第十二話
流が『宿屋兼食堂ルナ』に滞在決定後。
ヒメナはこれからの『ルナ』に役立てる物を買いに出かけてしまった。『ルナ』にいても特にやることがない流は冒険者ギルドに赴き依頼をこなそうとしたのだが。
「……本日は何様ですかー?」
「冒険者を迎える受付嬢がそれでいいんですか?」
「昨日に事件を引き起こしておいて逃げ出したあなたが言いますかー、ほー、ふーん」
流がギルドに入った瞬間、受付嬢のアイカが一気にやる気が失った顔となり不愛想な声音で云った。また周囲にいた冒険者たちも恨みがましい目で睨みつけてきた。
……昨日のことだろうか、やはり。
「俺、ちょっかい出されて正当防衛をしただけなんですけど」
「だからと云って逃げ出す人いますか、せめて引き起こした張本人なんだから手伝いをしてくださいッ! 昨日は散々でしたよっ、なんで悲しく男の糞尿を掃除しなくちゃいけなかったんですか!?」
……それは災難なものであるが、やはり流からしてみればただのご愁傷さまである。
流からしてみれば勝手に突っかかってきたあの冒険者が悪いと思い、また自分は正当防衛だと思っている――だがとりあえず一言。
「あー、お疲れさまです」
「……っ」
いけしゃあしゃあと云う流にアイカは苛立ちが一気に上がる。しかしそんなアイカはどうでもいいといわんばかりに流は掲示板を見に行った――。
『ランク:F クリオネの森 食材収集 報酬額:食材数によって変化』
『ランク:F 孤児院の孤児たちの面倒を見てほしい 報酬額:500ギル』
『ランク:C ミラン山道にいるメタルドラゴンを討滅 報酬額:90,000ギル』
他にも気になる依頼書はあったものの、まず目についたのは食材収集の依頼書だ。クリオネの森での食材収集……丁度いいかもしれない。
(食材がもらえれば、ヒメナさんの上手い飯も食える……いやでもこれってもらえるのか?)
というよりも食材収集とあるが、いったいこの世界ではどんな食材があるのだろうか……。とりあえずは話を聞いてみればいいだろうと流は食材収集の依頼書を持ち、それをアイカに提出する。
「はぁ、ええっと、食材――キルカの葉とコロの実ですね。 両方合わせて四百ギルなので、根気よく集めてください、こちらが食材となります」
諦めたかようにため息をついたアイカは受付場の下から『食材書』と書かれた本を取り出すと、捲りだし、二つの食材について書かれているページを流に見せる。
キルカの葉――見た目は完璧に地球で云うゼンマイだ。しかし、色合いは青く、瑞々しさを感じられる。
コロの実――小石程度の大きさの紅い三日月型の実だ、見た目的に辛そうで、また実の表面には小さな斑点が見られる。 見た目が完全に地球で見たことがある食材たちのため、流はすぐに覚えることが出来た。
しかし、この材料は普通に耕せば手に入れることが出来るのではないかと流は思った。
そんな思いが顔に出たのかアイカはため息をついて説明をしてくる。
「この二つはクリオネの森ならではの自然の恵みによって生まれた食材で、人間の手では決して作れない生命力と美味しさがそれにはあります……魔物がいるから自分では取りに行けず、こうやって依頼があるんですよ」
……云われてみれば――というよりも今更ながらだが、確かにここは地球と比べて自然も空気も感じかたは違う。 地球では不純物が混じったようなそんな空気を感じるのだが、こちらでは清潔感というか爽快感を感じるような空気を感じるのだ。
確かにここならば食材たちも生き生きとして伸び伸びと成長はするのだろう――しかし、流にとってはそんなことは関係ない。
「因みに、その食材ってもらえます?」
その食材でヒメナにいったいどのような料理を創ってもらおうかとしか考えていないし、まずそれがもらえるのかが気になる。
そんな流と言葉を聞いて、思いっきりため息をついたアイカ。
「……依頼人が貰いたい分だけを提供すればいいと思うのですが――あっ依頼書に合わせて最低でも三十は欲しいと書かれてありますので、それくらいかと」
「そうですか、ありがとうございます」
提供分さえ分かればこちらの物だ。必要な分さえ提供すれば依頼は完了するのだから。流はアイカに礼を言ってそのままギルドを去ろうとしたとき。
「あっ、そうだ! クリオネの森に上級モンスターの影が見えたという報告を聞いたので、ご注意をお願いします!」
「…………肝に銘じておきます」
何だろうか、アイカの言葉がフラグにしか聞こえないのは気のせいだろうか。
* * * * *
クリオネの森に行く前に流は武器屋に立ち寄り、三千ギルのロングソードを購入。
その後はすぐさまクリオネの森に入った。
二つの食材は意外と発見しやすかった。
キルカの葉は小さいながらも形が完全にゼンマイだったため、目につきやすくすぐに拾えることが出来。 コロの実は木々の真下に落ちて転がっているため、早々に二十個近くになった。
あと十個で依頼は完了することが出来る……それが済めば今度は自分の為に集めなければならない。
「早く見つけて、ヒメナさんに創ってもらおっと」
どんな料理を創ってもらえるのだろうか今からでも楽しみで仕方がない。流はウキウキ感をそのままに歩を進めていくと。
「キュアアアアアアアアアアアアッ!」
鳥の鳴き声――しかし元来の鳥とが違い、先ほどの鳥の鳴き声は野太く、そして耳が劈くような声だ。
流はすぐさまロングソードに手を掛けて振り向くが、そこには何もいない……どうやら今いる地点より遠いようだ。
今この場を離れるべきだが、先ほどの鳴き声が一体何なのか確認はすべきだろう。
流は忍び足で進め、且つ茂みに身を隠しながら進んでいった。