第三話
ディーガル草原にたどり着いた流は周囲を適当に見渡した後、早速融合士の力を使おうとしたのだが。
「……どうやって使うんだ? 魔法やら融合やらって」
考えてみれば、自分は現代に生きた高校生。
ファンタジー要素のない世界からやってきた一般人の身、そんな自分が一体どうやって融合を使えばいいのだろうか。
というかそもそも魔法自体が使えるかどうか怪しいのだが……。
「そういえば、よく漫画で想像力が逞しいと使えるとあったけど、この世界も同じようにすれば使えるのか」
物は試し。
集中力を高めるために流は眼をゆっくりと閉ざし、流は頭の中で自分の拳が炎に包まれるのを頭の中で想像する。
猛る炎、自分の右拳までも焼き付かんばかりの強い炎を強く描いていくと。
ゴウッ! と何かが焚きつく音が聞こえた。
「――おぉ!」
目を開くと、自分の拳が炎に包まれているのを見て思わず感激の声を上げてしまった。
自分の拳が燃えているにもかかわらず熱くも感じない上に苦痛も感じない……不思議な感覚だ。
「すげぇなこりゃ……そんじゃあ」
今度は反対側の拳に水に包まれるイメージを頭の中に描くと、流の拳から澄んだ水が溢れ、包み込んだ。
「ふむ――意外と簡単にできるんだな、魔法って」
両拳に宿る炎と水を宙に浮かぶようにイメージすると、炎と水が両拳から離れ、同時に炎と水は球型と変形し、流の頭上まで上がった。
「魔法は完ぺきにできるな……今度は融合か」
頭上に上がってある炎と水を融合させようかと考えたが、相性が悪い上に反発があった際、自分に何かしらの負担がかかる可能性があるため止めておく。
それならばと。
次は拳大程の土塊を生み出すと同時に、それを水の球に入れ込ませると、先ほどまで澄んでいた水が汚れきった泥水へと変化した。
同時に頭の中にピロロロロ~ンという力が抜ける音が響いた。
【融合魔法:ハイドロを覚えました】
「自分で創って覚えるっていう形なのか、この融合魔法って……」
中々面白いものだと流は思った。 戦いの中で相手の弱点を突くような方法を融合魔法ならば作れるかもしれない。
戦いのバリエーションが増えること間違いなしと思った瞬間。
「――!」
背筋に寒気が奔った。 それと同時に流は前方に転がると同時に、自分の居た場が抉り取られた。
流はすぐさま立ち上がり、背後を見ると――紫色をした毛深い熊が地面に腕を突っ込んでいる姿があった。
しかし、その熊は流を見る目を完全に獲物として捕らえ、地面から引き抜かれた腕と熊の手には所々に血痕が残されていた。
「おぉ。 これがディアベクスってやつか」
脳裏に残っている『モンスター図鑑』に書かれていたディアベクスと照らし合わせると、同一モンスターと捉えていいだろう。
初めて見るモンスターになぜか流は恐怖を感じなかった。それどころか胸が熱く、興奮している。
「そんじゃま、いっちょやらせてもらいますか」
「グルゥオオオオオオオオ!」
流の言葉が開始の合図と捉えたのか、ディアベクスは叫び声をあげて腕を振りかぶる。
「グリュバぁ!?」
流はさっき覚えた融合魔法のハイドロを右手から、泥水をディアベクスの顔全体に浴びさせるようしにながら、口元を狙って発射させた。
「大量に飲めよ~、うまいからな」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら流はハイドロをディアベクスに飲ませていく。
反撃をされないようにディアベクスに向ける手を決してそらさず、一心に向ける。
2~3分ほど経ってからか、流は突然にハイドロを止めた。
「ショータイムかな」
「グルル―――ギュ!?」
ピーギュルルルゴロロロロロロ。
突然、腹の鳴る音が響き渡る。 ディアベクスがそれが自身の腹の音だと理解するまでには時間がかからなかった。 急激に腹に痛みが奔みだし、それと同時に吐き気も催し更には脳みそがかき混ぜられているのではないかと言わんばかりに頭痛がする。
ディアベクスは立っていられるのもつらいのか四つん這いとなるが、更に痛みは増してきたついには倒れ込んでしまった。
「泥水をあんなに飲めばそりゃそうなるよな」
不衛生な泥水を飲めば下痢症による脱水症状を引き起こす――人間ならだれでも知っている知識だ。
魔法によって創られた泥水だったため効果があるかどうかは分からなかったが、成功したようだ。
「もう動けなさそうだな……あとは勝手にのたれ死んでくれ」
流はそう言って、ディーガル草原から離れるため歩き出した。
背後から嘔吐と排便音が響き渡ったが流は特に気にすることなく、王都へ戻るために歩みを止めずに進んでいった。