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魔法は人体に悪影響はないのでしょうか

『大丈夫なのか?』

『思いきり扉にぶつかったようですが、外傷も無いようです。気を失っているだけのようです』

『そうか…しかし何ゆえ扉にぶつかったのだ?』

『恐らくですが…逃げようとされたのでは…』

『まさか!?勇者様が――そんな…』






複数の話声が聞こえる。何だか揉めているような気がするが…。


ゆっくりと目を開けると、背中には柔らかな感触がした。

焦点の定まらない視線を動かすと、どうやら私は布団に寝ているようだ。さっきのコンクリートの硬い感触と違って、とても心地好い。


何だ…さっきまでの出来事は夢だったのか。そう理解した途端、額に激痛が走った。何だろうと思って額に触れると、でかいたん瘤が出来ていた。


あれぇ?私頭をぶつけた記憶など無いのだけれどなぁ…と思って、布団から起き上がると、何人かの人達がこちらを向いた。


………


あれ…。


銀髪の男の人に見覚えがあるのは気のせいでしょうか?

さっきまで見ていた夢に出てきた人にそっくりな――。


そこまで考えていると、銀髪の人が私の手を握りしめ、「目が覚められましたか勇者様」と、声を掛けられた。


どうやら夢ではなかったようだ。


うん。ただ、現実逃避したかっただけな訳ですよ。というか、相変わらずユウシャサマと呼ばれてますが。


「あ…あの…ここは何処ですか?」


脱出劇に失敗してしまった手前、内心不安になりながらも、一応聞いてみる。まぁ聞かなくても、連れ去られてきた私の行く末なんて、どうせ奴隷なのだろうけれども。


諦めて働きますから、せめて肥え太った脂肪の塊のおっさんの性奴隷とかだけは、勘弁して頂きたいと切に願う。


あと、願わくば賃金も頂けると助かるのですが…。奴隷には無理な話だろうが。


私が起き上がったベッドの傍に座っていた銀髪の男の人が心配そうに口を開く。


「ここは貴女様にお使い頂く部屋となります。お身体の具合は宜しいですか?」


何故だろう…。会話が噛み合っていない気がするのは私だけなのだろうか?

いや、「ここは何処?」と聞いたから、「部屋です」は会話が成立しているのか。


「あ…いえ、その…ここって外国なのでしょうか?私、日本から拉致されて奴隷にされちゃうのかな…?と、思いまして」


素直に聞いてしまった…。露骨に奴隷という言葉は控えるべきだっただろうか?「そうだぜ♪お前は今から俺様の奴隷となるのだ(主に性的な意味で)」とか返されたら困る。


「ゆ…勇者様を奴隷だなどと!?そのような罰当たりな事は致しません!!」

「いや…しかし危険な魔王討伐に行ってもらう訳だから、ある意味国の――…いや、世界中の奴隷かもしれないな」

「王子、誰が上手い事云えと言いましたか…」


銀髪の人の言葉に、隣に居た青髪に藍色の瞳をした青年が言葉を繋げる。

銀髪の次は青髪とか…目の前に居る人達は二人揃って髪を染めているのだろうか?それも、かなり奇抜な色に。


しかも、服までヤバイ。

銀髪男さんはRPGゲームで魔法使いが好んで着ていそうな、白地に金銀様々な刺繍の施された美しいローブのような、足元まで覆う服を着ており、青髪男さんはファンタジーな乙女ゲームに出てくるような、布地面積だけの騎士っぽい服を纏っている。


世界には様々な民族衣装がある事だし、この人達の服もそれとおなじなのかもしれない。


うん…深く考えるな。別に似合ってるんだからいいじゃないか。私は着たくないけど。


そう思いながらも、ずきずきと痛む額を押さえながら二人のコスプレ男を見つめる。うん、服とかファンタジーすぎて目を逸らせない。つい、マジマジと見てしまう。


というか、青髪男さん「王子」って呼ばれていたような?「オウジ」と言う名前ではなさそうだし、やはり「王子」が正しいのだろう。不味いな…高貴な身分の人をじろじろと見つめるのは失礼にあたる筈。


確か位の低い人間が同じ目線で話したりするのは、不敬に当たるとかどうとかWeb小説にあったような。


今更ながら、布団から這い出ようとしたら銀髪男さんが、そっと私の額に手をかざした。掌から淡い光が発せられた後、額の痛みがなくなっていた。

恐る恐る額に手をやると、たん瘤が消えていた。


「治癒の魔法を施させて頂きました。もう痛みはないかと思われます」


………


何?今、魔法って言った!?魔法って言ったよね!!地球には魔法なんて物はない。あるのは、漫画や小説(主にライトノベル)後は映画の世界位だ。手品だと思いたいが、手品で痛みが引く訳もない。


薄々気がついてはいた。だから銀髪男さんの「ユウシャ」と言う単語を、脳内ではひたすら漢字変換の「勇者」にする事はしなかった。


だって最初に「この世界ガイアスロイを救いし勇者」とかどうとか言ってたじゃないか。恭しく片膝をついていたじゃないか。

奴隷にそんな真似する筈がないじゃないか。


そろそろ認めるしかないのかもしれない。ここは地球とは違う世界だと…。


あ…でもこちらの世界でも高貴な人相手には、深々と頭を下げていないといけないのだろうか?だろうな。来た早々不敬罪とか勘弁願いたい。

いや…ちょっと待て。言葉が通じる云々は、今は置いておこう。高貴な身分云々も。


今、「魔法」って言ったよね。私に魔法を掛けたんだよね。あの…私、多分異世界人なんですが。そんな異世界人に、こちらの世界(確かガイアスロイって名前だっけ?)の不可思議な物を施されて、私大丈夫なんですか!?


魔法って、地球で言う所の気功みたいなもんでしょうか?地球人に気功は悪くはないでしょうが。

魔法が地球人の体にどのような影響を及ぼすかも分からないで、掛けないで下さい。いや、マジで。


今は額の痛みもなくなり、たん瘤もなくなって感謝ですが、後遺症とか出ませんか?実は脳にダメージを与えるような、変な電波とかが出ていて、おかしな事になっちゃいませんか?


色々考えて頭がクラクラしてきた私は、考えるのを放棄して枕に頭を乗せると、もう一度寝てしまったのだった。






『ちょ!?寝てしまったが大丈夫か?』

『きっと緊張して疲れが出てしまったのでしょう。少しお休み頂きましょう』

『いや…何か物凄く顔色が悪かった気がするが』

『傷を治す魔法を使ったのに、それは有り得ませんよ』


眠りに着く直前に、そんなやり取りが聞こえてきたが、貴方の魔法が原因ですよ――とは言えないまま、私は眠りに落ちたのだった。

人体に悪影響がなければ、お礼はしておこう。




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