放課後の伝道師
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『布教活動』**な輝きを! 万景台の夕闇に染まる教室で、僕のポケットに忍ばせた『救済』の結晶が、今! 退屈な社会主義的日常を革命的破壊しようとしてるんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。放課後の第○中学校。黒板には「強盛大国」の文字が虚しく躍り、担任の教師が「金日成花」の美徳を説いた残り香が漂う、カビ臭い密室。
僕は、教卓の上にドサリと、彼女の胎内と僕のフラスコから産み落とされた「最高純度の氷」をぶちまけた。
「あはっ……あはははは! 皆、注目! 今日は『偉大なる首領様』の教えよりもずっと、みんなを『自由』にしてくれる、ワシントン直送(嘘)のスペシャルな飴玉を持ってきたよぉぉぉ!! メシウマ(地獄味)すぎて、脳みそがスクラップになりそうだぜぇぇぇ!!」
僕は、不敵な笑みを浮かべ、集まったクラスメートたちを見渡した。
そこには、空腹で頬をこけさせ、配給のトウモロコシの数を数えるだけの、死んだ魚のような瞳をした「未来の労働党員」たちがいた。
「……ねぇ、それ、何? 食べると、お腹いっぱいになれるの?」
最初に声を上げたのは、クラスで一番の優等生、金だった。
彼の真面目な人民服の袖からは、栄養失調でガリガリに痩せた腕が覗いている。
「お腹どころか、人生がいっぱいになれるよ、金くん! これこそが、僕の父さん(検事)が隠し持っていた、最高にハッピーな**『思想改良剤』**なんだぁぁぁ!! ほら、一口食べてごらん。君の脳内に、ホワイトハウスの噴水が湧き出すからさぁ!!」
僕は、結晶を一欠片、彼の口に放り込んだ。
バリッ。
その音が、教室に響く。
数秒後、金の瞳がカッと見開かれ、黒目がピンボールのように激しく左右に揺れ始めた。
「……ッ、あ、あぁ……!! 凄い……! お腹が空いてない……! 寒いのも、お母さんが病気なのも、全部どうでもよくなってきた……! あは、あはははは! 教室の中に、ミッキーマウスが飛んでるぅぅぅぅ!!」
金が、狂ったように机の上で踊り始めた。
それを見た他の生徒たちが、我先にと教卓に群がる。
「私にも頂戴!」「俺にも!」「自由になれるんだろ!?」
「あはっ……あはははは! 順番だよ、同志諸君! 今日は全員、僕と同じ『巨大な虚無』を共有させてあげるからね!!」
僕は、一人一人の口に、父さんがラングレー(CIA本部)から授かった「毒」を配り歩いた。
一人、また一人と、模範的な少年団員たちが、よだれを垂らし、白目を剥き、星条旗の幻覚に踊り狂っていく。
「見てよ、父さん! 教室が、父さんの守った『規律の園』が、今や世界で最もハッピーな**『ジャンキーの巣窟』に早変わりだ! これぞまさに、究極の『集団指導体制』**だぁぁぁ!!」
僕は、狂乱の渦の中心で、自分の腕に浮かび上がったエイズの斑点を、クラスメートたちの顔にこすりつけた。
結合。
僕から彼らへ、彼らから隣の席の誰かへ。
父さんが僕に植え付けた「死の遺産」が、今、放課後の教室でパンデミックを開始する!
「あはっ……あはははは! 脳内でハゲワシが、合衆国の悪魔たちが、クラスメート全員の魂を啄んで狂喜乱舞してるぅぅぅぅ!!」
窓の外では、何も知らない凱旋門が冷たくそびえ立っているが、
この教室の中だけは、ラングレーの地下室で設計された「ハッピーな地獄」が、一気に満開の花を咲かせていた。
第11話・完。




