理科室のプロメテウス
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『主体』**的な輝きを! 万景台の理科室からくすねたフラスコと、母さんがヤミ市で命懸けで手に入れたガソリンが、今! 平壌の凍てつく夜に革命的マリアージュを遂げたんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。氷点下二十度を下回る平壌の冬。暖房などというブルジョワな文明の利器が存在しない暗黒の教室で、僕は独り、理科室のバーナーから立ち上る青い炎を見つめていた。
視線の先にあるのは、耐熱ガラスの底で静かに、けれど凶暴に析出しつつある純白の結晶。
それこそが、父さんが法廷で「捏造」し、母さんを死に追いやり、そして僕の人生を極彩色の地獄へと叩き落とした、最高純度のメタンフェタミン――平壌市民が密かに「氷」と呼ぶ、禁断の果実だ。
「あはっ……あはははは! 綺麗だ……。これが、父さんが守り抜いた『正義』の正体なんだね?」
僕は笑う。笑うたびに、ひび割れた唇から薄い血が滲み、白い粉末の上に滴り落ちた。
鏡を見るまでもない。僕の身体は今、自分でも制御不能なほどの**「巨大な質量」**へと膨れ上がっている。
まず、股間。検事である父さんから遺伝した、この忌々しいまでのテポドン・マグナム。中学生という枠組みを完全に無視したその規格外のサイズは、もはや武器だ。法理学的には正当防衛の範囲を超えているし、物理学的には重力に逆らっている。これが僕の身体を内側から引き裂くように脈打っている。
そして、皮膚。
僕の腕には、宝石を散りばめたようなエイズの斑点が、不気味な星座を描いている。
これは、父さんが家庭内で僕を犯し、直接植え付けた「死の遺産」だ。母さんも同じ斑点に全身を覆われ、昨年の春、ヤミ市の裏路地で野垂れ死んだ。父さんが法廷で「彼女はジャンキーの売春婦であり、自業自得である」と高らかに宣言した、その舌の根も乾かぬうちに。
「正義の番人が、家では悪魔の種蒔き係かよ……。最高に笑えるジョークだよね、これ」
僕はフラスコを振り、不純物を飛ばす。
ホワイトガソリンの刺激臭が鼻腔を突き抜け、脳内のドーパミンが勝手に溢れ出す。
この匂いは、母さんが死ぬ間際、身体を売ってまで僕に食べさせてくれたトウモロコシ粥の匂いよりも、ずっと僕を「生」へと繋ぎ止めてくれる。
「見ててよ、母さん。父さんが『嘘』にしたこの結晶を、僕が『真実』に変えてあげる」
僕は、完成したばかりの結晶を一欠片、指でつまんで口に放り込んだ。
バリッ、と硬い音がして、猛烈なアンモニアの苦味と、脳が電子レンジで加熱されたような衝撃が全身を駆け抜ける。
「……ッあ、あぁぁぁぁぁぁ!! 脳内で人工衛星(光明星)が五基同時に打ち上がってるぅぅぅぅ!!」
視界が真っ白に染まる。
エイズの痛みが消え、空腹が消え、絶望さえもが「最高のエンターテインメント」に変わる。
僕は、理科室の床に転がっていた父の古い法律書を、迷わずバーナーの火にくべた。
「法なんていらない。正義もいらない。必要なのは、この結晶と、僕の中に流れるこの『毒』だけだ」
僕は、理科室の窓から外を見下ろした。
遠くには、偉大なる首領様の銅像がライトアップされ、虚飾の平和を演じている。
けれど、この第○中学校の理科室から、新しい「太陽」が昇ろうとしていた。
それは、アメリカのCIAが密かに望み、父さんが保身のために作り上げ、そして僕が完成させた――世界を焼き尽くすための**「暗黒のプロメテウスの火」**。
「さあ、始めよう。平壌からワシントンまで、全員まとめて『有罪』にしてあげるからさ」
僕はポケットいっぱいに結晶を詰め込み、闇に沈む校舎の階段を駆け降りた。
僕の股間のマグナムが、そして腕の斑点が、興奮で熱く、熱く燃え盛っている。
第1話・完。




