第十六話
お久しぶりです。
短いですが、どうぞ読んでください。
「あーつかれたぁ」
ヒメナに料理を一緒に作らされた流は疲れ果てた様子でロングソードを机の上において、ベットの上に勢いよく横たわる。
元の世界ではあまり料理はしていなかった挙句に殆ど作ってもらう立場だった為に、自らの手で作ることがなかった流にとって、ヒメナのしごきはとてもついていけなかった上に厳しかった。
「ふぃー、今度からは食材を見てから購入するかね」
異世界に来てからというものの、流にとって新鮮な事ばかりしか起こらない。
剣や魔法、魔物と対峙し戦うこと、物品や食材を選んで購入すること等々――不謹慎かもしれないが楽しいのだ、元の世界では決して味わえないことばかりだ。
(まあ、楽しいことばかりじゃないけどな)
食材に関してはまさかの欠損品が見つかったり、依頼を果たして金を稼いだり、上級魔物を発見し死に掛けたりと勿論苦痛な事ばかりある――しかし、それがこの世界で生きるということなのだろう。
(やるしかねぇよな、うん)
気合を入れ直してそのまま入眠しようと考えたが、ロングソードを見つけて思いついたことが。
「融合魔法って、道具と魔法を融合させることが出来るってあったっけ?」
流は思いついた。このロングソードと魔法の融合技を。
さっそく試してみようと思い流はロングソードを抜いて、意識を刀身に集中させる。
思いついたその技とは、ゲーム御馴染みである魔法剣と云われるもの――魔法の力を秘めた剣。 もしくは魔法と剣技の合わせ技。
無論今は戦闘ではなくお試し、更にここは部屋の中だ。派手な魔法剣は控えるため、水の魔法によるものにしよう。刀身に纏わりつくのは水気と湿り――そう意識させると鍔元から水が湧き出て、刀身に纏わりついた。
「おぉ!」
喜びを露わに声を荒げると同時に、水を纏っている刀身が鍔元から徐々に錆びついていくのが見えた。
「っえ!?」
喜びは即座に消えて慌てて魔法を中断する。それと同時に纏まった水が床にぶちまけられ、更には錆びついた部分から刀身が折れた。
「なっ、なんで?」
剣というのは錆びないために油が敷かれている、それはロングソードも同じである。しかし、流は水の魔法によって油を落とした挙句にそれを更に水で被らせたために赤錆が生まれてしまったのだ。
そしてロングソードはただの剣で、仮に魔法剣を使うのであれば魔力の籠った石、魔石で生成された剣でなければ使えないのだ。
つまりは流が試した実験は失敗、ロングソードは呆気なく壊れてしまった。
また魔法と道具の融合による魔法は基本的に相性がある。成功するには同じ材料か、材料の組み合わせによる相性によって成功するのだ。今回のは市販のロングソードと魔法が合わず、このような結果を起こした。
「くそっ、試さなきゃよかったぜっ」
好奇心による失敗によって床は濡れて、ロングソードを壊してしまい、散々である。流は大きくため息をついて反省をする。
融合魔法は万能ではないこと、そして下手な好奇心は失敗を招くことを。
(……とりあえず、雑巾貰いに行くか)
ため息をついて流はベットから起き上がり、居室から出る――そして響き渡る「折角綺麗にしたのに、何してくれてるのよっー! もーう!」というヒメナの怒声。