表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vineleak ―雨を還す者―  作者: 真織
第3章
21/57

琥珀の影 5

「これって、通行証、なのよね?」

リィラは、シルヴァに近寄って彼の髪を指した。

「……まだ食事もしてないし。宿代、踏み倒しても、平気よね?」

と、宿の主人でもないシルヴァに確認を求めるあたり、リィラも妙なところで律儀と言おうか。

「不可抗力だろう」

シルヴァは言った。

「じゃ、行くわよ」

そう言って、リィラは荷物を勢いよく肩に掛けた。

 部屋を出たリィラは、廊下を挟んで向かいの部屋に駆け込んだ。シルヴァも後に続く。幸いにも空き部屋だ。この部屋は街道から裏手になり、レスのいる馬泊まりにも近い。

 慎重に音を殺しつつ階段を上がってくる、複数の気配がする。

 「……レス。レス、来て!」

小声で、けれどはっきりと、リィラは言った。川番たちに聞こえないよう、極力抑えた声。だが、レスには聞こえるはず。

 呼びかけた後は、階段から離れるように、部屋から部屋へ移動していく。驚いている泊り客たちをまるで無視して、一番端の部屋まで来ると、リィラは窓を開け放った。

 川番たちの最初の一人が、紫の主ヴィオプリスにあてがわれた部屋に足を踏み入れた。微かな騒めき。彼を探している。

 リィラの開けた窓の下で、黒い風が止まる。

「シルヴァ、こっち!」

リィラは言うなり、窓から身を躍らせた。

 リィラの体をレスの背中が受け止める。リィラが覚悟していたほどの衝撃はなかった。一瞬、ふわりと彼女を持ち上げるように風が吹いたのだ。

「……無茶な奴だな」

窓際に立って、シルヴァは呟いた。それから音もなく、窓を飛び越え、ふわりと綺麗に着地する。

「……いません!」

「探せっ!」

潜められていた追跡者たちの行動が大きくなる。

 宿の扉という扉が次々に開け放たれていく。そして、窓。

「ソル様! 下に!」

川番の一人が、窓から身を乗り出して叫んだ。

「シルヴァ、乗って!」

リィラも叫ぶ。

 瞬間、レスとシルヴァの複雑な視線が交差する。

「ついてこれるの?」

とリィラ。

「雨がなければな」

とシルヴァ。

 川番たちが、階段を駆け下りてくる。

「馬だ! 馬、引けい!」

ソルが叫んでいる。

「だったら、降らせるのやめたら?」

リィラは、シルヴァを睨んだ。状況によって優先順位をつけるべきだと。

「約束、だからな」

それでも譲らないシルヴァは、苦笑を浮かべていた。自分の頑固さに。

「なら、乗って!」

リィラはシルヴァに手を差し出した。

「俺の意見は?」

身をよじって、間髪入れずにレスが横槍を入れる。

「二人くらい平気だって、言ってたじゃない」

それは、コクトーからリィラとアロウを連れ出すなら、ということであって。レスは、だが、それ以上は言わなかった。

「早く!」

リィラは強引にシルヴァの手を引いた。

 シルヴァも不本意ながらではあったが、獣の背に乗り、リィラの後ろに腰を据える。

「しっかり捕まってろ!」

レスは言いつつ駆け出した。

「追えっ!」

宿の前でソルが喚く。

 川番たちは、次々に馬に乗って、黒い獣を追った。

 追われて走る獣は、不案内な土地での全力疾走である。できることなら、道行く人の奇異の目を避けてとも思うが、もちろんままならない。背中には二人。重量オーバー気味だった。

 後ろのシルヴァは、風を操り、獣の負担を軽くしようと努めていた。雨を降らせながらでは、それでも手一杯だ。

「レス、待って! 違う!」

リィラが叫んだとき。

 すでに獣は街の路地に追い込まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ