母さんの遺品(マネー)とガソリン
「……ッ、はぁ、はぁ……! 燃えてる……。僕の思い出が、母さんの最後の下着の匂いが、青白い炎の中で踊り狂ってるんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。理科室のビーカーの中で、溶剤がグツグツと地獄のスープのように煮え立っている。
その燃料にしているのは、昨夜、母さんの亡骸が転がっていた大同江沿いの裏路地から、泥にまみれて回収してきた数枚の**北朝鮮円**だ。
この汚れた紙幣。
それは、父さんが検事のバッジを光らせて「正義」を説いている間、母さんがヤミ市の影で、党幹部や兵士たちにその枯れ果てた肉体を売り払って手に入れた、血と膿の結晶だ。
「いいかい、母さん……。母さんが僕を食べさせるために、あの豚みたいな幹部どもに股を開いて稼いだこのお金が、今、世界を破滅させるための**『革命的エネルギー』**に変換されてるよ! メシウマ(地獄味)すぎて涙が出るねぇ!!」
僕は、理科室の棚からくすねたホワイトガソリンを、一滴ずつ慎重に投下していく。
その瞬間、シュアアアアッ! という景気のいい音と共に、母さんの記憶が蒸発していく。
母さんは、かつては平壌でも指折りの美貌を誇る「歌劇団」のスターだった。
けれど、父さんの「欲望」の餌食になり、エイズという消えない呪いを植え付けられてからは、急速にその輝きを失っていった。
父さんは検事の権力を使って、母さんの病状を「思想的堕落による性病」と公文書に記録し、家庭内での暴行を「革命的指導」と呼び変えた。
「『息子よ、これが国家を支える規律だ』……なんてさ、父さんは僕を犯しながら、耳元で愛を囁くように言ったんだ。法理学的には完全犯罪だよね! 証拠は僕の身体の中に、このエイズの斑点の中にしかないんだから!」
僕は、自分の腕に浮かび上がった**星条旗の星(エイズの痣)**を愛おしく撫でた。
これが熱を持つたびに、僕の脳内ではドーパミンが臨界点を突破する。
母さんの遺品であるガソリンの匂いが、僕の肺胞を一つ残らず蹂躙し、支配していく。
「見てよ、この抽出液の色! 母さんの絶望を煮詰めると、こんなに透き通った**『純愛』**な青色になるんだね!」
僕は狂ったように笑いながら、濾過用のネル生地を絞った。
滴り落ちる液体は、母さんが最後に流した涙よりもずっと重く、そして甘美な死の香りがした。
父さんが捏造した「母さんは薬物中毒者だった」という嘘。
それを「真実」にするために、僕は母さんの死体から剥ぎ取った金で、本物の毒を作っている。
これこそが、息子としての最高の孝行(親不孝)ではないか!
「あはっ……あはははは! 脳内で千里馬が、千里馬が音速を超えて駆けていくぅぅぅぅ!!」
精製は最終段階に入った。
この液体を再結晶化させれば、世界で最も邪悪で、最も美しい「氷」が誕生する。
母さんが売春で手に入れたガソリンと、父さんが僕に植え付けたエイズのウイルスが、このフラスコの中で一つに溶け合う。
「父さん、待っててよ。明日、母さんの葬式の代わりに、この学校を、この平壌を、最高にハッピーな**『収容所』**に変えてあげるから!」
僕は、沸騰するビーカーの煙を肺いっぱいに吸い込み、理科室の冷たい床に倒れ込んだ。
股間のテポドン・マグナムが、勝利を確信するようにドクン、ドクンと激しく脈動している。
第2話・完。




