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友人からの要求
「テンプレをクロスして連載」
作者の回答
「鬼平をメアリー・スーにして乗り切る」
「むねん! TSてんせいしゅじんこう の ぼうけん は おわってしまった!あと ぜんせ は おんな でした」
先王陛下の遺書にはなつかしい平仮名でふざけた内容が書いてあった。
「ここからは逆ハー悪役憑依の時間だぁぁ!私も前世女性でした。ゆるしてちょんまげ」
先王侍従武官を勤め、養父である子爵閣下は陛下よりも漢字を含んだ文章でもっとふざけた遺書だった。
「先王陛下のご遺言である。女男爵ゲルトルート・フォン・ヴィーゼルをコンラート王子の教育係とする。」
典礼尚書が困惑した様子で残りの遺言を伝える。異国の文字で書かれた遺書が同封され、読める遺書も内容が奇妙ならば当然だ。
王命と遺言の併せ技に先王陛下直臣だった私は、不満の素振も許されるわけなく。
「御遺命承りました。」
より深く頭を垂れるしかできなかった。
かくして、生前から先王陛下と子爵閣下ら先任転生者の尻拭いをして爵位を得た私ゲルトルートは、死後も彼ら(前世は彼女ら)の手のひらにて舞うことになった。・・・・・・なってしまった。
死んでから「作品のジャンルが違うんだよ!」なんてカミングアウトを喰らわせた先代二人への恨みで頭はいっぱいである。しかしながら齢17の小娘が権力に抗えるはずもなく、宰相と今後の予定を詰めつつ前世とこれまでの過去を振り返る羽目になった。
剣と魔法の世界で一騎当千の活躍をして乱世を生き抜くアクションゲーム『剣と魔の誓約』。そのゲームの天下統一エンドから数百年後の太平の世が舞台の乙女ゲーム『誓約の木の下で』という二つのゲームが前世に存在した。
かつての自分は天下統一そっちのけでカンストのために徹夜でレベル上げをして、姉は各ルートのエンドなんて無視して貴腐人な同人制作で徹夜をする残念な姉弟だった。
徹夜明けの霞む目をこすると、養子に出される当日の貴族令嬢になっていた。徹夜明けの、ぼやけた思考では突拍子のない事態なっても反応などできるはずもない。養父の子爵邸宅に到着からお忍びの陛下との転生の確認まで、幼子の頭をカックンカックン揺らしていただけだった。
隠居主従のお忍び道楽に付き合っているうちはまだよかった。前世の食や娯楽を再現するために、王都や隠居後の領地を駆け回った。それらが成功して、大事になるたびに商会王宮との交渉や事務仕事は忘れたい。成人とされる16よりも下の女子を連れまわして面倒ごとを押し付けるのは非常に外聞が悪い気もするが、王侯貴族で隠居の老人二人に、大きな声で指摘するものはいなかった。
そんな生活に変化があったのは、12の生誕を三人のみで祝っていた時だった。
「先例は乱世まで遡るが12で成人はないわけではない。女男爵を授けよう」
先王陛下は簡単におっしゃる。
戦時の例で爵位を貰うとか碌な予想ができない。そもそもそれは男子が当主として爵位を継承する事例だ。 さらにいえば陛下のご先祖のプレイヤーキャラのことですよ。
「同時に、新設する王都治安維持部隊を率いてもらう」
面倒で済む事態ではない。隠居した筈の王が息子の施政にケチをつけるのだ。既に決定事項のようだが、すんなり決まったのか怪しい。
「まだ隠居してない緒家の老当主と宰相に根回しすれば、馬鹿息子とその世代の反対意見など、『考慮する』で済む」
老害の最後っ屁ですか、先王陛下。
「君とは曾孫でも通じる歳だ、はしゃぐのも辛くなってきた。後始末は君任せな道楽からも隠居だ」
自覚があって後始末を曾孫にさせるとか、やっぱり碌でもない老害だって。
「私は陛下の供として領地に引っ込むことになる。いいかいトゥルーデ、君の後見と私たちの王都での耳目を同時に用意できる必要があるんだよ」
養父もさらりと言ってくれる。
新設部隊の頭に小娘を据えて、さらに後見もすることになるのは根回しをした宰相だろう。自分一人を王都に残す理由と、ここまで苦労を背負う宰相の理由がわからない。
「素直に引篭もっても何かと勘繰られるからポーズのため、これまで世話になった者たちの面倒を見るためが理由だ。老い先短い父の気遣いでもある。宰相は提案をすんなり了承したから知らん」
貴族の政治的な事情はしょうがない。自分と同じく道楽に巻き込まれた騎士爵や平民の遊び人の面倒もわからなくはない。なぞの快諾をした宰相と、それを気にしない老人二人はもうあきらめた。そもそもしているのは提案ではない、事後報告だ。
それから五年。お飾りで楽ができるとか、任期が存在して閑職にまわされるとか期待していた。しかし宰相は、「よろしく頼む」と王都を騒がせる盗賊捕縛を命じたり、「内密で」と声を潜ませながら貴族や騎士団の揉め事不祥事を持ち込んだ。
腕があっても雇用の機会のない騎士爵や剣士を隊士に、ご隠居のお忍び道楽で付き合いのある者たちを密偵にして、お役目をこなすために奔走した。
宰相が遣したのは会計役の文官一人のみで、私をお飾りにする有能な者がいない。任期はそれらしい話を宰相がまったくしない。宰相は厄介な案件しか持って来ないため、わざと失敗してやめられない。そこは私を穏便に排除して自分の駒を置くとか考えようよ。
てんてこ舞の五年が落ち着くと、そこには新撰組と京都見廻組と火付盗賊改方を併せたような組織「王都改方」とその長官「女男爵ゲルトルート・フォン・ヴィーゼル」が存在していた。長官の二つ名「ヴィルドヴィーゼル(野蛮なイタチ)」は恐怖の代名詞らしい。どう考えても悪名なのを二つ名と主張するうちの部下は、乙女心を解さぬアホだろう。
――これで乙女ゲーム、やるの?
先任転生者たる隠居主従は何を考えて自分を育てたのか。原作の修正力にでも期待して、深く考えなかったのだろうか。
姉の説明を思い出すに、私という悪役令嬢は箱入りの高飛車で、ヒロインを苛め抜いてそのことが明るみに出てエンディングで没落の憂き目に遭うらしい。親の爵位は侯か伯だった気がする。
――早目の成人をして、女男爵で、悪人から地獄の羅卒扱いされてます。楽に生きたかった・・・・・・。しかも爵位下がってる。
攻略キャラは覚えていない。テンプレートなら王子と伯爵以上の家の子息だろう。側室の子で第三王子のコンラート殿下は11だから攻略キャラではない。と思っておこう。どうせ考えてもわからん。
――ゲームの舞台は貴族子女が通う学院。いざとなれば「職務の警邏です」でサボろう。
第三王子の教育係でコンラート殿下の側にいることになるから、学院でも攻略キャラとの接触も少ないだろう。そう考えれば存外悪くない。
穴あきチーズのごとき考えだが、この時はなんとかなると信じ込んでいた。少なくとも乙女ゲームの展開は己という存在で崩壊している。胸焼けするような恋愛ゲームと、官爵により発生する政治闘争が両立するはずがないことは、確かだった。
すぐに浅はかだったと後悔することになる。
――乙女ゲーと政治がアクションゲームとスクラム組んでやがるっ!?