第七話
「あー、疲れたぁ……」
夕方ごろ、流はようやく王都・ユリアに戻ってこれて、広場にあった木製ベンチに寝転がった。
その木製ベンチにはボスゴブリンが落としたクレイモアと、刃毀れと皹だらけとなってしまったブロードソードを立て掛けていた。
「畜生……ゴブリンを倒したら、今度は大群にして襲い掛かいやがって」
ゴブリン一匹を倒した後、再度数十体現れて心を落ち着かせる暇も無く襲ってきた。
融合魔法とブロードソードを駆使し、体に返り血を浴びながらも、それらを倒したのだ。
返り血を浴びた自分を不潔感と恐怖感で見る者たちがいるが、そんなことが気にならないほどの疲れを感じていた。クレイモアは重いし、ゴブリンを倒すのに疲れた等々苦労が重なるにも重なって。
とりあえずギルドで金をもらわなければ、止まることも出来ない上に金も貰えないので、疲れを無視して動かなければならない。
けだるさを我慢しながらベンチに降り、流はギルドへと歩き出した――クレイモアを引きずりながら。
夕方ごろもあってか冒険者ギルド内は、依頼をこなした冒険者たちで一杯であり、受付にいる職員たちも忙しそうに動き回っていた。
この時間帯ではいつもこのようなものだと受付の少女――アイカは今忙しいこの時間を乗り越えられるように自分に言い聞かす。
そうでもしないとやってられないのだから。
ため息をつきそうになるのを我慢して、次いでにやってきた冒険者の記録を確認し、金銭を払う。
「お疲れ様でした、ごゆっくりお休みください」
「よっしゃあー! みんな、これで飲むぞー!」
『おー!』
金髪の男性を中心にチームで動いている冒険者たちは声を上げながら、ギルドから出ていく光景を見て、アイカは思った。
(それでお金を使い果たして、泣いて仕事をするんだろうなー。 あの人たちは)
あのチームは仕事終わりには必ず一杯と決めている。それで翌日になって二日酔いとなり仕事する――典型的な冒険者タイプだった。
目の前に転がっている楽しいことに金銭を費やすのはいいが、貯金するということはしないのだろうかとアイカは不思議に思っていたが。
(まぁ人のことは気にしてもしょうがないよね、まず目の前の仕事やろう)
アイカは気合を入れ直し、サイド仕事に集中しようと思った瞬間。ギルド内がざわついた。
何だろうと思いアイカが視界を動かすと、そこには血と土塗れで汚れきった青年が目をギラギラ光らせつつクレイモアを両手で引きずりながら、こちらに向かってきている光景だった。
「ひぃえ!?」
腰を抜かしてしまいそうになる光景に思わず悲鳴を上げてしまうが。
「……おいこら、苦労した冒険者にそれはないんじゃねぇの」
「あっ……」
アイカは目を凝らして見てみると、その青年が最近冒険者登録したリュウ・オオヤマであることにようやく理解した。
* * * * *
「とりあえず、依頼確認を頼む」
「しょ、承知いたしました」
流はカードを投げ捨てるかのようにアイカに手渡し、そこら辺にあった椅子に座り込んだ。
「え? な、なにこれ? ゴブリンキングが一体、マジック・ゴブリンソルジャー計三十体、ゴブリンが――ご、五十!? ど、どうなっているの!?」
そんなに倒したのかと流は他人事のように思った。
正直戦っている最中は数なんて数える余裕などなかった、もう無我夢中だったのだ――そういえばレベルアップ音も何度か聞こえたような気がする。
流はステータス画面を浮かべると。
大山 流
Lv 18
EXP 8,800
NEXT 2,200
<魔法属性> 火・水・風・雷・土・闇→NEW
<称号>異世界人 融合士 進化人→NEW ???
(おぉ! 新しい魔法が覚えたっ!)
レベルが上がったおかげか、五種類の属性が六種類に増えていた。しかも闇属性。
新しく覚えた魔法属性で今度はいったいどんな融合魔法を使えるのか、今から楽しみでしょうがないっ……しかし気になるのがもう一つ。
(なんだ、この称号)
レベルが上がりまくっているのは知っていたが、この新しい称号と魔法属性に関しては初めて知った。
流は進化人をクリックし、内容を見てみた。
<進化人>
異世界人補正。レベルが15に上がったとき、自動的にこの称号が受理される。レベルが上がる度に全てのステータスに大幅な補正がつく。
(おぉ、チートだ)
勇者じゃなくともこの恩寵、正直チートとしか言いようがない。
流は新しいことの連続でにやけそうになる貌を必死に抑える――ここでにやけてしまったらただの変人扱いだ、我慢しよう。
とりあえず依頼確認が終了したら、宿屋に戻ってこの嬉しさを爆発させようと決意を固め、早く依頼確認が終了することを祈っていると。
「お、お待たせしました。依頼確認終了しました」
その祈りは叶った。 しかし、何故かアイカは戸惑いを隠せない様子で流に呼びかける――流は表情がにやけていないか顔を触って確認する。
にやけてはいない、問題はない。 気味悪がられない表情ではない、いつも通りの貌だ。
表情は完璧。にやついていることはなかった為、不気味に思われることはない。
なのに、なぜ彼女はそんなに戸惑いを見せているのだろうかと不思議に思ったが、とりあえずはお給金だ。
「はい、ありがとうございます。 それでは依頼金をお願いします」
早く帰って、この嬉しさをばくは――。
「え、えぇっと、依頼金と討伐数を合わせて合計三万と七千五百ギルとなります……」
「…………はぁ?」
する前に戸惑いが大きかった。
三万と七千五百……?
「どうゆうこと?」