第十七話
「兄ちゃん、これで何本目だい。 剣をこんなにポキポキ折る奴なんて見たことないよ」
「……でしょうね」
武器屋の店長に皮肉られて、返す言葉もない流は苦笑いしながらロングソードを手渡す。
店長は受け取ったロングソードと流を交互に見ては、ニヤリと笑みを浮かべてテーブルの下から一本の剣――ブロードソードを取り出した。
「それは?」
「こいつはね処分に困っている奴だ……良ければこいつを購入しないかい? ロングソードと同じ五千ギルで」
「いや、そう聞いて買う奴なんていないですよ」
なぜブロードソードがロングソードと同じ価格か疑問に思い、流は思わずしかめっ面にしながら言葉を返す。それならば強度の高いロングソードを買う方が得の筈だ。そんな流の考えを見抜いたのか、店長は。
「一応普通の剣じゃないんだな、これが」
そう云ってブロードソードを抜く。その刀身は通常のと違い、刀身が点滅しながらも白く淡い光沢に輝いている。確かにこの剣は普通の剣ではない。これは一体何なのだろうか、流は顔を上げて店長を見つめると語りだした。
「そいつはね、欠けた魔石で創られた魔剣擬きさ。本来の魔石で創られたんだったら所有者のイメージで形状が変わる奴なんだけど、こいつはそれすら出来ない奴だ。出来るのは魔法を組み合わせることしか出来ない……所謂魔法使いの剣用かな」
それを聞いて流は目を輝かせて「こいつ買います」と即決した。それは店長にとっては寝耳に水で思わず目を剥いてしまう。
「ほ、本当にいいのか? 耐久性はあるけど、魔剣擬きだぞ?」
「いや、俺にとってはこいつは最高の剣ですよ」
従来の魔石による剣は形状は変化出来るが、このブロードソードは出来ないことはよく分かった。だが、魔法を組み合わせることが出来る剣は流にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。この剣はもしかしたら融合魔法に適用できるかもしれない、早速実験する価値がある。
流は早速五千ギルを払いそのブロードソードを鞘に納めては、店長から離れる。そして扉のドアノブを掴んでは「いい買い物をさせてもらいました」と云って、店を出ていった。
そんな流を呆気に捉えながら見ていた店長は頭を掻く。
「ま、まぁ、売れ残りを処分出来たってことでいいか。一応、あれも武器の一つだし、壊れないだろう、うん」
自分に言い訳するかのように店長がぶつぶつと呟いては店の奥に入っていった。
* * * * *
「こいつだったら魔法剣が使えるかもしれんな」
流は意気揚々と歩いている。腰に差しているブロードソードを撫でながら。傍目から見れば怪しい人物としか思われないが、それよりも流は早く実験したいという気持ちでいっぱいだった。昨日失敗してしまった魔法剣が成功できるかもしれない……それだけで気持ちが上がってしまう。
しかし、これからギルドに行って仕事をしなければならないのだ。その時までには落ち着かせなければならない。
流は自分で言い聞かせていく内に、ギルドに到着し、扉を開く。開いた直後に周囲から見る流の目は変わらず敵意丸出し……本人抜きでの後始末をやらされているのでそれも当然のことである。
流は苦笑して特に気にせず、何時も通りに受付嬢の元に行こうとしたとき。
「ちょいといいか?」
声を掛けられて顔を振り向かせると、そこには先日に男の股間を潰した少女――リーザの姿があった。
流は「こんにちわ」とあいさつしながら身体を振り向かせて、彼女と向き合った。
「あんた、今から仕事だろ? それだったらちょいと頼みたいことがあるんだけどいいかい?」
「……ランクが下位の俺でよければ引き受けますよ」
その言葉にリーザはカラカラと笑いながら流の肩を叩いた。
「はんっ、自分よりランクの上にいる奴を怯えない上に嗾けた奴が何言ってんだ。 それにあんただったら大丈夫だって確信しているんだ……一応こう見えても人を見る目はあるはずだからな」
リーザの強気で迫力のある言葉と威圧、そして強い瞳に流は呑まれ掛け動けなくなってしまう。彼女の威圧と言葉だけに流は完全に圧倒されてしまったのだ。それもそのはず、流は成長していると云えどまだまだヒヨッコレベル。対する彼女は戦士として成長を遂げているのだ。呑まれてしまうのも当然である。
「? おい、どうしたんだよ?」
しかし、彼女の言葉に漸く流は引き戻され、次いでは気を引き締めてから頷いた。
「ははっ、ごめんごめん。 ちょいと意地悪すぎたかな……でも安心したと、そん位のレベルだったら問題なさそうだ」
リーザが笑いながらそう云うと、そのまま受付場まで歩いていった。どうやら狙ってやった挙句に遊び感覚でぶつけられたようで、流は悔しく唇を噛んでしまう。
思い知らされてしまったのだ自分は弱いと……しかも自分と同年齢か或いは下かもしれないリーゼに。
無論彼女に対する報復心はない。だがやはりやられっぱなしというのは気が収まらない。依頼をしっかりとこなして、少しでも力を付けて成長している所を見せつけてやると決意した流であった。
そして気合を入れるために、掌に拳を打ち付けては「よっしゃっ!」と叫んだ。
「いいねぇ、気合十分って感じだぁ! んじゃあ、そのまま依頼に行くよぉ!」
既に受付を終えたのかリーゼが流の元に来ては、その肩を思い切り叩いた。しかし、リーゼの力は思いのほか強かったのか思わず「うがぁ」と悲鳴を上げる流であった。
「情けないね……これから行く仕事はちょいと過激だよ? ミラン山道にいるメタルドラゴンを討滅だ――しっかりと気合を入れなっ!」
リーゼの激励の言葉に流は頷くと同時に顔を若干青く染まった――まさかまだ依頼を数件もこなしていない上にゴブリンしか討伐していない挙句に、初のドラゴン討伐になるとは思いもしなかったのだ。しかも、同業者同士組んでの戦い方も知らない……。
(大丈夫かな、俺)