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推敲しだすと延々と全編を改編するため、書き溜めになんら意味がない。

 王都は南北の街道と、東山脈から西海へ流れる大河の交差した土地に築かれていた。

 南北の街道の先は穀倉地帯の公爵領、東は大鉱山がある。物流の要所、人と金の臍であった。

 

 王都は代官の指揮する東西警備隊と、武官で構成された騎士団が治安を守っていた。

 食い詰めた魔術師が賊になることが増加した近年、非武装の警備隊や世襲化で弱体化した騎士団の手に負えなくなっていた。

 さらには商人の不正、大貴族の不祥事といった事件の解決も著しく悪かった。王都の商人と大貴族という人種は、およそ一国の王と例えられるだけの権勢を誇っていたのである。


 専任で対処するため、警備隊よりも強く、騎士団よりも早く動ける特別警察が求められた。

 王都改方の誕生である。

 重武装した武官と、手順を踏まぬ逮捕特権で得た機動性を以って、王都中の悪人を狩り立てた。

 


 そんな組織の長官ゲルトルート・フォン・ヴィーゼル女男爵は、王城東門外に屯所を構えている。



「それから、暗闇に潜んだ。男は暫くして落ち着くと、斬られた者を見捨てて走っていってしまった」

「お頭は、その後をつけたと」



 屯所に朝帰りをしたトゥルーデは、副長に捕まり昨夜の説明をすることになった。

 ただの散歩のはずが、朝帰りになったことで、随分と気を揉んだようである。

 トゥルーデにしてみればそこまで心配されるいわれは無く、


(コーヒーの一杯でも用意して聞きに来ればよいのに……)

 

 気の回らなさや心配性に閉口していた。


 


 


 そもそもが、トゥルーデの仕事への意欲は、

(転生者仲間から頼まれた)

 程度でしかなかった。

 

 これまでの成果は、やる気に溢れる副長以下隊士の勢いに任せてのことや、進んで密偵を買ってでる職人街歓楽街の住人達によってである。

 人を集めたところで、やる気の尽きたトゥルーデの視点だと、そうなる。

 己はその有余る身体能力で、ゲーム中の技の再現を楽しむ中二病と、放蕩な若隠居の望みを口に出さぬよう、努めて寡黙にしていただけと考えている。

 

 視点を他に転ずればどうなのか。

 兇賊相手に率先して戦う。(ゲームのノリで「オレTueeee!」したいだけ)

 高い身分であるが関係なく優しく接する。(転生故の身分意識の欠如)

 悪人相手に容赦無し。冷酷無比。(今更崩せない鉄面皮による誤解)

 部下密偵に対する度量の大きさ。(紙一重の無責任長官トゥルーデ)

 

 人が想像する貴族の、逆へ逆へ向かっている。

 

 民にとって弱きを助け、強きを挫く英雄である。貴族にとって己の権力に屈さぬ気骨と、絵物語の騎士の様な生き方に、忘れかけていた憧れを思い出させる存在である。悪人にとってただただ憎き怨敵である。


 味方も多いが敵も多い、だからこそ副長は心配する。

 皆殺しを厭わない賊、手練の刺客を放つ貴族に商人。そんな輩と狙い狙われの激務を、二周り程も年下に負わせる。忸怩たるものがある一方で、信服もしていた。

 

 心配されているトゥルーデは、長官の席を喜んで譲る気がある。しかしながら、手順を無視した逮捕権のために爵位が必要なため、それとなく水を向けても冗談としかとられなかった。激務をこなす割に規則を忘れているうっかりだった。



 



 先王の遺命を承ったその日のうちに、怪しげな者の忠告が来たと聞かされた副長が心配したわけだが、


(心配されても、なぁ)

 

 尾行で判明したことは中々に面倒事だった。 

 


 ほうほうのていで逃げ出した男は北へ向かっていた。

 トゥルーデたちが飲んでいた「三つ釜」が王都南の運河沿い、そこから王城東門外の屯所までの大通りで襲われた。

 北へ向かうわけだから王城を掠めるように逃げている。

 当然ながら王城の周りには家臣の邸宅があり、個々の家々が夜番を立てている。そんな道を男は勝手知ったるが如く走り抜けた。


(わかっていたとはいえ、その日の内に脅迫するとか王侯貴族怖すぎる……)

 

 男はそのまま郊外へ走り続けた。

 王都の北は街道から外れ、別宅が林に点々と存在するだけである。

 男はその一邸へ駆け込んだ。門も綺麗で、今も使用している気配を感じさせた。


 男はこの家の使用人だろうから、明日持主を探ればよかろうと、切り上げるつもりだった。

 しかし、思わぬことに



「半杖者を追っていたオスカーがいた」

「は……?しかしオスカーは魔術師を追っていたのでは?」

「オスカーの追っていた半杖者もその邸宅に入った」

「その場雇いではなく子飼い……?」


 

 お粗末な結果に終わった後に、金で用意したゴロツキを屋敷に入れるはずがない。

 副長のしかめっ面がよりひどくなった。

 


 落ちぶれた半杖者と貴族お抱えの半杖者では、あまりに大きな違いがある。

 戦場で華々しい活躍をする魔術師がいる一方で、特殊工作員として影に生きた魔術師もいた。後者を、前者が蔑んだ呼び方として、半杖者や折杖者という言葉が生まれた。

「誇りたる杖を短くするようなものと一緒にされたくない」が言い分である。

 

 平和になってからは、落ちぶれた魔術師全般の蔑称になった。が、本来の意味の者達が、いなくなったわけではない。

 諜報、工作、暗殺の技術を連綿と伝える闇の住人。その存在は暗黙の了解である。

襲撃未遂で捕まえるには、闇が深すぎた。



「副長、今回の件は無かったことになるかもしれない。理由はわかるな?」

「どの家も、王家も抱えているであろう存在を暴いてはならない」

「事これに関しては、緒家の政争に関係なく、一致して圧力を掛けるだろうからな」

「泣き寝入りしかできないとは、納得しかねます」


 

 憤懣やるかたない副長だった。

 トゥルーデはそれを無視して、ソファーに横になった。

 


「書記官のフラーケに資料庫の整理をしておくよう伝えてくれ」

「はっ」

「徹夜で疲れた。午前の業務は副長に一任する」

「……了解しました」



 これ以上話すことはない、と迂遠に示した。


 退出するために向けた背に声を掛ける。



「なぁ副長、私達の仕事はいつだって気分の良いものじゃない。誰も彼もが目を背けたツケを、まざまざと見せつけられる。今回のことなんて、泥水が撥ねた程度だ」

「だから慣れろと?」

「いや」



「こういう雑魚は懲りずに企むのが常だ。雑魚は釣るより、網で捕まえるに限る」



 すぐに小さな寝息を立てた。


 




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