第一章三話「語り合い」
次の日、しーくんはまた元山神様の木の元へ訪れた。
しーくんがきた時間が丁度正午ぴったしだったのでその日は存分に語り合った。語り合ったと言っても、ほとんど私が昔話をしてしーくんがふんふんと聞いていただけだが。
私の年齢を言うと、しーくんはとても驚いた。
「316歳!? そんなに生きてるのか……」
しーくんは17歳だと言った。
昔話を始めると、しーくんは身を乗り出し目を輝かせ、まるで絵本の読み聞かせを聞く小さな子供のように私の昔話を聞く。
その様子が嬉しくて、私は色んな話を聞かせた。
山の妖かし達の力自慢で優勝した話をするとしーくんががたがたと震えたので今はそんな力ないよと言っておいた。
「この桜の木は山神様だったんだ。山神様が消えてしまったからもう花は咲かないけどね」
そう言うと、しーくんは眉を寄せ悲しげな顔をする。
優しい子だなと思った。
私はそっと木を撫でる。優しくて温かい山神様はもう消えてしまったはずなのに、桜の木の中でまだ生きてるような気がした。
1時間ほど話すと、流石に喉がからからになった。
「川の水飲む」
からからの喉でたった一言それだけを発すると、しーくんはこくりと頷く。
それを確認してから私は川のほうへと歩いていく。しーくんも黙ってついてくる。
川に着くと、深呼吸を繰り返し落ち着かせる。えいっと思い切って水の中に手を入れる。
手を入れた瞬間ぞわわわっと鳥肌がたつ。冬の川は心臓が縮み上がるほど冷たい。
手で水を掬い喉に流し込む。
「あー」
潤った喉から自然と声がでる。言ってからおっさんのようだと恥ずかしくなった。
300年以上生きてるが一応女としての恥じらいは持ってるつもりだ。
じわじわと頬が熱くなってくる。
しーくんにバレないようゆっくりと水を飲み頬の熱が治まるのを待つ。
こんなにも話したのは久しぶりで、嬉しくなる。思わず頬が緩まないようきゅっと口元をひきしめる。
その日も日が暮れる頃にしーくんを帰した。
300年生きてても乙女は乙女です。
一日二話ほどのぺースで更新していくつもりです。