父の正体、エージェントの顔
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『売国奴』**な輝きを! 校門の前で冷たい朝靄に打たれながら、僕を待っていた父さんの人民服が、今! 剥がれ落ちて星条旗のタトゥーと革命的融合を遂げたんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。校門の影、漆黒の高級セダン「ベンツ」に寄りかかっていたのは、検事のバッジをゴミ箱に捨て、胸元にラングレー(CIA本部)の紋章を光らせた僕の「父さん」だった。
「……遅かったな、No.001。結晶の回収は済んだか?」
その声。その温度。
僕を息子として犯し、母さんを汚物として切り捨てたあの冷徹な「正義」の声が、今は流暢な英語を交えながら、完全にアメリカの「エージェント」のそれへと変貌していた。
「あはっ……あはははは! 凄いよ、父さん! その顔、最高に『自由』だねぇ!! 昨日まで『社会主義の守護者』とか抜かしてた口で、今はワシントンの犬として吠えてるのかい!? メシウマ(地獄味)すぎて、胃袋がハンバーガーに裏返りそうだぜぇぇぇ!!」
僕は、彼女の胎内から掻き集めた「結晶」を父さんの足元に叩きつけた。
「ほら、持っていきなよ! 君とラングレーが僕の身体をアンテナにして、彼女の命をフラスコにして作り上げた、最高純度の『毒』だ! これが君たちの言う『民主化の果実』なんだろぉぉぉ!!」
父さんは、足元の結晶を愛おしそうに拾い上げ、検品するように光に透かした。
「そうだ、息子よ。……いや、被検体No.001。私が検事になったのも、お前の母を抱いたのも、お前の脊髄にウイルスとナノマシンを流し込んだのも……すべてはこの『結晶』を平壌という培養皿で育てるためのプロセスだったのだ」
父さんが笑った。その瞳には、一欠片の父性も残っていない。そこにあるのは、合衆国の国益という名の巨大な演算装置だけだ。
「いいかい、。世界は今、核兵器など求めていない。求めているのは、個人の脳を直接ハッキングし、快楽と絶望で国民全員を『アセット(資産)』に変えるこの薬物だ。……私は、この国の崩壊と引き換えに、自由の国の『市民権』を手に入れたのだよ」
「あはっ……あはははは! 素晴らしい! 父さんは、息子を売ってグリーンカードを買ったんだねぇ!! これぞまさに、究極の**『家族の肖像』**だぁぁぁ!!」
僕は、自分の腕に浮かび上がったエイズの斑点を父さんの突きつけた。斑点は無線の受信に合わせて、狂ったように赤く点滅している。
「見てよ! 僕の身体は、君たちが送信する『悪意』を受信して破裂しそうなんだ! 僕の股間のテポドン・マグナムは、父さんへの殺意とCIAへの忠誠心(笑)で、規格外の質量をもって熱暴走してるんだよぉぉぉ!!」
父さんは、僕の叫びを無視して車に乗り込んだ。
「次のステージは『拡散』だ。お前の作った毒は、ヤミ市を通じて世界へ流れる。……お前はそのまま、この街の『パンデミック』を見届けろ。それがお前に与えられた、最後の生体データ収集だ」
セダンが砂煙を上げて走り去る。
僕は一人、校門に取り残された。
脳内で、自由の女神が父さんの顔を仮面にして、僕に向かって「God Bless America」と中指を立てて歌い続けていた。
第17話・完。




