勇者誕生の話らしいです
何千年も昔、平和だった世界に、突如として理性を失った黒い竜が現れた。
竜は自我も何もなく、動物達を飲み込み、人々が育てた家畜を食い殺した。それらは夥しい数となり、土地には血の臭いが充満していた。
竜が蹂躙した土地は、死骸の血で真っ黒に染まり、竜によって食い殺された死骸の血の臭いに吸い寄せられたのか、はたまた理性を失った竜に刺激されたのか、魔物達が暴れだすようになった。
竜自体も暗黒の鱗に被われていた為に、いつしか魔物達の王、魔王暗黒竜と呼ばれるようになった。
それからは、暗黒竜と共に魔物達による殺戮が繰り返される。
暗黒竜と魔物達の食べ物は動物達だけではなくなり、とうとう人間にまで及ぶようになる。
人々は怯え、いつ殺されるか分からない恐怖に震え、食べる物も儘ならなくなり、飢えに苦しむ。
いつ終わるともしれない恐怖に、人々は生きる希望を失っていった。
そんなある日、天啓が下りる。
神が創りし、古の聖剣竜殺しの剣を選定の岩より引き抜きし者こそ、この絶望の世界を救いし勇者となり、かの竜を倒さん――
この天啓により、何千もの人々が我こそはと、剣を引き抜こうと試みた。
だが、誰一人として竜殺しの剣を引き抜く事が出来なかった。
世界中の人々が絶望する中、一人の青年が竜殺しの剣を引き抜いたのである。
青年の名はクリス。彼は聖剣が現れし国の騎士団に所属する人物だった。
人々は喜んだ。勇者が聖剣の力で暗黒竜を打ち倒し、世界を平和にしてくれるのだと――
勇者クリスは自国の王や王女に激励されながら、聖なる力をその身に宿し聖女アメジストと呼ばれる女性と共に、暗黒竜討伐の為の旅に出る。
旅は過酷であったが、道中狩人と魔法使いを同じ志を持ちし仲間として迎え入れる事となった。
そして、幾多の魔物達を倒し、遂に勇者は暗黒竜を滅ぼした。
その後、道中恋仲となった勇者クリスと聖女アメジストは結婚したが、勇者に懸想する王女の手にかかり、聖女は息を引き取った。
これにより聖女アメジストは『悲劇の聖女』と呼ばれ、今日まで語り継がれている。
聖女が死んでから後を追うように数年後、勇者クリスも息を引き取ったという。死因は衰弱死と言われているが、詳しくは誰も知らない。
史実には何も記されてはいないが、魔法使いの国の禁書には、勇者クリスの死因が書かれているとか。
それから数百年後、暗黒竜は復活した。どのように復活したのかは分からないが、以前と同じように動物達を、そして人間達を蹂躙した。
今回も選定の岩から聖剣竜殺しの剣を引き抜いた者が勇者となり、暗黒竜を倒す――その筈だった。
しかし、今回は誰一人として聖剣を引き抜く事が出来なかった。
滅びの時を待つしかない――誰もが絶望の中そう思っていた時、一人の人間が現れた。
突如現れた人物は、選定の岩から聖剣を引き抜くと、暗黒竜をたった一人で討伐した。
その人物は、この世界の人間ではなく、別の世界からやって来たのだと言う。
その人物こそ、異世界から召喚された勇者だったのである。
異世界の勇者は暗黒竜討伐後もガイアスロイに残り、様々な偉業を成していったという――
そして、異世界の勇者にしか聖剣竜殺しの剣は引き抜けないのだと、偉大なる神官の元に天啓が下りた。
それは初代勇者が、ガイアスロイの人々に絶望したからだという。
この世界の人間には暗黒竜が倒せない。それを知った各国の王や議長達は、それ以降、暗黒竜が復活した場合には異世界の勇者を召喚するようになった。
◇◇
異世界から召喚される人物は、全て地球から召喚されたらしい。
何故地球の人間だったのか――ガイアスロイの生態系と同種であり、もっとも知能が高いからであろう――そう考えられている。
詳しくは神のみぞ知る――と言った所か。
「まぁ厨二病さえ召喚したら、勢いだけで勇者になるだろうしな…」
結局、考える時間が欲しいと伝えて、私は自室として与えられた部屋へと戻ってきたのだった。
初代勇者と聖女の話は、ムーンライトで掲載している『元聖女様と元勇者様』からアレンジして設定を使っています。
設定は全く同じではないので、読まなくても問題ありません。(名前と暗黒竜位)
18歳以上の方だけしか閲覧できませんのでご注意下さい。
なろう向けに書き直して投稿できれば良いのですが、今は考えておりません。申し訳ありません。