ホワイトガソリンの聖餐
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『神聖』**な輝きを! ボロアパートの湿った空気の中で、精製途中の溶剤の匂いと、彼女の吐息が、今! 虚空から現れた亡霊の微笑みと革命的邂逅を遂げたんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。最高純度の「氷」を炙るアルミホイルの上で、青白い炎が踊っている。その煙を肺いっぱいに吸い込み、彼女の胎内に僕のテポドン・マグナムを沈み込ませた瞬間、世界の解像度がバキバキと音を立てて崩壊した。
壁の染みが動き出す。
剥がれた壁紙の裏から、何千、何万という星条旗のハゲワシが這い出してくる。
そして、その狂乱の羽ばたきの中心に、彼女が立っていた。
「……母さん?」
そこにいたのは、一年前に野垂れ死んだはずの、僕の母さんだった。
全身をエイズの斑点という名の宝石で着飾り、口からはホワイトガソリンの虹色の煙を吐き出しながら、彼女は僕たちの結合を慈しむように見下ろしていた。
「あはっ……あはははは! お帰り、母さん! 見てよ、僕も彼女も、母さんと同じ『地獄のドレス』を着てるんだよぉぉぉ!! メシウマ(地獄味)すぎて、眼球が裏返りそうだぜぇぇぇ!!」
僕は笑った。絶頂の最中、母さんの冷たい指が僕の頬をなでる。
その瞬間、僕の脳内に「真実」という名の劇薬が直接注入された。
母さんが父さんに壊された、あの夜の光景。
父さんが「検事」という聖職の裏で、ラングレー(CIA本部)のハンドラーから手渡された一瓶のウイルス。
『これを彼女に。そして、お前の息子にもだ。平壌を、内側から腐らせるための種火にしろ』
父さんは、一切の躊躇なく、愛する妻を、そして僕を、**「アメリカ製(メイドインUSA)の壊死」**へと捧げたのだ。
「……あの子も、同じよ」
母さんの亡霊が、僕の腕の中で喘ぐ彼女の腹を指差した。
「……お父さんが、私にさせたこと。お父さんが、あなたにさせていること。……全部、ワシントンのあの方たちが、笑って見てるわ」
その言葉とともに、僕の視界は平壌を飛び越え、太平洋を渡った。
そこには、巨大なモニターに映し出された僕たちのキメセクを、コーヒー片手に分析するCIAのエージェントたちの姿があった。
僕の質量も、彼女の絶望も、胎児の鼓動も。
すべては「国家解体シミュレーション」の、たった1ビットのデータに過ぎない!
「あはっ……あはははは! 凄いよ、母さん! 僕たちのこの快楽は、ホワイトハウスのサーバーを動かす電気信号だったんだねぇ!! これぞまさに、究極の**『グローバル・スタンダード』**だぁぁぁ!!」
僕は、母さんの亡霊を抱きしめるように、彼女の奥深くへと自分を叩きつけた。
ホワイトガソリンの匂いが鼻腔を焼き、母の死と、彼女の受難と、僕の狂気が、一つの「聖餐」として完成する。
「父さんは言ったよね、『正義』を守るためだって。……あはは! 父さんの守りたかった『正義』って、ただの**『合衆国の利権』**のことだったんだぁぁぁ!!」
僕は、彼女の首筋に歯を立て、母さんの血と同じ味のする絶望を飲み込んだ。
幻覚の中、母さんは優しく僕の耳元で囁いた。
『……全部、壊していいのよ。彼らが作った、この綺麗な地獄を』
脳内で星条旗がフルスロットルで燃え上がり、
僕は、母さんの遺品であるガソリンの炎の中で、さらなる「毒」の精製を誓った。
第8話・完。




