水色絵具
くまのトニーとたぬきのチッチは、何をするのもどこに行くのもいつも一緒です。
今日は、森の仲間みんなと湖に絵をかきに行きました。
2匹は大きな切り株に並んで腰掛け、絵をかき始めました。
チッチはトニーに対してひとつだけいやなところがありました。
のんびり屋のくまのトニーは、鉛筆を借りてもすぐに返しません。
消しゴムを借りたらどこかになくしてしまいます。
なかなか返さないトニーに、チッチはものを貸すのがいやになりました。
「ねえチッチ、水色絵具を貸して、水色絵具がみつからない」
「ごめんトニー、いまから空をぬるから水色絵具は貸せないよ」
チッチはうそをつきました。
トニーに貸したら水色絵具がなくなると思ったのです。
うさぎのミミもトラのポルルもきつねのヤンも水色絵具を貸しません。
トニーに貸したら絵具が返ってこないとみんな知っていたのです。
がっかりしたトニーを見ても、チッチはトニーがかわいそうだとは思いません。
借りたものをきちんと返さないトニーが悪いとチッチは思いました。
しばらくして、チッチは緑色絵具が残り少ないことに気がつきました。
このままでは大好きな木々の緑をぬることができそうもありません。
「チッチ、緑色絵具がないの? これ貸してあげるよ」
トニーは絵具をチッチに差し出しました。
トニーの緑色絵具はもう少ししか残っていません。
チッチが使うと絵具はなくなりそうです。
「ありがとうトニー。でもボクが絵具を使うとトニーの絵具は全部なくなるよ」
するとトニーは言いました。
「緑色絵具はチッチにあげる」
その言葉を聞いたチッチは少し考えてこう言いました。
「トニーありがとう。これ使って」
チッチは水色絵具をトニーに手渡しました。
トニーはうれしそうに水色絵具を見つめています。
2匹はお互いの絵具を交換し、絵をぬりはじめました。
トニーは空をぬり、チッチは葉っぱ一枚一枚を丁寧にぬりました。
その様子を見ていた森の仲間たちはみんなでトニーのところに行きます。
「ごめんよ、トニー」
「どうしてみんなあやまるの?」
のんきなトニーの言葉にチッチが笑い出しました。
つられてミミとポルルとヤンが笑います。
いつしか森の仲間みんなが笑い出しました。
笑い声の中で、トニーだけが不思議そうに首をかしげています。
森の仲間はみんな仲良しです。
のんびり屋のくまのトニーはあいかわらず借りたものを返しません。
チッチに借りたものもなかなか返してくれません。
それでもチッチはトニーに対していやなところがなくなりました。
トニーとチッチは仲良しです。