第一話
「どうだ? 勇者の称号はあったか?」
「はい、ありました! う、うわぁ、俺、本当に勇者なんだな……」
流が自分のやるべきことを確認した際、周囲にいた人たちの話が進んでいたようだった。
興奮気味に声を上げて答えたのは明弘だった。
「なぁ眞百合! お前はどうだ?」
「うん、信じられないけど、あたしにもあるわ。 勇者って文字が」
明弘に言われて答えたのは、須崎 眞百合。
彼女はクラスの中で思ってることを素直に言い、屈託なく人と接する。
見た目は茶髪で髪を短く切りそろえたショートカットをしている。胸は控えめだが、スレンダーな体格をしているため、目を惹きつける。
「海渡と咲良は?」
「俺にもあるぞ」
「わ、私にもありました」
同じく近くにいた二人の少年少女にも声をかける。
巻川 海渡はスポーツ刈りをした骨格の広く、肩幅も広いため、傍から見ればラグビーの選手のような体格を持った少年である。
もう一人は水森 咲良は綺麗な黒髪を腰まで伸ばしたロングへアーだ。
こちらは眞百合とは違い、豊満なボディを有しており、優しい目つきで穏やかな雰囲気を漂わしている。
海渡と咲良にも勇者の称号があったようだ。
そこで、次は当然のごとくデオラとアリアンが流に視線が向かう。
「あの、貴方様にはありましたか? 勇者の称号が」
「ん? いや、ない」
流はアリアンの言葉をばっさりと切り捨てる。
その言葉に先ほどの興奮した雰囲気からシィンと静かさを取り戻した。
「え、な、ない、のですか?」
「あぁ、称号は異世界人としかない。 どうやら、俺は招かざる客ってやつらしい」
「なっ、バカな! アリアンが行った召喚術は勇者召喚の儀! 他の者が呼ばれることなどありえぬ!」
「そう云われても、俺は勇者じゃないのは事実。そっちが勝手に召喚したんだ俺に非はない――それで元の世界に返してくれるのか?」
この世界で冒険すると決めた流だが、一応元の世界に戻れるかが気になったためデオラに聞いておく。
するとデオラは苦い顔で
「……古い文献では勇者は魔王を倒した後、この世界で平和に暮らしたとしか書いてはおらん」
「あっそ。 じゃあ勇者とは関係なく、無関係で一般人の俺はこの国で何をすればいい?」
「む、むぅ、それはだな」
デオラとアリアンは勇者を求めて召喚の儀をしたのだ。
勇者とは何も関係のない存在までも来るとは思わなかったため、いったいどうすればいいのか迷っている二人。
しかし、そんな二人の様子に対しどうでもいいと云わんばかりに流は淡々と伝える。
「ないなら、俺は自由にさせてもらってもいいか? 無関係なこいつらに巻き込まれて、そのまま一緒に戦ってくださいなんて御免だからな」
「む……むぅ、其方の好きにせい」
デオラの言葉をもらった流は早々にこの場を立ち去ろうとして背中を向けると、ガシッと両肩を掴まれた。
「おい! そんな言い方ないだろ!」
「そうよ、この人たちはあたしたちを求めて呼んだのよ! それが答えるのが、男ってやつでしょ!」
流の肩を掴んできたのは、明弘と眞百合の二人だった。
肩を怒らせるように振る舞う二人をめんどくさそうに流はため息をつき、「思わん」と言ってパシンと二人の手を叩いた。
「なっ……!?」
「ちょっと、あんたって人は!」
「そもそも俺は呼ばれたわけじゃない上に巻き込まれたんだぞ。 それに俺は勇者じゃないし、無関係であるお前らと一緒に戦う義理もない」
「あの、大山君と私たちはクラスメイトなのですが……」
「それは学校側が勝手に作って決めた関係だろ、そんな関係でよく一緒に戦いましょうってよく言えるな」
バッサリと切り捨てる流と冷淡な態度に、咲良は寂しそうに顔を曇らせ、明弘と眞百合は憤りを覚えた。
しかし、そんな三人を他所に流はこの場から早く去ろうと足を動かした。
「んじゃあな。 頑張って勇者様としての仕事をやってくれ」
「おう。 お前も気をつけて生きていくんだぞ」
海渡は流を引き留めようともせず、ただ彼の旅立ちを祝福した。
流は海渡の言葉に軽く手を上げるだけで返し、そのまま王の間から出ていった。