ノゾムの告白
何度目の試みだろうか。鷹志はまた、靴箱の陰に身を隠してマキを待ち伏せていた。いい加減うんざりだ、とぼやきながらも付き合うノゾムが隣にいる。
突然、ノゾムが声を発することもなく鷹志の腕を掴んだ。
「はっ? 何、いきなり?」
鷹志が驚いて彼の顔を見ると、その唇の片端だけがわずかに上がっている。
「いや、今まで失敗してきた理由がわかったよ」
そう言ってノゾムは頷く。もちろん腕を掴んだまま。鷹志がなんだよと声を出すのと、ほぼ同時だった。
「ねぇ、そこ、どいてくれる?」
少し大きめの声が二人に降りかかってきた。聞き間違えるはずもない、マキの声である。鷹志はあまりの驚きに、声を上げることもできずに勢いよく顔を彼女の方へ向けた。
マキは、不機嫌そうに眉をひそめてそこに立っていた。
驚きを隠せないでいる鷹志の横で、ノゾムはにこやかに笑っている。そして、誰も予想しなかったことが起きたのだ。いや、ノゾムが“起こした”が正しい。
「マキちゃん、鷹志が付き合ってほしいんだって!」
「――は?」
マキが怪訝な顔をした。それから鷹志の方を見る。鷹志はと言うと、目を見開いて、ついでに口も開いてノゾムを見ていた。
そんな鷹志の気を知らないでか、ノゾムは鷹志を親指で指しながらマキに、
「付き合ってやってくれない?」
と言った。当然、鷹志はあからさまに“何言ってるんだ”という顔をして、しかし声は出さずにノゾムに顔を向ける。するとマキは、鷹志の方を見ることもせずに呟くように小さな声でこう言った。
「……ごめん無理」