんだと思う。そうすれば元いた世界に戻れる気がするんだ。」


 「"借金を返済したら助かる"ですか…」

乙葉はその言葉の意味を深く考えている様だった。


 「それに俺もボーノに喧嘩を売った身だ。この島を出てもどうせ、身元不明の俺に仕事なんて見つかりやしない。それならこの店と一蓮托生、最後まで働かせてくれないか?」


 「浦賀様がそこまで言ってくれるなら、こちらこそ是非お願いします」

 そう言って乙葉はニコッと笑った。

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