問題児
6月中旬。もうすっかり暑くなり、その陽射しは夏を思わせる。
暑い、という理由で鷹志とノゾムは授業を放棄し、校内で唯一クーラーのあるコンピュータ室に入り浸っていた。
「なぁーノゾム」
回転するイスの上で背もたれに身を委ね、ほぼ仰向け状態の鷹志がやる気のない声を上げる。
「んー?」
一方ノゾムは勝手にパソコンをいじり、この空間を満喫しているようだ。
「俺ってネガティブな子?」
鷹志はそのままの体勢で尋ねた。ノゾムもまた、パソコンの画面から目を離さずにこう答える。
「ネガティブじゃなくて、馬鹿」
鷹志は勢いよく、まさに“飛び起き”た。
「馬鹿じゃねー!」
「あっ馬鹿、でかい声出すなよ」
ノゾムが慌てて言ったが、遅かった。鷹志の声に気が付いた男性教員が隣の情報準備室からやって来て、2人は見つかってしまったのだ。
「逃げろ!」
鷹志が楽しそうに声を上げ、反対側のドアから廊下へ飛び出す。こんなことは日常茶飯事である。
彼らは教員たちに目を付けられている、いわゆる問題児というやつだ。ピアスも茶髪も校則違反、遅刻は当たり前、さらに気分の乗らない日は授業にすら出ない。しかし2人はそれで良かった。楽しければ、それで。
「あいつ足遅すぎ」
2人は逃げ切り、2階の廊下を歩いていた。あいつ、とは先ほどの教員のことである。40過ぎの彼が、普段から走り回っている2人に敵うはずもないのだ。
何気なく体育館の前を通ると、ボールが弾む音が聞こえてきた。互いに
「行くか」
などと声をかけることもなく、自然と足が向く。
ノゾムが、体育館のドアを両手で押し開けた。