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セガサターンが悪い(作者の住んでる地方で「遅れてごめんなさい」の意)

 トゥルーデは午後も遅くになって起きると、



「資料庫整理で用事があるから、午後も任せる」



 返事も聞かず、資料庫に篭ってしまった。


 朝方の会話がまだ気になる副長は、不満たらたらに書類仕事を続けた。


 朝から機嫌の悪い副長に、隊士一同恐れを為していた。

 

 当番の者は、出奔するかのごとく見廻りに出て、昼に戻ることもなかった。

 非番には稽古をする真面目な者も、何かと理由をつけて屯所を離れた。

 屯所に居なければならない待機番は、息を詰めて仕事をこなした。


 麗人だが冷酷鉄仮面のお頭も恐ろしいが、わかりやすく強面で厳しい副長も、十分恐ろしい上司だった。

 







 副長の不満と、隊士の声なき悲鳴を無視してトゥルーデは資料庫に居た。



「よろしいのですか?」

「何が」

「長官が資料庫に篭っている事です」

「平時の執務で私でないといけないものはない」

「そういうことではないのですが……」

  


 人相書を渡して、苦笑のフラーケは別の棚の整理に向かっていった。

 フラーケは、宰相から派遣してもらった文官だ。隊士ではないため屯所に常駐している。


 警備隊から回ってきた人相書を捲りつつ、見るともなしに見ている。

 起きた時間が遅いだけに、明り取りの小窓の向こうも夕焼けに染まり始めていた。


 それから日が沈んでも資料庫にトゥルーデはいた。フラーケは灯りと鍵を渡してから既に帰宅している。


 

「お頭、いらっしゃいますか……?」



 蝋燭の燃える音しか聞こえない資料庫に、久方振りに人が入ってきた。

 草臥れた姿の、ふらふらとした足取りで近づいてくる。


 不幸にも今日が待機番だった3番隊の隊士、トビアス・キンダーマンだ。

 二十歳そこそこで、トゥルーデに最も歳が近い。一番の新米でもある。

  


「トビアスか、何かあったか?」

「朝から副長に睨まれて、3番隊一同疲れ果てております……」



 普段は丸顔のお調子者が、ゲッソリとした顔と口調に成り果てていた。

 お気楽な言動で副長に絞られては、トゥルーデに泣きつく情けない男である。転生前のトゥルーデとも歳が近いため、何かと気が合ってとりなすことが多い。

 それでも武官の家柄、そこいらのボンボンに劣ることはない。 


 王都改方は騎士爵10名、従士50名の60名を五つの隊に分けて指揮している。

 東西警備隊が500名、騎士団が王家直参と地方領主の兵役で併せて2000名と比べると、とても少ない。

 この少人数で凶悪犯を捕縛するために戦闘を繰り返し、文字道理の少数精鋭となっている。

 

 といっても、隊士にしてみれば


(賊よりお頭と副長のしごきのほうが死にそうだ……)


 調子に乗るものは生来のものであるトビアスぐらいであった。



「いっそ捕り物でもあったら助かるのですが」

「取り締まる側が犯罪を求めるとは、不謹慎だぞ」

「それならお頭が副長の怒りを冷ましてきてください。遅く起きてここにずっと篭っているなんて、副長の機嫌が悪いこと承知だからなのでしょう?」

「なんのことやら……」

「そうやって機嫌を悪くした副長が、私達に八つ当たりするのですから、ひどいったらありゃしませんよ」



 愚痴の吐きどころが見つかったためか、湧き出るように言葉を連ねだした。

 


「そんなに屯所がいやなら気晴らしに出掛けるか」

「おぉ、それは勿怪の幸い!それなら西区で新しい店を見つけたのでぜひとも」

「ばか、見廻りだ」

「はっ、西区に新しく出来た不審な店舗を見回ります!」



(ダメだこりゃ)


 呆れて天を仰ぐも、すぐに書置きを残して二人の姿は屯所から消えた。

 


 

 


  

 トビアスが西に向かおうとしては小突き、酒場に入ろうとしては脛を蹴りつつ北区郊外のはずれまでやってきた。

 例の屋敷は門近くの藪に入ると、



「おや、なにか急用で?」



 木に寄り掛かりながら、屋敷を監視していたオスカーがいた。



「オスカー、なんでお前がいるのだ?」

「それはこっちもですよ、トビアス様。」

「トビアス、代わりに屋敷を見張れ。オスカーはこれを確認しろ」



 トゥルーデは、資料庫から持ち出した人相書きを、オスカーに渡した。



「中は探ったか?」

「うまい具合に昼間賭場が開きましてね、軽く遊んでましたよ」

「ここら一帯は点々と別邸があるだけ、しかも辺鄙だから空家も多い。賭場か賊のアジトとなるのが常……」

「どっちかどころか両方も良くある話で……、ああこいつがいました。随分けちな野郎ですな」



 そういって一枚の人相書きをトゥルーデに見せた。名前は無く、細々とした軽犯罪が記されているのみだった。

  



「屋敷の持主は聞いているか」

「北に領地を持つアンデ伯爵だとか」

「アンデ伯爵・・・・・・」


 

 変化の乏しい顔が珍しく歪み、舌打ちをした。



「ご存知で?」

「いや・・・・・・伯爵が酷く低俗なことを、と呆れただけだ」

「まったくでさ。それで伯爵邸で見つけた小物をどうするつもりで?」

「どうもしない」

「それじゃぁ、なんで見張ったり、中の者を知りたかったので?」

「とりあえずの警告だ」



 昨夜の追跡から今に至るまで、トゥルーデは今回の落とし所を考えていた。


 雑な脅しをかけてきたとはいえ、相手は己よりも上位の貴族だ。たかが襲撃未遂では、何もしようが無い。

 しかしながら、やられっぱなしでは今後も繰り返すかもしれない。釘を刺す必要があった。

 

 釘を刺すために、真正面から向かう口実を用意した。

 貴族の別邸というのは、主が使うことが稀である。そのため雇いの使用人に管理を任せる。

 雇いの使用人は素性明らかでない者もいるから、別邸を悪用することがある。今回ならば、賭場と人相書きの強盗犯が紛れ込んでいることだ。


 連れて来たトビアスを屋敷に向かわせ、「人相書きの者が周辺で見かけられた。こちらでも知らないか」と白々しく尋ねる。

 相手は真に受けるはずが無い。当然裏を読み、



「お前らが昨夜やったことはわかっている。別件逮捕でいつでも踏み込めるぞ」

 


 と脅れていることを理解するはずだ。


 そうなれば後日伯爵本人が堂々とか、隠れてかはわからないが、直接訪ねてくる。表向きは人相書きの件でだ。

 そこで釘を刺してとりあえずは終わりである。


 前回罠を張ることを副長に言っていたが、それは直ぐに取り掛かれるものでもなかった。

 

 王位継承の指名がない現状で、微妙な立場の第三王子に関わることになった。

 しかも転生者だった先王の遺言のせいで、トゥルーデは強制的に乙女ゲー対策せねばならない。


 貴族ゲルトルート、転生者トゥルーデそのどちらも優先すべき事柄がある以上、落ち着くまで罠は「お預け」だった。


 

「トビアスお使いだ。終わったらお前の言っていた店で奢ってやる」



 

 

 

 























またスーパーDXが0%になってる……(作者の出身星で「遅れてもなんとか投稿します」の意)

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