表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/15

放課後の伝道師

「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『布教活動ミッショナリー』**な輝きを! 万景台の夕闇に染まる教室で、僕のポケットに忍ばせた『救済』の結晶が、今! 退屈な社会主義的日常を革命的破壊マリアージュしようとしてるんだぁぁぁぁっ!!」


僕は叫んだ。放課後の第○中学校。黒板には「強盛大国」の文字が虚しく躍り、担任の教師が「金日成花キムイルソンファ」の美徳を説いた残り香が漂う、カビ臭い密室。


僕は、教卓の上にドサリと、彼女の胎内と僕のフラスコから産み落とされた「最高純度のビンカ」をぶちまけた。


「あはっ……あはははは! 皆、注目! 今日は『偉大なる首領様』の教えよりもずっと、みんなを『自由』にしてくれる、ワシントン直送(嘘)のスペシャルな飴玉を持ってきたよぉぉぉ!! メシウマ(地獄味)すぎて、脳みそがスクラップになりそうだぜぇぇぇ!!」


僕は、不敵な笑みを浮かべ、集まったクラスメートたちを見渡した。

そこには、空腹で頬をこけさせ、配給のトウモロコシの数を数えるだけの、死んだ魚のような瞳をした「未来の労働党員」たちがいた。


「……ねぇ、それ、何? 食べると、お腹いっぱいになれるの?」


最初に声を上げたのは、クラスで一番の優等生、キムだった。

彼の真面目な人民服の袖からは、栄養失調でガリガリに痩せた腕が覗いている。


「お腹どころか、人生がいっぱいになれるよ、金くん! これこそが、僕の父さん(検事)が隠し持っていた、最高にハッピーな**『思想改良剤』**なんだぁぁぁ!! ほら、一口食べてごらん。君の脳内に、ホワイトハウスの噴水が湧き出すからさぁ!!」


僕は、結晶を一欠片、彼の口に放り込んだ。

バリッ。

その音が、教室に響く。

数秒後、金の瞳がカッと見開かれ、黒目がピンボールのように激しく左右に揺れ始めた。


「……ッ、あ、あぁ……!! 凄い……! お腹が空いてない……! 寒いのも、お母さんが病気なのも、全部どうでもよくなってきた……! あは、あはははは! 教室の中に、ミッキーマウスが飛んでるぅぅぅぅ!!」


金が、狂ったように机の上で踊り始めた。

それを見た他の生徒たちが、我先にと教卓に群がる。


「私にも頂戴!」「俺にも!」「自由になれるんだろ!?」


「あはっ……あはははは! 順番だよ、同志諸君! 今日は全員、僕と同じ『巨大な虚無』を共有シェアさせてあげるからね!!」


僕は、一人一人の口に、父さんがラングレー(CIA本部)から授かった「毒」を配り歩いた。

一人、また一人と、模範的な少年団員たちが、よだれを垂らし、白目を剥き、星条旗の幻覚に踊り狂っていく。


「見てよ、父さん! 教室が、父さんの守った『規律の園』が、今や世界で最もハッピーな**『ジャンキーの巣窟』に早変わりだ! これぞまさに、究極の『集団指導体制』**だぁぁぁ!!」


僕は、狂乱の渦の中心で、自分の腕に浮かび上がったエイズの斑点を、クラスメートたちの顔にこすりつけた。

結合。

僕から彼らへ、彼らから隣の席の誰かへ。

父さんが僕に植え付けた「死の遺産ウイルス」が、今、放課後の教室でパンデミックを開始する!


「あはっ……あはははは! 脳内でハゲワシが、合衆国の悪魔たちが、クラスメート全員の魂を啄んで狂喜乱舞してるぅぅぅぅ!!」


窓の外では、何も知らない凱旋門が冷たくそびえ立っているが、

この教室の中だけは、ラングレーの地下室で設計された「ハッピーな地獄」が、一気に満開の花を咲かせていた。


第11話・完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ