プロローグ
大山 流はいつの間にか知らないところに立っていた。
先ほどまで自分が通っている高校の教室で昼飯を食べようとした、しかし何時の間にか周囲にいたはずの生徒たちや机がすべてなくなり、いつの間にか重く湿った空気が充満する地下にいた。
そして、ここにいるのは彼だけではなく。
「え、ちょっとなにここ!?」
「どうなってるんだよ――咲良、海渡! 大丈夫か!?」
「は、はい」
「大丈夫だ、しかし――」
ほかにも四人の少年少女の姿がいた、確かクラスでも有名なリア充4人組だったような気がするが、流は彼らのことを無視してあたりを見渡す。
周囲には申し訳程度の蝋燭が設置されているのと、ローブを纏った神官が数人、そして全身を黒に染め上げたドレスを身にまとった少女が一人いた。
全員、表情にはかなりの疲弊感が見られているが、なぜか自分たちを見て興奮気味になっていた。
彼女たちは流たちを見て、「おぉ!」と歓声を上げていた。
「姫様! やりましたな!」
「あぁ、ついに苦労が報われた……」
「ついに呼べましたなっ!」
神官たちは興奮さめ上がらぬ様子で姫と呼ばれた少女に声をかけている。
「やっと、召喚ことが出来ました……」
――――勇者様たちをっ!
(勇者?)
流は少女の言葉を聞いて考えだす。
まずこの場所を見て、間違いなくここは自分たちの知っている場所ではないと分かる。
先ほどまで流は教室にいた、しかし突然床から金色の光があふれだし、あっという間に自分の意識を塗りつぶした。
そして、目を開くと、いつの間にかここにいた。
(ラノベみたいな展開だな……)
流は呆れつつもため息をつき、頭を掻いた。
「皆さま、詳しい内容については上の階にある<国王の間>にてお話いたします。ですから、私についてきて下さい!」
* * * * *
「おぉ! アリアン、ついに成功したのだな!」
「はい、お父さ――いえ国王様。 勇者召喚の儀はついに成功いたしました」
流たちが案内された場所は、高価とわかるような赤い絨毯がひかれており、左右には均等に柱が何柱もあり、天井が高く室内が広々としている間であった。
奥に見える大きな椅子には、金の王冠や、マントに装飾品の付いた杖を持った王が座っていた。
「あ、あの! ここはいったいどこなんですか!? そもそも、貴方たちは」
「まぁ待たれよ。 突然のことで戸惑いばかりがあると思うが、今から説明いたすゆえ……」
勝手に自分たちを呼び出しておいて、その態度はいかがなものだろうかと流は思ったが口にはしなかった。
流たちを召喚したこの国の名は【王都・ユリア】。
この世界【イヴィーデス】にある広大な大陸『ハイリア』に住む人間族を統一する国の一つで、国王・デオラが治める国。
【イヴィーデス】には広大な大陸『ハイリア』だけでなく、小さな島国や大陸が所々に存在しているが、まだどこに何があるかが確認されていないのだ。
またこの世界には人間だけが存在しているわけでなく、それぞれの種族が存在している。
亜人族――獣の特性を身に着けた人種で、【獣王国・メイトル】を治めている。
魔族――人間族や亜人族よりも能力的に高く、強大な魔力を有している人種で、【魔国・ドルーダ】を治めている。
今【魔国・ドルーダ】の王が人間族を滅ぼそうとしており、魔族による襲撃による被害が多い。
人間族もそれに立ち向かっているが、力及ばず、追い込まれている。
人間族は古い文献に残る勇者召喚を使い状況を変えようとして、デオラは自分の娘――王女であるアリアンに流たちを召喚させたのだ。
「信じられません……俺たちはただの学生ですよ? そんな、勇者だなんて」
短く清潔に切りそろえた黒髪に中性的な顔立ちをした少年――桂木 明弘も戸惑いながらもデオラに否定の言葉を投げかける。
「それならば、みなさん。 確認を取っていただけますか?」
「確認といわれましても……」
「それは簡単じゃ。 ただステータスと念じれば、お主らの力やこの世界で課せられた称号を見ることが出来る、やってみよ」
流はデボラの云われるまでもなく、心の中で念じる。
すると、ゲームで見たことがあるステータス画面が広がった。
大山 流
レベル 1
EXP 0
NEXT 8
<魔法属性> 火・水・風・雷・土
<称号> 異世界人 融合士 ???
(どうやら俺は勇者じゃないようだな……)
称号には勇者と書かれてはいない、書かれているのは上記二つだけだった。
またゲームのようにレベルや魔法属性などあるらしいが、HP・MP・ATKなどの自分たちの力を示す能力値は出ないようだ。
どうやら、元の世界でも同じように、こちらの世界でも深手を負ったりすれば死んでしまうのだろう。
しかし、レベルと魔法属性と称号だけのステータスとはあまりにも中途半端すぎる、せめてATKやDFFなどといった能力値も出来れば提示してもらいたかった。
(中途半端すぎないか……これ)
現実とゲームを半々に混ぜ合わせた世界なのだろうか、ここは。
どうせならRPG的な世界のようにしてくれればいいのにと流はぼやいてしまう。
閑話休題。
それよりも面倒な称号を持たなくて済んだと流は安堵している。
ここで勇者とかいう称号があったら、国の希望やら世界を救ってくれるやらの期待を背負って戦わなければならないのだから。
しかし……。
(なに、この融合士って)
気になる称号があるのが気がかりだった。
また、魔法属性も五つあるとはどういうことなのだろうか……。
流は何気なく融合士という称号に触れてみると、ゲームウィンドウのようなものが出てきた。
<融合士>
二つのものを一つにさせ、異なるものを生み出せる融合をつかさどる魔術師。
また基本となる魔法属性すべてが使える。
<能力>
異なる属性の魔法を融合し放てる魔法と、道具と魔法を融合させて放てる魔法――融合魔法が使える。
また、道具同士の融合させる道具融合も使用可能。
(おぉ、中々の能力だ)
所謂戦う錬金術師といったものだろうか。
(このクエスションは……だめだ、表示されない)
ポチポチ押してはいるが、表示することが出来ず、ただスカッという気の抜けた音しか響かなかった。
このクエスションには早々見切りをつけて、融合士の欄を見る。
中々面白い能力を持っているもので、この世界で生きていくには申し分のない力だと流は思う。
勇者という称号ではない以上、自分はこの国に従う気はない。 ならば次の行動はすでに決まっている。
(そう、冒険だ)
異世界という地球とは全く違う生物や植物に地形。
いったいどんなものが在るのかと思うと、今にでもワクワクが止まらない……。
元の世界でもやっている、自分の趣味をやらせてもらおうではないか。