第一章二話「友となり」
「ん……」
目を開けると、目の前にあったのは顔。私が手首をがっちりと掴んだはずの男の顔だった。
男は私が目を開いた事に気づくと、ぱんっと私の目の前で手を合わせる。
「ごめん! 俺、パニックになっちゃって……」
あわあわしながら説明してくれたので簡単に説明すると男の振り回した腕が私の後頭部に直撃。気絶した私を見て男正気に戻る。そのまま寝かしとくのもあれだしハンカチとかないししょうがないから自分の膝の上でってことで私は男に膝枕をされている状態、らしい。
「私こそごめんなさい。あんな行動に出てお前を怯えさせてしまった……」
「いや、俺こそ本当にごめん!」
お互いが頭を下げ合い、謝り合戦のようになってしまう。
ようやく2人が落ち着いた頃、ゆっくりと男が口を開く。
「お前……妖かしだよな?」
「そうだよ。とうに力は衰えてしまったけれど」
山神様がいなくなってから私の力はどんどん衰えていった。多分今じゃ人間一人襲うことすらできないだろう。精々返り討ちにされるのが関の山だ。
見える人間でも喰らえば少しは力が戻るだろうか。ちらりとそんなことを考えた。が、相手は高校生ぐらいの男だ。腕力では確実に負けているだろう。今の私は人間で15、6歳ほどの腕力しかない。昔は殴った木が倒れるほど強かったというのに。山の妖かし達の力自慢ではよく優勝したものだ。そんな昔の事を考えると今の自分がほとほと情けない。
「なぁ、いつまでもお前呼びじゃあれだし、名前を教えてくれないか。俺は愁夜」
愁夜の言葉に、少し躊躇ってから、自分の名前を口にする。
「私は……日和」
「じゃぁ、あだ名はひよな」
そう言って笑う愁夜の笑顔がとても眩しくて、何だか悔しくなった。
「じゃぁ愁夜はしーくんね」
とびっきり可愛いあだ名をつけ、意地悪く笑ってやると愁夜……しーくんは苦笑を浮かべ、「可愛いあだ名をありがと」と呟いた。
知り合ったその日はすぐにしーくんを山から帰した。すでに日は落ち、辺りは闇に包まれていて危険なので山のふもとまで送った。
「しーくん……」
初めて人にあだ名というものをつけた。
初めてつけたあだ名は何だかくすぐったくて嬉しくて、帰り道しーくんしーくんと呟きながら一人にやにやとしてしまった。誰かに見られたら赤面ものである。
見上げた空には星達がキラキラと輝いていて、私としーくんの出会いを祝福してくれているようだと思った。
コメディが好きなせいか小説がコメディに走りかけて慌てて自制。ラブコメとか大好きです