幼馴染、ということは
原稿用紙五枚チャレンジ!五枚に収まりきらなかったよ…。
「そこまで言うなら君たちの誰かが、婚約でも結婚でもしてやれば良い。僕には無理だがね」
呆れと蔑みの入り交じった声と表情に、ディーンに食ってかかっていた友人たちは勢いを無くした。
ディーン・ギボンヌ公爵令息には、幼馴染がいる。
チェリー・フット子爵令嬢だ。
幼い頃は男勝りで闊達だった彼女は、今やすっかり儚げな美少女へと変貌を遂げていた。
そんな美少女が、王都の学園で再会したディーンに、昔のように話しかけたいけど身分差がありすぎて声をかけられない……といった風情で佇み、ディーンを見つめている姿は同情を誘った。ディーンが彼女を視界にも入れないのがまた拍車をかけた。
ディーンにも言い分はある。婚約者が同じ学園にいるのだ。
婚約者とは政略で結ばれた婚約だったが、交流を重ね、互いに信頼し合い、愛と呼べるものも芽生え始めている。
幼馴染だからといって、婚約者に不義理を働いて良い理由にはならないし、せっかく芽生えた愛を摘み取られてはたまらなかった。
だいたい気楽に声をかけられない幼馴染って何だ。公爵家の子息として教育されているディーンは表には出さないものの不愉快だった。チェリーとはたしかに幼い頃には遊んだ仲だが、今現在疎遠な時点で親しくないとわかりそうなものだ。
身分差はあれど他の幼馴染たちとは、学園で婚約者と彼女の友人と共に勉強会などして今も友好を深めている。黙って見つめているだけの女などストーカーだ。
王都の貴族学園は、義務ではない。タウンハウスのない、あるいは旅費や寮費を賄えない地方貴族のための分校が各地にある。
チェリーの実家フット子爵家は、公爵領の端も端にあり、しかも公爵家の分家でも、麾下でもなくなった。王都の本校ではなく近くの分校にすればよいものを、なぜかこちらに来たのだ。
その「なぜ」がディーンに近づくことだとしたら、笑えない話である。
だって幼馴染だ。他人に知られたら自分どころか家にまで影響を与えるだろうあれこれの目撃者だ。子どもの頃はまだ良いが、大人になって――十五歳は大人とはいえないが分別のつく歳になって、改めて聞いたら、友人どころかお付き合いそのものを遠慮したくなる。結婚なんて絶望的だ。そういう関係者だ。
少なくとも恥があればお近づきになろうなんて思わないだろう。
なのにクラスメイトのトゥーモ、ダッチー、マァブの三人が、健気なチェリーに絆されて、義憤を抱いてディーンを責めたのだ。
「いくら婚約者がいるとはいえ、レディを無視するのは紳士のすることではないよ」
「遠くから声かけされるのを待ってるなんて……健気な子じゃないか。可哀そうだよ」
「派閥が違っても、幼馴染なんだろう? 学園でくらい親しくしても良いんじゃないかな。……あんな美少女、放っておいたらよからぬ男の愛人にでもされてしまうぞ」
遠い王都に来て、頼れるのは幼馴染のディーンだけ。事情は知らなくても三人はチェリーの力になりたいと思ったのだろう。あわよくば、という下心があるのは否定できまい。
授業の合間の移動時間。開いた教室のドアの向こうにチェリーが立っている。チラッチラッ、と意味深にこちらを見ている。これのどこが健気で儚げだ。健気と儚げに謝ってほしい。
ディーンは重いため息を吐きながら言った。
「人を殺しかけた令嬢なんて、どれほど美少女でも無理。幼馴染なら何しても許されると思ってるの?」
教室が凍った。
ディーンは淡々と続ける。
「彼女、昔は凶暴で癇癪持ち、おまけに何でも食べる悪癖があったんだ。そこらに生ってる花とかよくわからない実とか。食べたことがないってことは食べられないってわかりそうなものなのに、止めた僕らに「いくじなし」とか言って食べさせようとしてきてさ……女の子だから下手に力ずくで止めるわけにもいかなくて。わかっててやるんだから最悪だったよ」
トゥーモ、ダッチー、マァブがぎこちない動作でドアの向こう――チェリーを見た。チェリーは何を言っているのか聞こえなくても三人がディーンに意見してくれていると気づいたのだろう、嬉しそうな顔をした。
「最終的に癇癪起こして僕の口にカエルを突っ込んできて、幼馴染は終わり。フット子爵家は派閥追放、本人は僕と生涯顔を合わせないことと奉仕活動五年で手打ちになった」
よりによってカエルには毒があった。
微弱な毒であっても今まで蓄積された心労と、無理矢理チェリーに食べさせられてきたモノによる衰弱がコンボを決め、ディーンは死にかけた。
さらに女性恐怖症まで患ったディーンを救ったのが、婚約者である。
まだ幼女といえる頃の婚約者が、政略だからこそ信頼と尊敬を持ってよりそい、尊重し合うべきですわ! と言ってディーンを全肯定してくれた。チェリーを嫌いでも良いと言ってくれた。
子どもだから、幼馴染だから、と娘のやらかしを庇ってきた子爵夫妻も、よりによって主家の嫡男を殺しかけたことは庇いきれなかった。お家取り潰しにならなかったのは、ディーンが回復したことと、女児に負かされたなんてことが知られたら嫡子の資格なしと騒がれかねないからだ。
派閥追放、ディーンとの接見禁止は、勝手に没落しろ、という意味である。公爵家嫡男のディーンと顔を合わせられないということは、チェリーは社交界に出られない。少なくとも貴族との結婚は絶望的だ。
「それなのにあいつと親しく? 冗談じゃない、今度は何を食べさせられるか。カエルくらいで死にかけるなんてホント迷惑! って結局謝りもしなかったんだ、許すことは絶対にないよ。僕も、公爵家もね」
チェリーは廊下の片隅で、目を潤ませ頬を染めてディーンを見つめている。見た目だけなら可憐な美少女だ。
トゥーモ、ダッチー、マァブの三人はその姿にぞっとした。今にも頭がぱかっと開いて中から怪物が出てきそうな怖さがあった。下心は完全に死んだ。
ディーンは三人を見て、息を吸い込み、言った。
「そこまで言うなら君たちの誰かが、婚約でも結婚でもしてやればいい。僕には無理だがね」
幼馴染ってそんなにいいものかな?と思ったので書いてみました。ディーンは公爵家の子ども、の自覚があったけど、チェリーは『自分より弱い=子分』だった。よくあるヒロインに見る天真爛漫で無邪気で気さくな少女のはずなのにどうしてこうなった…。
チェリーにとってディーンは初恋だけど、ディーンにはわけわかんない怪獣でしかなかった。
ギャグにするにはパンチが足りずその他ジャンル。




