それでいい
俺らは何処で間違えたのか。普通に愛を育み、今後未来へと続く、苦難と幸せに思いを馳せる。
「何処で間違えたのだろうな」
それに対する答えは、一筋の銀色に尾を引く線。俺はその線を躱し、愛する者へ向け命を刈り取らんと銀色の弧を描く。どんなに愛し合えど、どんなに互いに夢を見てもそれは所詮は幻影にしかならなかった。愛する者を殺めることでしか生き残れない現状。
俺と彼女を使った代理戦争。恨むべきは、国かそれとも生まれか。どちらも恨み、死にゆくことは変わらない。
言葉すら交わせない、会話はお互いの握る剣のみ。最期の会話が死へのダンスとは、俺達らしい。どちらが生き、どちらが死ぬか、話し合う気などない。銀色の筋が2度交わり、甲高い音を立てる。まるで俺の選択を彼女が批難しているように。徐々に身体の動きに、精彩が欠けてくるのが自分でも分かる。
相手陣営からの最期の晩餐という名の麻痺毒が身体の自由を奪う。分かっていて口に含んだ。自分が選んだ選択に、責任を少しでも他の所に擦りつけたかった。いや、彼女に少しでも生きている理由を与えたかっただけかもしれない。
心臓へと伸びる銀色の筋をチラリと見た後、最期に焼き付けたい彼女の姿へと目を向ける。まるで全てを悟ったかのように彼女は優しげな笑みを一筋の雫を頬に伝わせながら浮かべていた。
「それでいい」
自分の口から発した言葉は、愛の言葉ではなくただ相手の行動を褒める一言。言いたいことは沢山ある。今なら、山よりも高く海よりも深い愛の言葉を囁くことができるかもしれない。
彼女の鈍く光る剣が俺の胸を熱くし、視界に闇を広げていく。何か言わなければ、そう思うが口が動かないもどかしさ。そして背中に響く振動で、俺は倒れたことを知る。
もし今願いが叶うのならば、あの幸せだった頃に戻りたい。もし時を戻せるならば……君に最初で最後のこの気持ちを伝え、夫婦となろう。今回のように、邪魔が入る前に。
死という壁が俺らを分け隔てるのならば、君は生きて幸せになれ。そして……また会おう。俺の我儘を許してくれ。そんなことを願いながら、意識は闇へと落ちていく。最期の愛する者の姿だけを土産にただただ暗闇へと堕ちていく。
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