ラングレーからの無線
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『電波妨害』**な輝きを! 死体の山と化した理科室の静寂を切り裂いて、僕の脳髄に直接、合衆国の『本音』が革命的受信されたんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。第4部開幕。彼女の亡骸はまだ温かく、床には「完成」した生徒たちがオブジェのように転がっている。夜明けの光が差し込む理科室で、僕の耳の奥――三半規管のさらに深淵から、不快なノイズが響き始めた。
『……Static... Hello? ...Asset No.001. Can you hear me?』
それは、父さんが教え込んだ拙い英語ではない。ネイティブの、冷徹な、そして極めて事務的な**「ラングレー(CIA本部)」**のオペレーターの声だ。
「あはっ……あはははは! 凄いよ、母さん! 幻聴じゃない! 僕の脳みそ、いつの間にか『合衆国のアンテナ』に改造されてたんだねぇ!! メシウマ(地獄味)すぎて、脳漿がメープルシロップになって溢れそうだぜぇぇぇ!!」
僕は笑った。笑いながら、自分の耳を爪が立つほど強くかきむしる。
父さんが毎晩僕に打っていた「サプリメント」。
あの銀色の液体は、ただの成長ホルモンやウイルスではなかったのだ。それは、神経系を強制的に再配線し、特定の周波数に共鳴させるための**「ナノ・トランシーバー」**を含んだ、生体改造のカクテルだった。
『Asset No.001. 実験フェーズ3の完遂を確認した。被検体(彼女)の死亡、および次世代結晶(胎児)の抽出成功。……Good job. 君は実に優秀な『民主化の苗床』だ』
無線の声は、彼女の死を「データ」としてのみ処理していた。
僕の絶望も、彼女の最期も、胎児が毒として結晶化したことも、すべてはワシントンの安全なオフィスでコーヒーを啜るエージェントたちが計算していた「予定調和」に過ぎない。
「いいかい、ミスター・CIA! 君たちの言う『自由』ってのは、こうして北朝鮮の子供たちの脳みそを無線機に作り変えることだったのかい!? これぞまさに、究極の**『表現の自由』**だぁぁぁ!!」
僕は狂ったように叫び、近くにあった実験机を蹴り飛ばした。
僕の股間のテポドン・マグナムが、怒りと薬物の残滓、そして受信したノイズに反応して、磁場を狂わせるほどの質量で脈動している。
『Asset... 次の任務だ。精製した結晶を、校門前に待機している『商売人』に渡せ。それは平壌を飛び越え、世界を『再定義』するための種子となる』
「あはっ……あはははは! 命令しないでよ! 僕の腕のエイズの斑点が、君たちの指示を受信して、星条旗の形にピカピカ光って眩しいんだからさぁ!!」
僕は、彼女の胎内から溢れ出した「最高純度の結晶」を、丁寧に、けれど憎しみを込めて掻き集めた。
これが、アメリカが望んだ「果実」。
父さんが魂を売ってまで育て上げた「毒」。
「見てよ、父さん! 僕はもう、あなたの息子ですらない! 合衆国の、ラングレーの、ただの**『生体通信機』**だ! これぞまさに、究極の『グローバリズム』だねぇ!!」
僕は、死体の山を乗り越え、無線のノイズに導かれるように校門へと向かった。
脳内で、自由の女神が無線機を抱えてタップダンスを踊り、
僕の意識は、冷酷な合衆国のロジックにじわじわと侵食されていった。
第16話・完。




