道化師のつよさ
まず最初に、綾が動いた
腰を低くし何の躊躇もなくナイフを見せびらかす道化師に突撃をした
要するに、体当たりだ
因みに綾達5人と道化師の距離はそんなに離れていない。というより近い。2歩あるいたらもう手が届く距離だ。それを綾は全力でぶつかりにいった
道化師もこの攻撃には少し驚いた
そう。綾の攻撃は完全に道化師の意表を突いたのだ
しかし、道化師に意表を突いたのは愚策であった
道化師は、表情すらも変えずに右手で突撃してきた綾を殴る
頭で理解するよりも早く動いたのだ
反射神経
人が熱いものに不意にふれたときに思わず手を引っ込めるように道化師は綾を殴り倒したのである
その結果、綾の決死の体当たりは道化師にダメージを与えられずそのまま地面に叩きつけられた
だが綾のすぐ後ろから奈央が刃物、包丁を突きだしていた
綾の影に隠れていて道化師からは見えていなかったが、奈央も綾に一瞬遅れ動いていたのだ
奈央はスカートから取り出した包丁で道化師の首を狙う
完全に決まった!!
唯一全てを理解しながら見ていた守は確信した
道化師は綾を殴り倒した事により態勢が若干崩れている。即座に向かってくる包丁への対処が出来ない
奈央は今、美里がいないこの国ではナンバー1に動きが速い
守の目だからこそとらえられる速さでの攻撃だ。事実、直子と伊藤にはまったく見えていなかった
驚くことに道化師は奈央の動きを目で追ってはいるが、当たる!!
だが0.5秒後、守の確信に満ちた顔は青ざめる
道化師は綾を殴っている。それで態勢が崩れているから守は必ず当たると考えていた
しかしそれは守の希望的観測でしかなかったのだ
道化師は殴って態勢が崩れている状態を元の状態に戻さず逆に勢いを利用し身体を右に傾け包丁をかわし、そのまま奈央の腹にひざ蹴りを食らわした
この間約2秒
そう。これが綾が動き、綾と奈央が戦闘不能にされた時間である
直子と伊藤が今何が起きたか理解するのにその3倍の時間をかけた
そして全員が今起きた全てを理解した
だが誰も喋らない。信じられない現実を目にしたことにより喋ることはおろか動くことすらできなかったのだ
その耳の痛い静寂の中、1人の拍手が響いた
道化師:「That’s great! (最高だ!) さすがだ! あぁさすがだとしか言いようがない!! 素晴らしいぞ2人とも! やはり守る女がいるGirlは強く美しい!!! あぁせめて名前を知りたかった!!」
道化師は大声で笑いながら地に伏した2人を称える
直子:「・・・・あんたが殴った方は『綾』よ。そして蹴りを入れた方は『奈央』」
そんな中、直子が口を開いた
道化師:「・・・・・・へぇ。そんなPrettyな名前だったんだね」
道化師は拍手と笑う事をやめ、口を開いた直子を見つめる
直子:「守、伊藤。下がりなさい」
直子は振り返らず2人に言う
伊藤:「!? な、何を言ってるんですか!?」
守:「お前まさか1人でやろうとしてんのか!? そんなの犬死にだろうがぁ!!」
直子:「・・・もう一度言うわ。・・・・・・・下がりなさい」
直子は振り返り2人をみた
その表情は『怒り』
伊藤と守、いやこの国にいる者は直子の表情を見たことは無かった
直子はいつもヘラヘラ笑っていた。そう、いつもだ
その直子が怒りをあらわにしている
2人はその直子の雰囲気、いや怒気に押され下がる
2人が下がったのを見て直子は前を、道化師を見た
道化師:「へぇ。逃げないんだ。 逃げずにこの僕の前に立ちはだかるんだ? あんなに力の差を見せつけられてなお僕の前に立ちはだかるというんだね!? その心意気やGood!!! さぁ君の名前をTeachくれよぉ!!!!」
直子:「『鈴木 直子』」
道化師:「あぁ!! それがこの僕に逃げずに立ち向かう誇り高き君の名前なんだね!!」
直子:「ハッ!! 生憎私は、大事な国民が目の前で次々倒されて黙っていられるほど恥知らずな人生は送ってない!!」
そう高らかに叫びながら直子は1歩強く踏み込む
道化師はそれを愛おしそうに見ている
その道化師の後ろから横なぎに蹴りが放たれた
道化師は横に大きく吹っ飛ぶ
道化師の後ろにいたのは最初に胸を突かれて倒れていた春夜だった
そう。今迄の一連の流れは全て道化師が後ろの春夜に気づかないようにするための茶番、ミスディレクションだったのだ!!
ミスディレクションとは手品や推理小説などで、観客や読者の注意を、手品の種や事件の真相などからそらすことだ
直子は道化師の後ろで静かに立ち上がった春夜を見て、わざと道化師に自分が次に戦うと誤認させ注意を引き、後ろから静かに近付く春夜に道化師が気づかないようにしたのだ
これは直子が一瞬で考え付いた方法である
他の3人には手で指示をしていた
直子:「ばぁぁぁぁあか!! 私があんたなんかと戦うわけねぇだろ!! 私はハムスターより弱いんだぞ!? そんなのが一瞬でこの国ベスト5に入る戦闘力を持った春夜さんを沈めた奴と正面からぶつかる訳ねぇだろぉぉぉぉおおおがぁっぁぁぁあああ!! クッハハハハハっハハハハハァ!!!!」
守:「台無しだよバカ野郎!!」
表情を怒りから狂喜に変えた直子に守の拳がとぶ
直子:「女の子を殴った!? 最低!」
守:「さっきまであんなにカッコよかったのに戦闘終わってからの小物っぷりが半端ねぇんだよおまえ!! 後お前さっきのクソかっこいい怒りの表情何だったんだよ!!」
直子:「あぁあれ? 怒ってるふり」
伊藤:「す、すごいですね・・・女優でも目指してたんですか?」
直子:「いんや? 私はただB級映画の好きな女子高生だよ? さ、はやく道化師を縄かなんかで縛らないと! 動けない今がチャンスだよ!」
守:「縄かなんかってなんだよ」
春夜:「盛り上がってる所悪いんだけどさ」
3人が勝ちを確信して緊張を解いていると春也が良く通る声で話す
直子:「ん? どうしたん? あ、春夜さんカッコよかったよ! いやぁ惚れるかと思ったね!!」
伊藤:「はい! もうスゴイ蹴りでしたね!」
守:「さすがこの国ベスト5にはいる戦闘力の持ち主だな。あとで手ほどきをうけたいぜ」
3人は今回のMVPである春夜の近くにかけよる
春也はどこか悲しげにはにかみながら道化師を見る
それにつられ3人も道化師を見た
そして春也が、声を紡いだ
春夜:「あの俺の全力の、今迄の人生で最高蹴りね・・・・・・・かわされたよ」
道化師は、仁王立ちし腕を組みながらこちらを見ていた