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火盗改と違って金に困らないのが一番チート
新撰組と違って縄張り争いする相手が少ないのが一番御都合主義
半年前に葬式を済ました先王の遺命で、王子の教育係を任命される。
その王子が学院に居るから、自分も入学する。
そう簡単にはいかない。第三王子コンラート殿下への面会に1週間、入学の手続きに2週間ほどかかることになった。
「お帰りなさいませ、お頭」
王族や大臣らの追求が来る前に逃げるように下城すると、副長が出迎えてくれた。
「御苦労」
「はっ」
昔からの癖で気の利いた、もしくは長い台詞がどうにも言えない。社交辞令なんて気の利いて長台詞なものは、試す気も起きない。
成人前から老獪な役人や商人と接することを、私は強いられてきた。先王と養父の無茶振りを、何とかこなす為に行き着いたのが目つきを鋭くすることと、口数を減らすことである。
女性は、美人であるか愛嬌が無い場合、怖いと思われるらしい。つまり美人で愛嬌が無ければ、若い女性でも威圧感をもてるのだ。
自分の顔になった途端に自信がなくなるが、少なくとも整ってはいるらしい。生来どころか前世からの寡黙さは、誰からも愛嬌無く見えるだろう。これを意識して利用することにしたのだ。
その結果、父親や祖父ほどに年齢差のある男たちにプレッシャーをあたえる少女が爆誕した。王都改方になる前に、「5人は斬ってる」と色街のまとめ役に言われて非常に落込んだものである。
これまでそれで何とかなっていたから気にしなかったが、すでに原作の修正力があるのかもしれない。
鋭い目つきとはツリ目のことであり、口下手は前世だけでなく、もともと存在して悪く捉えられるようになっているのかもしれない。悪役の素質があるところへさらなる助長を促した形になるのか。
そうなると薄茶色の髪と和服の似合う体型も、かませ犬が魅力的である必要がないから地味にしているのかと思えてしまう。
なまじ一度ゲームの世界と納得したものだから、同じ転生者の言葉を無視できない。
日々の寝食を繰り返し、悪人を斬り捨てることもある生活を送り、紛れも無く己が生きている核心がある。それでも、前世が遊びつくした世界の痕跡があるために何かしらの大きな流れを感じざる得ない。
「どうされましたか?」
「いや、なんでもない」
考え込んでしまい副長に心配された。
東警備隊から引き抜いたこの男は頭も剣の腕も良く、端的に有能で済んでしまう程なんでもできる。しかしながら役職に忠実で、組織の長たる自分にちゃんと伺いを立てることも忘れない。そこは忘れて楽をさせてほしい。
仏頂面の女から何かしらの変化を感じ取るぐらい有能なのだ、そこからさらに思っていることを察してほしいものだ。
「飲んでから話す」
「ではいつのものように『三つ釜』に」
「そうしよう」
朝方登城して、今が夕暮れ時だ。飲んで帰るに不都合はあるまい。
「へぇ、それではご隠居様の遺書で子守を」
「死んでも悪戯し足りないらしい」
「へ、へへ。そりゃ違いねぇ」
「たかが男爵で17の小娘が、11の王子に何を教えろというのか」
「お嬢はそうやってぼやく度に、大悪人を捕まえますぜ?ぶつくさいいながら手柄を挙げるから簡単やってるようにしかみえねぇ。簡単にこなすならなんでも丸投げにしちまおうって気になりまさぁ」
馴染みの店「三つ釜亭」の2階で密偵のオスカー爺さんに今日のことを話した。
先王陛下が、お忍びで遊ぶ際によくつるんでいた老人だ。顔が広く、何かと器用だから密偵として大いに役立っている。
もちろん私もつるんでいた一味だから親しい仲である。
貴族と平民がする口調でないため副長は顔をしかめていた。
「学院で賊と斬った張ったをするわけじゃないんですから、気楽でいいじゃないですか」
「気楽か」
「貴族のボンボンを一睨みで追っ払って、ご隠居様のお孫さんを街に連れ出せば……」
「怖れ谷のオスカーが『遊び方』を教える、と?」
「へ、へへ……色を知らなきゃ貴種のお勤めも果たせないでしょうて」
既に飲んでいた爺さんは、酔った勢いで碌でもないことを言いやがった。17の女が成人直前の少年を色街へ連れ出すとかそれなんて春画?
ざっくりとした教育係を任命されたが、そういうことではないはずだ。学院での側付で政治の初歩や護身術程度の稽古をするぐらいしか予想していない。学院という存在があっても貴族は個々に教師を用意するのが常だ。もちろん『そういった』こともだ。王都改方と兼務の私がしなければならないことなど殆どあるまい。
第三王子コンラート殿下は上二人の兄と違ってあまり表に出ない。第一王子が剣術、第二王子が魔術で成人前から才があると噂になったが、コンラート殿下はよい噂も悪い噂もなかった。
王子二人は乙女ゲーキャラ故の補正があるのか、美形でちょうど良く学院に在籍している。そんなに優良物件なら早く婚約していればいいのに、明確な婚約者が居ないあたりも乙女ゲーチックである。
次代の指名をしていないため、王宮内は先王の代には薄れた権力争いの雰囲気が戻ってきている。おおよそは二分されているだろうから、第三王子が入り込む余地もあるまい。
第三王子は成人前にどこぞの婿入りで、継承権の放棄となるだろう。それぞれの王子を支持する貴族がそう仕向けるだろう。地方の貴族か海の向こうの国との外交選択肢として宰相も都合が良かろう。なにより巻き込まれたくない私がそうする。
しかし少しばかり考えてみれば、
「それも悪くない」
かも知れない。
表沙汰にならない程度に痛い腹を持っていたほうが、得てして変に疑られないものだ。
「お忍びでの遊び癖がある第三王子は遠くに婿に出してはどうだろうか」と言いやすく、そして言われて反対しづらくなる。さらにお忍びを行うことで変な取り巻きが近づくことも防げる。
一挙両得ではないか。酔いどれジジィがうまいこと思いついたものだ。
「ははっ!そうでなくっちゃお嬢!」
「お頭、流石にそれは」
それまで黙って飲んでいた副長が咎めるが、オスカー爺さんは関係なくはしゃぐ。
普通は副長の反応が正しいのだ。もっとも、普通の反応をするぐらいなら自分がお頭になったときに、そのことに突っ込んでほしかったと思ってしまう。
それにもうひとつ理由を見つけた。
「副長」
「はっ」
「長いことご隠居様に仕えた私の主になるのだ。僅かばかりとはいえ同じことを期待しても悪くはあるまい」
「はっ。その、同じこととは……」
「決まっておろう」
グラスに残ったワインを一息にあおる。
「ご隠居様の悪戯に巻き込まれる苦労を、だ」
そう思えば、これからのワインも旨く飲めるというものだ。