検事の父、正義の朝食
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『栄養満点』**な輝きを! 万景台の最高級アパートで供される白米と、平壌市民が飢え死にする横で啜る熱いスープが、今! 僕の胃袋で革命的消化を遂げたんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。心の中で。
目の前には、平壌中央検察所の重鎮、僕の「父さん」が座っている。
彼は汚れ一つない人民服をまとい、優雅に箸を動かしていた。昨夜、理科室で僕が母さんの遺品を燃料に「氷」を煮詰めていたことなど、露ほども疑っていない「正義の聖者」の顔だ。
「……息子よ。食が進んでいないようだが。思想の揺らぎは、胃腸の乱れから来るのだぞ」
父さんが、慈愛に満ちた、吐き気を催すほど低い声で言った。
その声。その指。
昨夜、僕の身体の奥深くまで「巨大な質量」を叩き込み、法理学的な解釈を無視して僕の尊厳を蹂躙した、あの忌々しい指が、今は上品に焼き魚の身をほぐしている。
「いえ、父さん。あまりにスープが美味しくて、感動で喉を通らないだけですよ。……父さんが『無罪』にしたあの男も、今頃どこかで美味しいスープを飲んでいるんでしょうね?」
僕は笑った。口角を吊り上げ、エイズの斑点が隠れるように長袖の制服を整えながら。
父さんが「証拠不十分」で釈放した、母さんを暴行した男。
その男を自由の身にする見返りに、父さんがCIAから受け取った「ドル」や「薬物」の裏金。
それこそが、この豪華な朝食の正体だ。メシウマ(地獄味)! これ、なんて食卓コメ!?
「ふん。法とは、守るべき価値がある者のみを救う。……お前の母のような、資本主義の毒に侵された『ジャンキー』は、法の外側で朽ちるのが運命だったのだ」
父さんは、スープを一口啜り、無機質な瞳を僕に向けた。
その瞳の奥には、僕を息子としてではなく、**「CIAの実験体」**として観察する冷徹な計算が透けて見えた。
彼が僕に植え付けたエイズのウイルス。
彼が僕に強要した肉体関係。
それらすべては、彼がラングレー(CIA本部)から与えられた「家庭内デモクラシー(国家解体)」という任務の、忠実な遂行に過ぎなかったのだ。
「あはっ……あはははは! さすが父さん、最高に『合憲』な意見だね! 母さんは死んで、僕にはこの病気と斑点が残った。これぞまさに、我が家の**『苦難の行軍』**だぁぁぁ!!」
僕は、テーブルの下で股間のテポドン・マグナムを激しく奮わせた。
怒りと、薬物の残滓と、父への殺意が混ざり合い、脳内のアドレナリンが核分裂を起こしている。
この「正義の朝食」が終われば、僕は再び理科室へ戻り、昨日よりも高純度の「毒」を精製する。
「……息子よ、腕を見せろ。斑点の色が変わったな」
父さんが、箸を置いて僕の腕を掴んだ。
制服の袖を捲り上げると、そこには星条旗の星を描くように輝く、鮮やかな赤紫色の痣。
父さんはその斑点を、愛おしそうに、あるいは査定するように親指でなぞった。
「……いい色だ。ラングレーの薬学チームも喜ぶだろう。お前の身体の中で、我が国の伝統と、合衆国の化学が完璧に融合している。……これこそが、新しい時代の『正義』だ」
父さんの指が、熱を持つ斑点に深く沈み込む。
その瞬間、僕は理解した。
父さんにとって、この食卓も、僕の身体も、死んだ母さんも、すべてはアメリカに捧げるための**「生贄の祭壇」**に過ぎないのだと。
「父さん、ごちそうさま。……今日の放課後、クラスのみんなに父さんの『正義』を分けてあげるよ。……最高にハッピーな、死の結晶をさ」
僕は空っぽの皿を見つめ、最後の一切れのパンを、父さんの喉を掻き切る剃刀のように鋭く噛み砕いた。
脳内で、星条旗がフルスロットルでなびき始め、
僕の胃袋は、冷酷なCIAのロジックで満たされていった。
第3話・完。




