第一章九話「祓い人」
ついに今日、祓い人が山に訪れる。
声をかけた妖かし達が山の出入り口に集まる。
しーくんには来るなと言っておいたが、来てしまったので叱ってから木の裏に隠れているように言い聞かせておいた。まぁ妖かしの数が多いので出てくることはないと思うが。
「祓い人だ! 祓い人の匂いがする!」
一匹の獣妖かしの声に、集まった妖かし達の表情が険しくなる。
穏やかな表情だったヒデリ様も表情がかたくなる。
やってきた祓い人は小太りの、三十代ぐらいの男だった。男は部下らしき人間を引き連れ、にやにやと嫌な笑みを浮かべながら歩いてくる。
山に向かってくる時は余裕の笑みを浮かべていたが、山の出入り口に集まる妖かしの数に気がついたようで、顔から笑みが消え焦りの色を滲ませる。
「何だ、小物ばかりじゃないか……」
その声は上ずっていて、ただの強がりだと言うことが見てとれた。
私達は何もしない。ただ見るだけでいいとヒデリ様に言われたからだ。
大勢の妖かしに見つめられた祓い人の男は、歩みを止め部下らしき人間をちらちらと見ている。額には汗が浮かび、怯えているのがよくわかる。
集団の中から一歩ヒデリ様が前へ出る。
「何も言うことはない。去れ!」
声と共に、辺りが白い光に包まれる。眩しさに目を瞑り、次に目を開いた時に見えたのは逃げていく祓い人達の背中だった。
祓い人達は「許してくれー」と情けなく叫びながら帰って行った。
「何だか随分あっけなかったわね」
カザリカがぼそりと呟く。確かにあっけなかった。今の祓い人が弱いのか、昔の祓い人が強すぎたのかわからんが私達は怯えすぎていたようだ。まぁ神様の力を見せられては逃げたくなる気持ちもわからんでもない。
怒ったヒデリ様は普段の穏やかな姿とは比べ物にならないほど怖かった。
私はヒデリ様にぺこりと頭を下げる。
それにつられたように、山の妖かし達も次々とヒデリ様に頭を下げる。
「ヒデリ様のおかげです。ありがとうございました」
「気にすることではないよ。また何かあったら力になろう」
ヒデリ様はそう言って優しく笑い、住処へ帰って行った。
とりあえず祓い人問題は解決。神様に怒られちゃ逃げ帰るほかないでしょうねw