血の色が紫色に見えます…
考える時間をもらった私は、聖剣が刺さっていると言われる、選定の岩を見せてもらう事にした。
魔物と戦うのは怖いけれど、聖剣は見たいのです。
「あれが聖剣竜殺しの剣です」
ウラディミールさんの言葉が、静かな神殿に響き渡る。今、この場には私とウラディミールさんの足音しか聞こえてこない、とても静かな空間だ。その神殿の奥深くに選定の岩はあった。
ウラディミールさんに案内されてやって来たのは、私が召喚された神殿だった。
そう、私が眠っていた石櫃の祭壇の後ろに、聖剣はあったのである。
気が付かなかった…。
まぁここで目が覚めた時は、ウラディミールさんは怪しいフードを被っていたし、背後に居た人達も顔が見えなかったし、何よりもテレビのドッキリ企画と思っていたわけだしな。
とりあえず、間近で聖剣を見てみる。
歴代五人の勇者達が使ったとは思えない程に美しい刀身だった。
沢山の生き血を啜って、錆びているものだと思っていた。
生き血を啜るのは妖刀か。
様々な角度から見てみるが、刃こぼれ一つない。神様から与えられし聖剣の名は伊達じゃないようだ。
「美しいでしょう?歴代の勇者様達がどれだけの魔物を倒そうとも、決して折れる事も錆びる事もなかったのです」
流石神様である。
しかし、そんな技術があるのならば神様自身で暗黒竜を倒してくれても良かったのではないだろうか?
そうして聖剣を見ていた私は、刃部分に指を宛てるなり物を宛てるなりして、斬れ味を試したい衝動に駆られていた。
「あの…指を斬ってみてもいいでしょうか?」
「な!?」
私の突然の提案に、ウラディミールさんは私を背後から抱きしめると、聖剣から離れる。
あまりの素早い動きに、私はポカンとしながら背中に当たる温かな熱を感じていた。
「何という事をおっしゃるのですか!?指を切るだなどと!!」
背後から抱きしめられた状態で怒られる。まさかそこまでキレられるとは思わなくて、びくぅと怯えてしまった。
「ご…ごめんなさい…あの…剣の斬れ味を試してみたかっただけなんです」
しゅんとしながら謝ると、拘束を解いたウラディミールさんが「こちらこそ取り乱して申し訳ありませんでした」と、謝ってくる。
ウラディミールさんは割と短気なのかもしれない。
「試さなくとも、問題がない事は保証致します」
「あ、あの先っぽだけ…先っぽだけですから!!」
「痛いですから…止めましょう?」
「痛くしないですから…本当に先っぽだけですから!!」
第三者の聞き方次第では、卑猥にも取れる会話を繰り返していると、根負けしたウラディミールさんが溜め息を吐く。
「ミナ様がご自身の指を切られる必要はございません」
「でも、斬れ味を試したいのですが…」
「見ていて下さい」
そう言うか早いかウラディミールさんは、聖剣に近付くと自身の指を聖剣の刃部分に宛てると、勢いよく指を切った。
「な!?」
私が小さな悲鳴を上げて硬直していると、ウラディミールさんが私の元へと戻ってくる。
「血、血は大丈夫ですか!?止血しないと!!」
「どうですか?斬れ味は問題ないでしょう」
私が慌ててハンカチを探していると、ウラディミールさんが切れた指を見せてきた。指はパックリと切れていて、切れた部分からは紫色の液体が流れていた。
紫色の液体――
あれ?
ハンカチを取り出し、傷口に添えると白いハンカチが紫色に染まっていく。
あれ?
ハンカチを離して傷口を見ると、またしても紫色の液体が溢れてくる。
「ハンカチが汚れてしまいましたね。申し訳ありません…」
そう言ってウラディミールさんが何やら小声で呟くと、溢れ出てくる紫色の液体が止まり、傷口は塞がれていった。
「あのウラディミールさん」
「何でしょうか?」
「さっきの傷口から出ていた紫色の液体は…」
「あぁ…傷でしたら魔法で治しましたよ」
「いや…そうじゃなくて紫色の液体」
「血の事ですか?あれ位の出血でしたら貧血にもなりません。問題ありませんよ」
「そうですか…ヨカッタデス」
片言になりながら、相づちを打ちつつ紫色に染まったハンカチを見つめる。
徐に聖剣までダッシュした私は、刃部分に自身の指を宛てて、サクッと切った。
「ミナ様!?」
ウラディミールさんの驚いた声を背後に聞きながら指を見ると、傷口からは赤い血が溢れてきた。
良かった…――
安堵の溜め息を吐いていると、ウラディミールさんが切って血の出ている方の手を取ってくる。そして、指から垂れ流れる真っ赤な血を見ると、何の前触れもなく、いきなりその口に含んだ。
「ちょ!?な!?えぇ!?」
指に舌を絡められ、何度も往復させる。その度に切れた傷口に生温かな粘膜の感触がして、体がびくりと反応してしまう。そのまま、血の味を楽しむかのように音を立てて、ゆっくりと唾液を咀嚼していく。
恥ずかしさにきつく目を閉じていたが、うっすらと目を開けると、視界には少し開いた唇の中から、丹念に私の指を舐めるウラディミールさんの舌が見えて、ますます体が熱を帯びていく。
「あ…あの…」
震える声でようやく口を開くと、ウラディミールさんは名残惜し気に、私の指から口を離す。
そして小さく何かを呟くと、瞬く間に指の傷が治っていた。
◇◇
後から聞いた話によると、ガイアスロイの人達の血は紫色なのだそうだ。これはいつからなのか解明されていないそうだが、こちらの世界では普通の色らしい。
そのせいなのか、異世界からやってきた人間の赤色の血は、こちらの世界の人達には大層芳しく魅力的に見えるらしく、赤い血を見ると理性が効かなくなるらしい。
先に教えてくれ!!
あの出来事があってから、どうにもウラディミールさんとのフラグが立ってしまったような気がして、気が気じゃない。
というか、血を流す度にあんな目に合うとか大ケガを負ったらどうなるんだ…。考えたくもない。
何より、血に惹かれるだけで私自身には惹かれないと言う事ですね…。
それってどうなんですか?




