守るために *守視点
ダジャレじゃないよ
1歩1歩と底知れない女が俺たちに近付いて来る
その動きはとても遅い。まるでテレビでよく見たスローモーションのように歩いて来る
努:「おいおいなんだ? いきなり俺らをバカにしたと思ったらそんなゆったりと歩きだしてよ?」
努が急に動きが不自然なほど遅くなって近付いて来る『道化師』に野次を飛ばす
だが道化師はそんな努の言葉にも何の反応も示さずゆったりとまた1歩、1歩と近付いて来る
春夜:「なんだ? 何を考えている?」
春夜さんは警戒しながら1歩近付く
俺:「春夜さん。下がってください・・・・!」
そこで俺はとても嫌な予感がした。まるで春夜さんが崖に1歩近付いたかのような気がした
このまま春夜さんが歩き続けたら、崖から落ちてしまうような気がする
春夜:「・・・・・・分かったよ」
春夜さんは意外なことに俺の言葉にしたがってくれた
よかった・・・
俺は訳も分からず安心する
そして春夜さんから道化師に目線を戻した
道化師は相変わらず、いや、さっきよりもまた1段と遅い動きで俺たちに近付いてきている
そして俺と道化師は目が合う
奴は、目を輝かせていた
瞬間、悟った
俺たちは崖のすぐそばにいるのではなく、すでに≪落ちていた≫ということに
俺:「皆さがれぇ!!!」
直子:「へぇ!? ちょ、どこ触ってんの!?」
俺は叫びながら近くにいた直子を抱えて後ろに飛ぶ
だが、やはりバランスを崩してしまい後ろに飛ぶと言うより倒れこんだと言った方が良い状態になる
道化師:「It was too bad.(残念でした)」
だが、俺の決死の判断・行動もこいつにとっては遅すぎたみたいだ
道化師は、もう俺の目の前に立っていた
・・・・・・・・やっぱり化け物かよ
クソッ。とんでもねぇのが侵入して来ちまったな・・・
だが、幸いこっちには俺を含めて7人いる
1対7ならいくら化け物だからって勝てるはずだ
すぐに指示を飛ばすため起き上がり、周りを見渡す
そして化け物の力量を見誤った自分を怨む
俺の前にいた、つまり俺よりも道化師に近かった5人のうち2人が倒れていた
伊藤:「・・・・・・え?」
綾:「春夜さん!!?」
奈央:「え? 2人ともいきなりどうしたの? 何かの発作?」
春夜さんは胸を抑えうずくまるように、努は喉を抑え地面に転がっていた
俺:「テメェ・・・!! やりやがったな・・・・!!」
にやにやと笑っている道化師を睨みながら叫ぶ
道化師:「おぉ怖い怖い。なんて眼をしてるんだい? これだから男は大嫌いなんだよ」
道化師はおどけて見せる
直子:「・・・あんた、一体何したのさ?」
俺と一緒に倒れていた直子が、初めて聞くような真面目な声で道化師に問う
道化師:「なにしたのって、ただ男たちを黙らせただけじゃん? 男が発する低い汚い音を聞くのってとてもUnpleasantじゃん? ねぇ?」
・・・・・こいつ何言ってるんだ?
直子:「『男が発する低い汚い音』・・・・。『男の声』のことね?」
おいおいそんなことあるかよ
道化師:「That's right.(そのとおり。)だから感謝してくれてもいいんだぜ?」
そんなことあったよどうしよう
直子:「誰がするもんですか。逆に傷害事件として通報するわ」
道化師:「あらこれは酷い扱いね」
直子:「当然の扱いよ。でも、男達を黙らせたって言っても守が無事よ道化師さん」
直子が俺を指さし言う
道化師:「いやぁビックリしたよね。ほんとLuckyが良いね」
直子:「 Lucky・・・?・・・・あぁ『運』ね。残念だけどこいつは運でこうして無傷でいる訳じゃないわ。何たってあんたが近付いてきた瞬間にはもう後ろに回避行動をとっていたんだから。これって運じゃなくて守の実力じゃないのかしら?」
初めて直子に褒められた。こんな状況じゃなきゃ両手を上げて走り回るくらい嬉しいんだがな
道化師:「いやいや運だよ。だって後ろに跳んでいたって私はもう1歩近付いて喉を突けばいいだけなんだから」
直子:「それが出来ないからこうゆう状況になっているんでしょ?」
道化師:「いや、別に後ろに跳ばれたって私には何にも関係なかったんだけどさ? 『あなた』を抱きしめてとばれるものだから手を出せなかったのよねぇ」
直子:「はぁ? 私がいたから攻撃が出来なかったぁ? それってなどういう意味?」
道化師:「う~ん。そうねぇ・・。Simplicityにいうと私は出来るだけ女性に攻撃したくないのよね」
直子:「・・・・美しい女性のくせして紳士ぶってるんじゃ」
俺:「直子。もうそれ以上喋んな」
直子:「・・・分かったわよ。えぇ。分かってるわよ。あぁもう、気にくわない・・・」
たぶん道化師は気づいている
直子が無駄話をして狂人達がここにつくまでの時間稼ぎをしている事に
確かに直子の言う通り気にくわねぇ
まるで子供の考えた悪戯にわざとひっかかってやっている大人のような余裕が気にくわねぇ
道化師:「あらあらあらあら? 女性の影に隠れて怯えていた男がなぁに強気に出てるのかなぁ?」
道化師がまるで親の仇を前にしたかのような殺気を放ちながら俺に近付く
綾:「守!!」
綾が駆け寄ろうとしてくる
俺:「大丈夫だ!!」
正直すぐに誰かに助けて貰いたい状況だが、これ以上国民を危険にさらすわけにはいかない
俺は、臨時でも一応『国王』なんだ
それに
俺:「あんたは今の一瞬でここにいる全員を殺せた」
道化師:「・・・・ふ~ん。分かってはいるのね」
道化師は相変わらずエグイ目つきで俺を見ているが、感心したように声をだす
奈央:「殺・・・え?」
伊藤:「殺すって・・・。どういうことですか守さん!!」
俺:「いいか考えろ? 喉を突かれた努のすぐ隣には奈央が、胸を押さえ倒れている春也のすぐ後ろには綾が、そして俺と直子の前には伊藤がいる。そしてこいつは誰も動けないうちに一番後ろにいた俺の目の前にいたんだ」
直子:「・・・・・なぁる程ね。ゾッとするわ」
直子は分かったみたいで顔をひきつらせた
俺:「つまりこいつは俺らがあっけにとられてる間に全員をさっきまでジャグリングしてたナイフで喉や胸を刺しまくれたってことだよ」
道化師:「Exactly」
そう言いながら道化師はナイフを見せびらかす
守:「人間の限界超えてますが大丈夫ですか?」
道化師:「いいや。まだ人間レベルさ。『狂人』や、悔しいけど『敗北者』には一歩及ばない」
つまりあと一歩で化け物になるのか・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
『狂人』って『道化師』よりやべーの?
ちょっとこの国の本当の主に恐怖を抱いた瞬間、直子が道化師の顔に蹴りを放つ
守:「お、おい!!?」
直子:「チッ!」
完全な不意打ちだったが、道化師は右手で蹴りを叩き落とした
道化師:「うぅん! いいね、激しい女性は大好きよ?」
綾:「クォラァ!!」
綾が後ろから殴りかかる
が、左手でいなされた
道化師:「うんうん!! こういう思い切りのいい女性も大好きよ?」
奈央:「ッ!!」
奈央が静かに近付き背中にいつも持ち歩いている折り畳みナイフで切りかかる
だが道化師は振り向きもせず足で折り畳みナイフだけを蹴飛ばす
道化師:「フフッ。狡猾な女性も大好きよ?」
そんな余裕を見せる道化師に3つの石が飛んできた
だがやはり、全てかわされる
伊藤:「なんで・・・・ッ!!」
道化師:「『伊藤』って呼ばれてたよね? いやぁナイスコントロール。私は奥手な女性も大好きよ?」
道化師は女性陣の攻撃を全てを無効化して見せた
道化師:「あぁ! こんなに美しく可愛い女性に関われるなんて、生きてて良かったぁ!!」
道化師は自分を攻撃してきた女性を、まるで聖女のような美しい笑顔で見ていた
道化師:「でも」
だが俺を見る目は一貫して冷酷だった
道化師:「男は死ね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・やばい
やばいやばいやばいやばいなんでこいつ初対面の奴にこんな分かるほどの殺気出せるんだよ怖い怖い怖い!!!
そうしておびえて失神しそうな俺の前に4つの影が現れる
綾:「悪いわね。こんな男でも私たちの王なのよね」
奈央:「ここで守さんがやられたら狂人さんに会わせるかおがなくなりますよねぇ・・・!」
伊藤:「私だって、戦えるんですっ」
綾がいつものような調子で言い
奈央が少し楽しげに喋り
伊藤が何かを決意したように言いきる
直子:「ねぇ道化師さん」
そして直子が道化師の目の前まで歩いて行く
道化師:「・・・・・なぁにぃ?」
道化師は先ほどの聖女の笑みから一変、期待を隠せないと言った無邪気な笑顔を見せる
直子の顔は見えないが、きっと道化師と同じ表情をしているように思えた
直子:「勝てる訳ない化け物を前にしても、大切なものを守る為に立ち向かう女性は好きかしら?」
道化師:「Yes!(えぇ!)
I love you with all my heart!!(心から愛しているよ!!!)」
そして、第2ラウンドが始まった