廊下を彷徨うモノ
その夜、僕は化け物の正体を知った。
ある夜、五歳の少年は、ひとりで眠れるようになったことを、誰もがほめた。
パパともママとも、もう添い寝はしない。
「えらいね」――その言葉が、少年の小さな胸に、静かな誇りを植えつけていた。
だが、ある晩から、すべてが変わった。家中が寝静まり、闇が廊下に溶け込む頃、それは現れた。
ギギ…ガガ…。
古い車椅子が、床を軋ませて動く音だ。
誰かが乗っている。恐ろしい――名も知らぬ何者かが。
音は近づいては遠ざかり、遠ざかってはまた近づく。
少年の部屋を、探しているのだ。その日から、少年は眠れなくなった。
母親に打ち明けると、彼女はすぐに一緒に眠ることを決めた。
父親が廊下側に、その隣に母親、そして一番奥に少年。
何かあれば、父親が守ってくれる――そう信じて。
その夜も、音がした。
ギギ…ガガ…。
少年が母親を揺り起こすと、彼女はくすりと笑った。
「お父さんのいびきよ」
確かに、音の源は父親の方から聞こえていた。
少年は暗闇の中で、父親の横顔をじっと見つめた。
いつ、その姿が化け物に変わるのかと。翌日の夜、少年は準備を整えてから床についた。
布団の下に、釘と金槌を隠して。再び、音が始まった。
ギギ…ガガ…。
少年は静かに布団を持ち上げ、釘と金槌を握った。
そして、息を潜めながら、父親の枕元に立った。
闇の中で、父親のいびきは、なおも車椅子のように軋み続けている。
少年の小さな手が、金槌をゆっくりと持ち上げた。
——その先は、誰にもわからない。
読んで頂き有り難う御座います。




